値上がり食品 2020年夏

「小麦粉が本当に売れています。今まで長く商売をやっていますが、小麦粉がこんなにヒットするのは過去最高だと思います」

 東京・墨田区、スカイツリーのおひざ元で下町の胃袋を支えている『スーパーイズミ』の五味衛社長は、仕入れるそばから品薄状態になるホットケーキミックスなどの小麦粉製品の売れ行きに首をひねる。

小麦粉関連が追いつかず

 新型コロナウイルスの感染拡大の中で、マスクや消毒用アルコール、トイレットペーパーが“パニック買い”の対象になり、フリマアプリやオークションサイトなどで高値転売される事態を巻き起こした。マスクや消毒用アルコールの転売はすぐさま法律で禁止されたが、品薄状態は今、食料へと拡大しつつある。

 そのひとつとして、小麦粉がスーパーやコンビニの棚から一斉に消えるという異常事態が発生。菅義偉官房長官が今月、「原料の小麦粉の国内備蓄はある」「落ち着いた購買行動をお願いしたい」と呼びかける一幕もあった。

 食品問題評論家の垣田達哉さんは、

「小麦粉関連商品の需要は強く、供給が追いついていない」

 と実態を伝える。

 食料自給率が4割を切る日本。なかでも小麦は9割が輸入に頼っている食糧だ。農林水産省はホームページで、

《食料品は十分な供給量・供給体制を確保しています。コメや小麦の備蓄についても十分な量が確保されています。海外からの輸入が滞っているということもありません》

 と沈静化を呼びかけたが、本当だろうか。

 子どもたちは休校、大人たちはテレワークに切り替わり、簡単なおやつ作りに役立つホットケーキミックスの需要が高まった。ツイッターには「ホットケーキミックスが売り切れだ」「入手困難…」「重曹も売り切れ」「しまいにはバターも売り切れ」と、消費者の叫びが続々つぶやかれる……。

「国内の巣ごもり消費が多くて、供給が間に合っていません。輸入量は例年どおりで、前年と同じくらいアメリカやカナダから入っていますが、製粉して商品にするまで時間がかかるので、需要の増加に対応しきれていないのです。この状況はしばらく続きます」

 と前出・垣田さん。うどん、パスタ、冷やし中華、ラーメン、そばなど麺好きの国民にとって、小麦粉不足は一大事だ。

 同じく巣ごもり消費で品薄になる商品があるようで。消費生活アドバイザーの丸山晴美さんは、

「バターが不足しています。巣ごもりでケーキを焼く人が増えているんです。製造機械などの関係で、バターの出荷量は簡単には増やせません」

 と指摘する。

野菜・果物・お肉は?

 緊急事態宣言は、野菜の価格にも影を落としている。農林水産省が5日に発表した野菜販売価格調査では、キャベツ、キュウリ、トマト、なすが平年より高値に上昇した。

 資源・食糧問題研究所代表の柴田明夫さんはずばり、

「巣ごもり消費で需要が高くなったからです」

 収穫事情も価格に影響していると、こう訴える。

「日本の農業は外国人技能実習生に依存しているのですが、新型コロナの影響で彼らが来日できずに、収穫のための労働力が確保できていません」

 世界的に人の行き来が途絶えてしまった影響が、日本の産地に及んでいるのだ。不作でも何でもない。新型コロナウイルスが明らかにした日本の脆弱な食糧事情を、柴田さんは憂える。

「国内での地産地消を意識しないと、食料不足問題はいつでも起こりかねません。これを機会に、安定的な働き手の確保を考えるべきでしょう。安ければいいという考え方を見直して、適正価格を見極め、地域の農産品を買い支えていかなければならない。消費者も変わっていく必要があると思いますよ」

 新型コロナウイルスの世界的感染は、輸入フルーツの前にも立ちはだかっている。

 前出・垣田さんが再び伝える。

「サプライチェーン(供給網)がうまく機能していないので、100%輸入のバナナなどには影響が大きい。輸入の大半を占めるフィリピン産のバナナは、現地で出荷や梱包の生産体制がうまくいっていないため、輸入量が減少し値段が高くなっています」

 アメリカ、オーストラリアからの輸入牛に関しては、

「今のところそれほど量は減っていません。アメリカ国内向けの食肉工場は新型コロナの影響を受けていますが、日本への輸出分を加工する工場はまだ閉鎖されていません」

 と垣田さん。ただし、

「工場が閉鎖になれば、安価な輸入肉に影響が出てきます」

 と警鐘を鳴らし、両国以上に注意深く見守るべき国の名を口にする。

「ブラジルです。鶏肉はブラジルからの輸入が多くなっています。現状は大丈夫ですが、ブラジル国内の新型コロナの感染状態が厳しい状況なので、今後どうなるかわかりません」

 コンビニ事情に詳しい流通アナリストの渡辺広明さんは、

「コンビニのファストフードは外国から輸入した鶏肉を使うので、中長期的に影響があるかもしれません」と身近な懸念を示す。

 感染者数が30万人を超え、拡大に歯止めがかからないブラジルの実態は、決して対岸の火事ではない。太平洋を渡り、いつ日本の食卓に迫るかわからない。

価格が安定している食材で賢く

 日本の食品として食卓に欠かせない納豆や豆腐も、鶏肉同様の危機感を内包している。原材料の大豆を海外に依存しているからだ。

 前出・丸山さんは、

「輸入している大豆の大部分はアメリカとカナダに頼っています。納豆はほとんどが輸入大豆を使用していて、これから高騰化する可能性はありますね」

 と見通す。納豆には新型コロナウイルスに予防効果があるというフェイク情報がSNSなどで拡散したこともあり、一時スーパーの売り場から納豆が消えたことがあった。その際、納豆と同じ発酵食品というくくりで注目されたキムチも売り上げを伸ばしたが、

「両商品とも根拠のない話が広まって、需要が増えました」

 と前出の五味社長。

「納豆やキムチはかなり売れています。ですが入荷する量は少ないですね。半分くらいに減っています。あれば売れる商品なので、売り損していますね」

 と、入荷状況が悪いと嘆く。

 免疫力を高めるためには、バランスのよい食生活に勝るものはないが、「これがコロナに効く」という情報が拡散すれば、特効薬がないゆえに飛びついてしまう集団心理が働き、商品はあっという間に店頭の棚から姿を消してしまう。

 情報に踊らされることなく、堅実な買い物をするためには、「価格の安定した食材」と「旬」が大事だとキーワードをあげるのは前出・丸山さんだ。

「もやし、きのこ、卵、その他、旬の食材などは価格が安定しているので、うまく使いましょう。肉は業務用の大きなパックを買ってきて小分けにして下味をつけて冷凍すると、もし手に入らなくなってもストックがあれば困りません。いっぺんに買えば、値段も安くすみますし、買い物に行く回数も減らせます」

 消費経済ジャーナリストの松崎のり子さんは、

「ドラッグストアは食品が安いので、スーパーとうまくはしごして節約する手があります。私は普段、先にドラッグストアで卵や牛乳を購入し、そこで買えなかったものと生鮮食料品をスーパーで買うようにしています」

 と意外な順番を公開し、買い物に対する注意点を次のようにつけ加える。

「消費者にとって、節約しづらい状況です。“3密”を恐れてチラシやセール、ポイントアップなどを取りやめている店もあるので、安く買いたくても難しい。チラシを見比べ、はしごする人も少ない。どのスーパーでもレジで並ぶので、まとめて1回で買い物をすませようとしてしまう。するとついつい買いすぎて、節約できない。

 巣ごもり生活にも慣れ、1日にどれくらい必要かわかってきたかと思います。その量だけを買うように心がけるといいと思います」

 緊急事態宣言が各地で解除され始めたが、いつ第2波、第3波がやってくるかわからない不安の中で迎える'20年夏。街の飲食店の店頭を恒例の貼り紙『冷やし中華はじめました』が飾るころ、品薄状態・値上がりの食品が出てくる。先々の不安が解消されない中、どうやりくりすればいいのか。

 買い物センスの底力が試される夏になりそうだ。