手越祐也

 

 5月26日午後のワイドショーは、緊急事態宣言が解除された新型コロナウイルスの話題を差し置いて、各番組が「手越祐也 活動自粛」をトップニュースで報じました。

 ネット上にもSNSやニュースのコメント欄に批判的な声が殺到。「自粛ではなく退所にしてほしい」「今までが甘やかしすぎで自業自得」「これでも反省しないだろう」「まだまだ余罪が出てきそう」などの批判ばかりで、擁護の声がほぼ見られませんでした。この事実にこれまで積み重ねてきた不信感が垣間見えます。

 これまで手越さんは週刊誌にお酒や女性絡みの記事を繰り返し報じられ、その数はすでに10回を超えていました。さらに、今年3月下旬に安倍昭恵総理夫人と花見会、4月下旬に女性たちを自宅に呼んでパーティーを開催、5月下旬に六本木のラウンジやバーで女性たちと飲んでいたことが発覚。いずれも日本中の人々が外出自粛をしていたときだけに、批判の声が飛び交うのも無理はありません。

 私は手越さんが所属するNEWSへの共同インタビューや、出演バラエティ「世界の果てまでイッテQ!」(日本テレビ系)などの取材で3回会ったことがあるだけですが、当時の様子からいくらかの危うさを感じていました。手越さんは実際に会うとテレビ番組での姿よりもオーラがあり、魅力的に見える反面、「その言動と周囲の扱いが悪い方向に進まなければいいな」と不安視してしまったのです。

 だからこそ今回の件は手越さん個人だけに非があるとは思えず、所属事務所や起用した番組サイドの問題も含めて考えることにしてみました。「なぜ活動自粛の状態に至ってしまったのか?」という経緯や心理を掘り下げていくと、一般的なビジネスシーンとの共通点が浮かび上がってきたのです。

問題行動を正さない組織にも責任あり

 手越さんが問題行動を繰り返してしまったのは、プロ意識と責任感の欠如、危機管理意識の薄さからくるものであることは否めません。取材したときも、明るく礼儀正しい対応をしてくれた一方で、「それはこうですよね」「絶対にそうですよ」などと主観で決めつけるような口調が気になりました。サービス精神たっぷりにチャラ男キャラのコメントで押し通すのはいいとしても、人気アイドルにしては無防備な話し方を心配してしまったのです。

 しかし、それ以上に気がかりだったのは、事務所関係者と番組スタッフが、それをよしとしていたこと。「それが手越のキャラクターだから。面白いでしょ」と思っていたのか、単に正さないだけなのかは分かりませんが、すでに何度かスキャンダルが報じられたあとだっただけに不可解でした。

 手越さんの共演者から「誕生日に近い収録のときにお花とプレゼントをもらったんですよ。チャラいけどサプライズで王子様みたいでした」というエピソードを直接聞いたことがあります。もしかしたら手越さん自身、自由な言動のどこまでがキャラクターで、どこまでが自分自身なのか、世間のイメージとプライベートの自分を混同していたのかもしれませんし、事務所や番組も正すタイミングを逸してしまったのかもしれません。

 また、「スキャンダルを起こしても、ほとんどおとがめなし」という状態が繰り返されたことで、手越さんがアイドルであるにも関わらず“チャラ男キャラ”を自らネタにしはじめたことも、今回の件に至った理由の1つでしょう。アイドルとしてのタガが外れ、公私どちらもチャラ男として過ごすことで、「何か問題を起こしたとしても『キャラクターだから』と許してもらえる」という甘えにつながったとしても不思議ではありません。

個人の意思は強くなく環境次第で変わる

 手越さんがすでに32歳の大人だとしても、個人の意思はそんなに強くないですし、年齢を問わず環境次第で良くも悪くも変わってしまうのが人間の怖いところ。それだけに事務所も番組も、手越さんに1つのキャラクターや役割を担わせることへの責任があるのです。

 これは一般企業も同じで、ある社員を「こういうキャラクターだから」と決めつけたり、「この仕事、得意だったよね」と役割を固定したりすると、そのキャラクターや役割が悪い方向へ進ませてしまうことがあるので気をつけてください。

 ここまでジャニーズ事務所は、芸能界のどこよりも積極的に新型コロナウイルスの感染拡大防止を支援してきました。「Smile Up!Project」と銘打って、医療用マスクや防護服を調達したり、手洗い動画や無観客ライブを配信したり、その活動はアンチですら文句のつけようがないほどのものがあります。さらに、総勢76名の所属タレントによる期間限定ユニット・Twenty★Twentyを結成してチャリティー活動を行うことを発表し、手越さんも参加予定でした。

 企業単位で見れば、最高の好感度だったものが、手越さん1人の存在によって大きく下げられ、Twenty★Twentyは活動開始前から、ネガティブな意味で名前が知れ渡ってしまったのです。参加メンバーも事務所スタッフも悔しい思いをしているでしょうし、その思いは今回が初めてではなく、「手越!またか」と思っている人も少なくないでしょう。

 やはり今回の活動自粛は、「問題行動のあった個人を甘やかし、繰り返させたことで、組織全体のイメージを悪化させ、そこで働く人々が不満を抱えてしまった」という典型的なパターン。組織の管理職が1度目のときにはっきりとイエローカードを出し、2度目はレッドカードを出すことを毅然とした態度で伝えておかなければなりませんでした。

 少なくとも問題行動が続いた5年前や3年前の時点でそれができていたら、その後スキャンダルのない手越さんは、現在をはるかに上回るスターになれていたかもしれません。管理職の指導1つで社員の未来を広げることも狭めることもあり、その意味で現在の手越さんは自らのポテンシャルを十分に発揮できていないのではないでしょうか。

 特にジャニーズ事務所は管理職に加えて、先輩タレントの層が厚く、手越さんにとっては学べる存在が多かったはず。そんな頼れるはずの先輩たちから「突き放されていたのか」、それとも手越さん自身が「距離を取っていたのか」は分かりませんが、成長や才能開花のチャンスを逃す要因となっていることが悔やまれます。

「自由を求めるなら独立しろ」の正論

 ここまで芸能事務所や一般企業などの組織目線で書いてきましたが、視点を個人に変えると、手越さんの煮え切らない思考回路が浮かび上がってきます。

 活動自粛の報道を知った人々から、「そんなに自由がほしいなら事務所を辞めればいいのに」「他の所属タレントと足並みを揃えられないなら独立したほうがいい」などの声が挙がっていました。それらの声はまさに世間の声であり、手越さんから見たら言い返せない正論。「これまでどんなスキャンダルを起こしても事務所に守られてきた」ことを知っているからこそ、「大きな組織で甘い汁を吸いたいのなら、社や同僚に迷惑をかける自由気ままな振る舞いはするな」と言いたいのでしょう。

 これは一般企業も同じで、手越さんのように自由気ままな振る舞いは、よほどの成績を挙げる社員でない限り許容されません。自由気ままに振る舞って社のイメージや同僚のモチベーションを下げてしまうことは認められず、独立して起業する道を選ぶ潔さが求められているのです。

 しかし、手越さんは新型コロナウイルスの影響が深刻化してもジャニーズ事務所に所属したまま、問題行動を繰り返してしまいました。だからこそ世間の人々は、「毅然とした対応をした滝沢さんには好感が持てる」「タッキーがいる限りジャニーズ事務所はこれからいい会社になるかも」などと、処分を決めたとみられる滝沢秀明さん(ジャニーズ事務所副社長)を称えるコメントを発しているのでしょう。やはり管理職の決断には、「遅かったとしても、するべきことがある」「負の流れが続いていたのなら、それを断ち切る勇気が必要」であり、引いてはそれが組織のイメージを回復させる第一歩となるものです。

 ただ、「ほとぼりが冷めたら、またシレッと復帰させるんでしょ」「腐ったリンゴは早く取り除かないと周囲まで腐敗しかねない」などの辛らつな声も多く、不信感を払拭し切れたわけではありません。手越さんとジャニーズ事務所は、今後も引き続き注目を集めていくでしょう。


木村 隆志(きむら たかし)コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者
テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。