木村花さん(@hanadayo0903より)

『あいのり』『バチェラー』、そして『テラスハウス』。一般人の男女が、生活をともにしながら“台本ナシ”で繰り広げる“リアル”な人間模様、恋愛模様に長期間密着する─。“恋愛リアリティーショー”と呼ばれる番組は、ここ数年、テレビだけでなく『Netflix』『ABEMA』など動画配信サイトでも人気を集め、数多く放送されている。

 そんな一大コンテンツで、前代未聞の痛ましい事件が起きた。通称“テラハ”と呼ばれる番組『テラスハウス』(フジテレビ系/Netflix)の現役出演者で女子プロレスラーの木村花さんが、自宅で倒れているところを発見され、搬送先の病院で死亡が確認されたのだ。

「木村さんは、放送中だった最新シリーズ『TERRACE HOUSE TOKYO 2019-2020』に出演していました。3月に配信された回で、男性出演者と口論になった木村さんが激怒。それがきっかけで男性が番組を卒業してしまったことで、彼女は猛烈なバッシングを受けるようになって……」(スポーツ紙記者)

 木村さんのSNSアカウントには、彼女を中傷する書き込みが殺到。《死ね》《ブス》《気持ち悪い》《消えろ》……あらん限りの誹謗中傷を連日浴び続け、木村さんの心はついに折れてしまったのだろうか。フジテレビとNetflixは番組の打ち切りを決めたが、「その前に木村さんを救えなかったのか」と、制作サイドの対応を疑問視する声が相次いでいる。

「番組には、スタジオコメンテーターとしてYOU、南海キャンディーズの山里亮太、トリンドル玲奈、アジアンの馬場園梓といったタレントたちもレギュラー出演していましたが、事故が起こるまで、木村さんをフォローする人はいなかった」(前出・記者)

番組は木村さんの炎上を知っていた

 木村さんは番組では、いわゆる“悪役キャラ”。

「かつての女子プロレスのダンプ松本さんのような立ち位置です。スタジオのタレント陣は木村さんに批判が集まっていることは知っていたし、無論、スタッフも彼女の“炎上”については把握していた。それどころか、それを番組の宣伝に使ったフシもある。“『テラハ』は木村さんを見殺しにした”と言われてもしかたないです」(同・記者)

『テラハ』のみならず、恋愛リアリティーショーにおいて、出演者たちへの誹謗中傷はかならずついて回るという。恋愛リアリティーショーの“はしり”として人気を集めた番組に出演経験のあるAさんが、重い口を開いてくれた。

「オーディションで、制作スタッフさんから“番組に出るとアンチもつくけど、それでも大丈夫?”って聞かれて。意思確認だと感じました」

 もし攻撃を受けても、制作サイドは完全ノータッチ。

「スタッフさんから何か対策をアドバイスしてもらったり、ということはなくて、完全に出演者任せ。相談にも乗ってくれません。私たちがすごく苦しんだり困っていても、見て見ぬふりをするスタッフさんたちを見て、この人たちにとっては“アンチもファンも一緒”なんだって」(Aさん)

 その一方で、恋愛リアリティーショーの収録には、制作サイドからの強い介入があるのではないか、という疑惑が常に囁かれている。

「“台本ナシ”を売りにしながら、事前に出演者たちと筋書きやセリフを打ち合わせしている、と。『テラハ』でも木村さんはじめ出演者たちがスタッフの意にそう演技を何度も強要されていたと報じられています」(前出・記者)

 台本の存在を含めた過剰演出を、ほかの『テラハ』出演者たちは一様に否定している。だが、別の恋愛リアリティーショーに出演していたBさんは「台本や指示はなかったけれど……」と言葉を濁す。

このほうが番組が盛り上がるから

「収録が進むにつれて、出演者ひとりひとりが“空気を読む”ようになっていくんです。周りの性格がわかっていくと、“私はこんな役割だ”って理解しちゃうというか。手探りの中で、立ち位置が作られていく感じはありました」

 さらに、Bさんが制作サイドの強い意図を感じたのは収録映像の“編集”方法だった。

「発言が切り取られてしまうんです。ほかの出演者に対して肯定的な話をたくさんしていたのに、たったひと言の否定的な言葉だけが使われたり。オンエアを見て“こんなつもりで言っていない!”ということが何度も。番組にとって都合のいい部分だけを使っているんだって」(Bさん)

“このほうが番組的に盛り上がる”という構図が、本人の知らぬ間に作り上げられていく。切り取り編集の影響で、放送当時、Bさんにも心ない言葉が多数送りつけられた。「批判が嫌ならSNSを見なければいい」というもっともらしい意見もあるだろう。だが、Bさんは首を横に振る。

「それってすごく難しいんです。番組がリアルに寄せれば寄せるほど、視聴者の声ってどうしても気になる。普通のドラマのように、完全に違う人間を演じているのなら全否定されても気にならないかもしれません。でも、“リアルな自分”に対しての批判とか評価って、受け止め方が全然違うと思います」(Bさん)

見ず知らずの男女6名が、おしゃれな一軒家で共同生活を送る人気番組『テラスハウス』。木村さんは’19年10月から“東京編〟に参加していた

 自ら望んだとはいえ、プロではない人間がイメージを作り上げられ、そのイメージが多数の憎悪を生み、憎悪によってさらにイメージを塗り固められていく─逃れられない無間地獄。Bさんの言葉に、木村さんがのみ込まれてしまった恋愛リアリティーショーの闇が見え隠れする。

 出演に際してBさんには出演料も支払われた。収録1回ごとに計算され、放送期間で彼女が手にしたのは50万円ほど。

『テラハ』制作過程で、木村さんはじめ出演者に対するスタッフからの演出の強要があったのか。フジテレビに尋ねた。

「撮影の都合で場所や時間について出演者と事前に協議したり意思をヒアリングすることはありますが、出演者の意思や感情にそわない演出をして撮影をすることはありません」(企業広報室)

リアリティーショーは“諸刃の剣”

 メディア論の研究者でテレビ番組制作にも携わっていた同志社女子大学の影山貴彦教授は、安易な恋愛リアリティーショー作りに警鐘を鳴らす。

「他人の喜怒哀楽をのぞき見するような快感を、低コストで視聴者に提供できるリアリティーショーは魅力的なコンテンツです。でも、その出演者は、ほぼ素人。それを踏まえた見せ方が制作サイドには欠かせません。そういった意味でリアリティーショーはテレビ局にとって“諸刃の剣”なのですが、その意識が希薄になりつつある」

 フジテレビは5月29日、社長名で番組制作に問題がなかったか改めて検証を行うと発表。だが、木村さんの笑顔はもう戻らないのだ。