阪神大震災時で避難する人々(’95年神戸市・稲垣さん提供)

 コロナ禍だろうと災害は待ってはくれない。いざというときに『3密』にならない避難について、防災士の稲垣暁さんが徹底解説する。

「2000年以降の20年間で、国内の震度6以上の地震は40回を超える。1980年からの20年間は10回に満たなかったのですが、近年は、熊本地震のように短期間に震度6以上の地震が連続するケースも目立ちます」

 地下の変動に合わせるように、地上の風水害も拡大している。昨年は100人以上の死者が出た。昨年の台風19号では、21都県1000万人以上に避難指示・勧告が出され、ピーク時で23万人以上が避難、9万棟近くの住宅に被害が出た。

 災害の規模が大きいほど、避難所は人であふれる。

「私も阪神・淡路大震災時、救助活動後に避難所に行ったが満杯で入れず、壊れた倉庫で過ごしました。東日本大震災でも、大半の避難所は横になることすら難しいほどごった返していたんです」

 まさに『3密』状態でありこれからの避難所は新型コロナウイルスによる感染爆発も懸念される。津波警報発令時、逃げ遅れを防ぐ津波避難ビルや沿岸部の3階建て以上の建物に避難する場合も同様の状況だ。しかも津波警報解除まで、あるいは津波が引くまで避難場所から出ることができない。

 大規模災害の発生や避難指示発令時、自宅にとどまることが難しければどこに逃げればよいか。移動が困難な高齢者はどうしたらよいだろうか。

「コロナリスク下では避難所への殺到を避けるべき。無理に避難所に行かず、家族や地域で避難場所を確保することも考える必要があります」

コロナ禍の災害、ためらわずに避難を

(1)地域の少し大きめの施設や、空き家などの利活用

「地震や津波など突発的災害では、高齢者など移動困難者の支援も含め、居住地域に安全地帯を見つけておきたい。地域の集まりで話し合い、非常時に複数家族が身を寄せられる住宅を探しましょう」

 広くて丈夫な住宅の持ち主が非常時の避難場所を提供してくれるのが理想だ。空き家や子どもが独立して使わなくなった部屋も増えている。防犯や支え合い活動を通じ、協力してもらえるよう、依頼することから始めたい。

 幼稚園など災害時に休業が考えられる施設や空き倉庫などに依頼する場合は、事業者の意向を十分に踏まえ、避難計画を立てることが重要だ。「感染防止とプライバシー保護のための仕切り設置など十分な対策を立て、清掃や消毒など利用者の義務も明確にする必要があります」

(2)少し離れた親戚の家を頼りにしても◎

 豪雨など予報に基づき早くから行動できる場合は、少し遠くても親戚宅が頼りになる。この機会に、親戚間での避難プランを立てたい。

(3)自家用車を有効活用する

 コロナリスク下では、ドライブスルーが注目された。条件つきながら、自動車は避難場所になりうる。避難所では走り回ったり声を出せない子どもたちにとっても自由度が高く、家族の団らんも確保できるためだ。

「ただし、狭い空間に長時間滞在すると、エコノミークラス症候群のリスクが高まるため車外での運動や、頻繁な水分補給が欠かせません」

 また、被災地はガソリンの入手が難しく、夜間にエアコンをかけて就寝できず、蚊に悩まされるため窓を開けて眠れないなどの課題は残る。

 一方、自動車移動がもたらす渋滞で、緊急自動車の通行や移動困難者の避難ができなくなるおそれがあるため、津波警報時は、沿岸部での自動車使用は危険だ。

(4)野外活動やキャンプで使うテントを併用する

「車中泊の補完として、キャンプで使うファミリーテントを併用してもいい」

 天候のよい日は自動車の横にテントを張って眠ると、エコノミークラス症候群の回避や心身のストレス軽減になる。携帯コンロを使い家族で煮炊きをすることで、子どもたちの喜びや元気、落ち着きにつながる。熊本地震では登山家から大量のテントが支援され、「足を伸ばして眠れた」と喜ぶ人が多かった。

 これらの実践には限界もあり、災害の規模が大きいほど避難の選択肢は限られる。

「人口密度の高い都市部では、多くの人が行き場所を失い、避難所に殺到してしまうんです。昨年の台風19号では、都内で避難勧告が発令された際、避難所の多くが満杯になり、受け入れを断られた住民が続出しました」

 自治体による避難所の設置が法律で定められているにもかかわらず、これまでの方法では避難所に入れない人は減らないうえ、『3密』状態も避けられない。

 避難所を指定・管理・支援する側は、従来のあり方を変えることが求められる。公共施設だけでなくホテルへの積極的な働きかけなども必要。

 そこで対コロナ仕様の避難所についても考えてみたい。

断水する避難所(’16年熊本県・稲垣さん提供)

感染防止の徹底が課題

(5)指定避難所の使用スペースを広げる

 コロナリスク下では、避難者同士の距離を十分にとるため、スペースを広げる必要がある。これまでの体育館中心から、教室中心になることが考えられる。

「1家族あたり6畳程度を割り当て、家族間の距離を十分に取る。四方をパーティションで囲む、4〜6人が入るファミリー向け大型テントを並べるなど飛沫の拡散を防ぐ対策も重要で、プライバシー保護の視点ですでに導入している市町村もあります」

(6)状態別に部屋設定、待機スペースも十分な広さに

 障がい、認知症、基礎疾患、体調不良など、避難者の状態別に部屋を分けるゾーニングが望ましく、入室後に状況に応じ関係機関につなぐ。

 支援情報や安否確認の掲示板、食事配給や支援物資の配布場所、テレビ周辺など、どうしても「密」になる場所での感染防止の徹底が課題だ。入所の受付も、体育館のほか大型テントによる待機所を設けたり、自家用車で待機できる場所を確保し、極力3密状態を避ける必要がある。

(7)感染防止の徹底と、ゾーンごとの手洗い場・トイレ設置

 玄関や靴から入ってくる多量のホコリや粉塵、断水による衛生環境劣化は、避難所につきものの課題だ。タンクからの給水は蛇口の数が限られ、避難室から離れていることもあって手洗いやうがいを怠りがちになる。

 阪神・淡路大震災では発生2か月で口腔衛生の低下などが原因の肺炎で亡くなる人が関連死の4分の1を占めた。室内の清掃と換気はひんぱんに行い、蛇口やトイレはエリアごとに多くの設置が必要。

「災害時はさまざまなストレスが複合的にのしかかり、身体も心も不調になりやすい。子どもたちも含めリラックスできる部屋を設置したり、避難者のストレスが軽減されるような花などの飾りつけ、明るい配色による避難所全体の空間づくりが求められます」

 避難者が主体となって、自治的に避難所運営することがいままで以上に求められる。密集によるコロナ感染リスクが高い中で大災害が発生した際に懸念されるのは、危険が迫っているにもかかわらず避難を躊躇(ちゅうちょ)してしまうことだ。

 近年の豪雨災害では、逃げ遅れや避難拒否による犠牲も目立つ。どこにどう逃げるか、平時からしっかり対策を立てておくことが重要だ。

【いざというときのために備えておきたいものリスト】
●基礎的な生活習慣用品

・歯磨き・歯ブラシ・洗口液(断水時)・ティッシュペーパー・タオル・飲用水・コップ・入れ歯
 →過去の大災害では、口腔ケアがおろそかになったことや入れ歯の紛失で、災害関連死の25%が肺炎で死亡

●健康状態維持
・マスク・アルコール消毒液・常備薬(風邪薬・胃腸薬など)・服用薬・お薬手帳
 →風邪および感染症、持病への対策
・電池式小型扇風機・扇子/うちわ・自動車のシガーソケットを電源にできるインバーター
 →停電時の熱中症対策。大雨暴風状況では窓を開けることができない。車中泊では窓を開けて眠れない
・アイマスク・耳栓・携帯用空気枕
 →睡眠確保がストレスを軽減させ免疫力を上げる

●衛生環境維持
・簡易トイレ・おむつ・ウエットティッシュ・生理用品・ビニール袋(レジ袋)・ビニール手袋・軍手
 →ビニール袋は物や手を汚さないためにも役に立つ。断水時はいったん汚れると洗えない
・携帯コンロ・小さい鍋(調理のほか消毒にも)・箸・スプーン・皿
 →熱源があると簡単な煮炊きができ、布マスク類の消毒も。食器は感染症対策としても各自で所持する必要
・爪切り・耳かき・とげ抜き・絆創膏
 →粉塵や傷から身を守り、ストレスの軽減につながる

●コミュニケーション/行動環境維持
・眼鏡類(老眼鏡、コンタクトレンズとケース)・補聴器・スマホと充電器・小型ヘッドランプ・レインコート・帽子
 →断水状況にある避難所の場合、トイレは屋外に設置されることもある

※上に掲げたような基礎的な生活習慣と健康状態を維持できるもの、衛生環境を保つものは必要だ。また、本やゲームなど、ストレスを感じず時間を過ごせるものもあったほうがよい。大雨のときの避難を考え、持ち出し袋は防水リュックであったり、防止カバーがかけられるものがよいだろう。貴重品や携帯電話は、防水性のある首かけポーチなどに入れ、身につけておくのがよい。
今年の夏の気象予報。大雨や台風にも注意が必要(蓬莱さん提供)

今年の夏も大雨には要注意!

(8)今年の夏は『大雨』『猛暑』『台風』に警戒を

「西日本を中心に、梅雨の大雨に警戒が必要です。九州では5月に観測史上最大の大雨が降りました。梅雨入りすると、もっと激しい雨になることが予想されます」

 気象予報士で防災士の蓬莱(ほうらい)大介さんは、大雨リスクをそのように伝えると同時に、

「全国的に猛暑予想。そして沖縄の南の海水温が例年より高く台風が発生しやすい。台風は夏の太平洋高気圧のふちを回って日本列島に到達するころにはかなり勢力が強まる可能性がある。梅雨の大雨に続き台風の危険性も心配」

 と予想。さらに昨年、房総半島を襲った台風に触れ、

「関東のすぐ南で発生、わずか3日後に上陸しました。避難準備の間もなく来た台風で近年、こういった日本近くで発生するケースも。今年も発生しない理由はありません」

 と警鐘を鳴らす。

 大雨は列島各地に、河川の氾濫や土砂崩れをもたらす。

 国土交通省の担当者は、「各地の河川はこれまでの水害を踏まえて整備を実施しています」と対策に取り組んでいると前置きしたうえで、

「基本的に、川は整備水準を超える大雨が降ればあふれるものと思っていただきたい」

 と言い切る。蓬莱さんも今夏の豪雨を予想し、

「記録的大雨は起こると思って準備しておいたほうがいいでしょう」

(9)『大雨』は事前にわかる

 被害を最小限に抑えるためには個々人の避難行動が肝心になるが、専門家が総じて指摘するのは、事前情報の重要性とそれを生かしきる有事に向けたシミュレーションだ。

「大雨は今の技術である程度予測できますので、事前に情報を得て、難を避ける場所に移動することが大切です」

 蓬莱さんはそう指摘し、情報の入手方法を次のようにアドバイスする。

「地域のローカル番組の気象予報士の解説を聞いてください。全国放送では伝えきれない細かい情報、例えば、地元の気象予報士なら付近の川がどれくらいの雨であふれるのか頭に入っているので、その危機感を詳しく伝えることができると思います」

(10)思い込みは排除して!

「災害の危機を目の前にしたときに、自分だけは大丈夫、今までこの川は氾濫したことがないから大丈夫、そういう思い込みには注意していただきたいです。先入観を持たずに、自分の地域のリスクを今1度知ることが大切です」(蓬莱さん)

 国土交通省担当者も、

「自治体から避難準備、高齢者等避難開始、避難勧告、避難指示(緊急)が発令されます。これらの情報は比較的余裕を持って出されることが多い。基本的には市町村の避難勧告指示に従うことです」

 と、原則を示しながらも、

「自分たちにいちばん合った方法で避難を考えてほしいです」と付け加える。そんな折に頼りになる映像がある。

「国の河川には、水位計やカメラが設置されています。その情報はネットで見られますので、最新の川の状況を把握できます」

【避難先】あらかじめ決めておいたほうがいいリスト

命を守るためには、いかに備えておくか

(11)ハザードマップで平時からいちばん低いリスクの確認を

 いざ、このような情報が生かされるかどうかは、事前の心構えがあるかどうかが分岐点になる。担当者が続ける。

「災害のときはパニックになったり、どうしていいのかわからなくなります。あらかじめ行動のシミュレーションができているかが大切だと思います。市町村が洪水ハザードマップを作っています。それで浸水の範囲や避難場所などがわかりますが、その際どのルートを通ったらダメかも見たほうがいい」

 場所によっては道路が水没、アンダーパスが浸水したり、斜面が崩れて通行できなくなったりするおそれがある。大雨は複合的にいろいろ起きるので、それを踏まえて、いちばんリスクが低い経路はどれだと、それを探す必要がある。

(12)家族で避難の話し合いを

「状況別に家族で話し合っておけば、家族のことは考えずにまず避難できます。そのくらいの信頼関係をつくり、有事のときの迷いを少なくすることは対処の基本だと思います」(担当者)

(13)猛暑でマスク着用が危険

 コロナ禍で迎える今年の夏。いつも以上に気象災害の危険性があるのは熱中症だ。

「すでに熱中症への注意を呼びかけていますが、マスクをすると熱がこもりやすいのでより危険性が増します。炎天下でのマスクは、サウナの中でマスクをするようなもの

 と蓬莱さんは指摘する。

「マスクをしてほんの10分でも。登下校、買い物などでの外出時、熱中症のリスクはいつもより高い。マスクは自分の吐いた湿気を含んだ息を吸います。そのためのどの渇きに気づきにくいといわれています。周りに人がいなければはずすなど、上手な使い方をしたり、水分補給と休憩は意識的にとるなどしてください」

(14)頻発する地震にも注意を

 注意するのは気象だけではない。予測困難な巨大地震への備えも必須だ。

「地震もさまざまな要因で(大雨や台風同様)被害の程度は変わってきます」

『国立研究開発法人 防災科学技術研究所』総合防災情報センター長の臼田裕一郎さんは指摘。同研究所が公式サイトで公開している『地震ハザードステーション』は事前の構えに有効だという。

今後30年間で震度6弱以上の揺れに見舞われる確率など地震についてさまざまな情報が得られます。

 特に注意したいのは社会としても大きな被害を及ぼすであろう『南海トラフ地震』や『首都直下地震』です。ただし、こうした大きな地震でも揺れ方や建物の築年数、構造、形状や土地の状態、場所などで自宅や周辺の建物は倒壊を免れることもあります。これはいろいろな要素が絡んでいます。命を守るためにも、まず家具の配置などから考えてみてください」

(15)命を守るために備えて

 予想ができる大雨や台風、いつ起きるかわからない地震であっても、前出の専門家らが共通して訴えることは、命を守るためには、いかに備えておくか。結果的に生死の分かれ目になる。

「とにかく自助。自分の身は自分で守ることを意識していただきたい。行政や民間サービスなど、普段だと受けられるものも、災害時には受けられなくなります。不便もたくさん出ますので、自分の命と生活を守る準備は普段からしておいてほしい」(臼田さん)

 家族全員で家族の安全に向かい合う。そんなことが求められている時代だ。

(取材・文/稲垣暁)


稲垣暁 ◎災害プラットフォームおきなわ共同代表理事。沖縄国際大学非常勤講師・防災士・社会福祉士。毎日新聞社に勤務していた1995年に阪神・淡路大震災で被災。以後、災害弱者支援や被災地交流、地域・学校などでの防災教育活動に携わる

蓬莱大介 ◎気象予報士・防災士 2011年より読売テレビで気象キャスターを担当。『情報ライブ ミヤネ屋』『ウェークアップ!ぷらす』『かんさい情報ネットten.』などでレギュラー。講演、コラム執筆、ラジオDJなど多方面で活躍。著書『クレヨン天気ずかん』(主婦と生活社)『空がおしえてくれること』(幻冬舎)など