イヤホンを通しての会話もオンラインならでは (『バンビーノ』藤田裕樹のオンライン結婚式の様子)

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で結婚式の中止を余儀なくされる人が多かったなか、注目を浴びているのが“オンライン結婚式”だ。新郎新婦と参列者は会場ではなくオンライン上で顔を合わせ、“3密”を回避しながらも幸せな時間を共有する。この新たなカタチの結婚式をお笑いコンビ『バンビーノ』の藤田裕樹が開催。招待されたピン芸人でお笑いジャーナリストのたかまつななが、その全貌を詳細にレポート!

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5月下旬、緊急事態宣言が出されているさなか、私のもとに一通のLINEが届いた。

「ななちゃん、お久しぶり! 実はこのたび6月6日に結婚式を挙げることになりました。とはいえこのご時世なので、結婚式はオンラインで行い、みなさまご自宅から『Zoom』というテレビ電話システムを通しての参列となります。参加費(ご祝儀)等はネット決済にていただくことになりそうで(二次会参加費くらいの金額予定です!)、カチコチの結婚式ではなく、吉本の“おもろ芸人”の余興が盛りだくさんのライブ形式を予定しているのでぜひ、ひとりでも多くの人に観て(参列して)もらえたら嬉しいです!」

 こんな招待状をもらったのは初めてだったのでびっくりした。ご祝儀の決済は、ネットショップサービス『BASE』を通して行われた。オンライン結婚式にいくら払うのが妥当かわからなかったが、とりあえず「1万円」のボタンをクリックしてクレジットカード決済をした。

 招待状の送り主は、『キングオブコント2014』の決勝で「ダンソン!」「ニーブラ!」という耳に残るリズムネタを披露し準優勝した『バンビーノ』の藤田裕樹さん(34歳。ネタ中に鹿の被り物をして登場するほう)。'15年10月に入籍し、現在は2児の父であるものの式を挙げていなかった藤田さんは、先の見えない不安な自粛生活が続く日々だからこそ「笑いを届けたい」「離れている親戚や友人とも幸せを共有したい」という思いから、オンライン結婚式を開催した

『株式会社CRAZY WEDDING』によるプロデュースのもとで行われた披露宴には、ピンク色の髪の毛が特徴的な『EXIT』の兼近大樹さんや、'19年『M-1グランプリ』でチャンピオンの座についた『ミルクボーイ』の駒場孝さんと内海崇さんなどをはじめとし、約400人もの芸人仲間やプライベートの友人らが駆けつけた。クラウドファンディングサイト『SILKHAT』で同プロジェクトの支援金を募集して余興を支援者に生配信する、という斬新な試みも実施。暗いニュースばかりが続く昨今だが、今回は約3時間に及ぶ、笑いと涙の絶えない結婚式の模様をレポート!

安倍首相もまさかのご登場!?

 6月6日土曜日、17時15分。式への出席者はZoomの専用ページに入室が可能に。17時40分になって“そういえばスッピンだ”ということに気づく。開始まであと20分しかないが、取り急ぎセルフカメラの表示をオフにして入室することに。「こんな面々が参加しているんだ〜」と、画面上に並んだ出席者一覧を確認しながら急いでメイクをし、カメラをオンに。大先輩の2人、元体操選手のお笑い芸人・オラキオさんや、おかっぱ頭に白色のタンクトップがトレードマークのひょっこりはんさんが衣装をバッチリ決めているのを見て、ラフな格好で臨んだ自分の準備不足を反省した。

 時間になるとお笑いタレント・エハラマサヒロさんの司会で式が進行。だが、自分側のマイクをミュートにし忘れている参加者がおり、雑音が混じりエハラさんの声がなかなか届かない。急に知らない方の画面が映し出されることもしばしば。家族でご飯を食べながら参加する方も見受けられた。オーストラリアから繋いでいる方も。“こんな光景はオンラインならではだな〜”と、私を含め多くの人々が思っただろう。

 参列者のなかにマスク姿の人を発見。藤田さんが「マスクの方はどなたですか?」と聞くと「第98代内閣総理大臣の安倍晋三です」と、アベノマスクをつけたお笑いコンビ『ビスケッティ』の佐竹正史さんが映し出される。「非常にソーシャルディスタンスがとれた結婚式に呼んでいただき光栄です」と続ける“総理”に対し「毎日大変ですね」という声がかかると、「毎日、私のもとに“マスクが届かない、給付金が届かない”というクレームが届きます」とモノマネ調で答え、画面上に笑顔が広がった。

あれ……安倍首相……!? (『バンビーノ』藤田裕樹のオンライン結婚式の様子)

 乾杯はどの芸人さんがされるんだろう、とドキドキしていたら、私もお世話になったことがある吉本興業のスタッフで『よしもと幕張イオンモール劇場』の元支配人の方が。お次は誓いの言葉。神父が登場するかと思いきや、現れたのはシスターに扮した『相席スタート』の山崎ケイさん。後ろに、コンビを組む山添寛さんも控える。2人ともフェイスシールドを着用し、新型コロナ対策にも余念がない。

「新婦、あなたは健やかなるときも、病めるときも、彼を愛し続けることを誓いますか?」ケイさんが聞くと「はい! 誓います」と、ウエディング姿の奥様・かおりさんがニッコリして答える。新郎については「あなたは健やかなるときも、病めるときも、彼女の顔がパンパンのときも、ちょっと太っちゃったときも、料理がどんどん手抜きになったときも、女っ気がなさすぎて……(中略)……どんなときも、やせるなど努力することを怠らず……」と、もし起こったらおもしろそうな“あるあるネタ”が広がり、画面越しにひとり大爆笑。

誓いの言葉を担当した『相席スタート』の2人 (『バンビーノ』藤田裕樹のオンライン結婚式の様子)

 最後にケイさんが「誓いますか?」と尋ね、藤田さんが「誓います」と言うと、山添さんが「いや、誓うんかい!」と声をあげたような気がしたが、ミュートを忘れた人の画面が大きく映し出されるハプニングが。画面が戻りそこにあったのは、立ち上がろうとする山添さんの姿。司会のエハラさんが「さすがM-1のファイナリスト! ほぼケイちゃんの漫談で、最後の一発の山添のコケは映っていないという。このために、山添は1時間もかけてきたのに」とすかさずツッコみ、さらに笑いが大きくなる。

一日限りの復活や、驚きのハプニングも

 お色直しの際には新婦が退場するのが一般的だが「その時間がもったいないから」と、手作りのカーテン越しに生着替えが行われる、という粋な演出に。ここで藤田さんの相方・石山大輔さんが登場し、バンビーノがコントを披露。おなじみのダンソンネタを前に、出席者は「待っていました!」とばかりに盛り上がる。 

 続く余興パートでは、お笑いコンビの『ミキ』さんや『コロコロチキチキペッパーズ』さん、『祇園』さん、『プラス・マイナス』さん、『アイロンヘッド』さん、ピン芸人のバイク川崎バイクさん、もう中学生さんなどの豪華メンバーが、それぞれ渾身のネタを繰り広げる。

 ミキさんがネタをやっている最中、ミュートを忘れた美容室がたびたび映るという事件が。2人はそれぞれが別の場所から中継で漫才をしており、さらに美容室が映り込むのでツッコミのタイミングが合わない。「いま美容室が映りましたかね……?」と、ヒヤヒヤした様子を見せると、プラス・マイナスの岩橋良昌さんが突然「オーシャンビュー!!」と叫んで一瞬、メイン画面に現れた。Zoomならではの割り込み方にどっと笑いが。ハプニングをもとっさの機転で乗り切る先輩芸人たち、さすがだ。

 なぜか半裸の姿が映し出されたピン芸人の中山女子短期大学さんは「上半身、裸じゃないですか?」とふられると「Zoomなので自分は映らないと勘違いしていて、上、履いていませんでした」。周囲からは間髪を入れずに「普通逆や!」とツッコミが飛び交う。さらにこの日は、解散してしまったコンビ『カバと爆ノ介』さんも1日限りの再結成! 久しぶりに2人が漫才をする姿を前に、藤田さんも感極まっている様子。それぞれが、今日のためだけのネタをわざわざ一生懸命に考え、全力でやり遂げる姿を目にし、みんな藤田さんのこと、そしてお笑いが大好きなんだなあと実感した。

この日限りの復活!『カバと爆ノ介』 (『バンビーノ』藤田裕樹のオンライン結婚式の様子)

 披露宴では、2019年『M-1グランプリ』の王者『ミルクボーイ』さんからのビデオメッセージが流れた。

「芸人さんの名前忘れてしもうて……。お笑いコンビのバンビーノの料理が得意な方やってんけどな」

「その特徴はバンビーノ藤田やないか!」

「おかんが言うには、その芸人さんの顔はみんなすぐ思い浮かぶと」

「ほな、藤田とは違うか。藤田は鹿の被り物のイメージが強いからパッと顔は思い浮かばへんのよ! もうちょっと詳しく教えてくれる?」

「かおりさんのこと誰よりも愛している」

「藤田やないか!」

 思いっきり今日にフォーカスしたオリジナルネタがおもしろかったのはもちろんのこと、愛あふれる内容にホロリ。藤田さんも「(ミルクボーイのお2人には)礼儀とか、僕らが1年目のときから丁寧に教えていただいて、今日もこうして忙しいなか出てくださり……」と、笑顔で喜びを語っていた。

 終盤、新婦が大好きだという大人気グループ『Mr.Children』のドラマー・鈴木英哉さんからのビデオメッセージも届く。藤田さんが「こんなにたくさんの方が集まってくださり、感動しました。本当に嬉しかったです」と言って奥さんと口づけを交わしたかと思えば「最後のキスいらんかったかなぁ〜」という照れ隠しまじりのセリフを放ち、結婚式はゆるやかに幕を閉じた。どこまでも盛り上げたいと考える藤田さんの人柄が垣間みえる終わり方だ。

 初の“リモート結婚式”を経て、遠隔ならではの醍醐味や可能性を感じた。何より「お笑いにはやはり、世の中の不安げな雰囲気を払拭(ふっしょく)し、人々の気持ちを明るくできる力があるかもしれない」と、希望が持てる1日だった。

(取材・文/たかまつなな)