行政書士・ファイナンシャルプランナーをしながら男女問題研究家としてトラブル相談を受けている露木幸彦さん。今回は“コロナ離婚”を決意した結婚10年目の妻の事例を紹介します。(前編)

※写真はイメージ

 NHK『あさイチ』がコロナ離婚を特集したのは4月15日。

 番組で新型コロナウイルスの夫婦関係への影響についてのアンケートをした結果、8割の夫婦関係がギクシャクしているということでした。緊急事態宣言の発動と解除を経た今でも、コロナ離婚を取り上げるメディアがいかに多いことか。

 筆者のコロナ離婚の相談者のなかには、海外赴任中の夫が帰国する際、妻との間でトラブルが起こるケースが多く見られます。この場合、夫の所得には赴任手当等が上乗せされています。そのため、夫の年収は少なくとも1200万円以上。

 ベトナム、ブラジル、アメリカ、そしてインド……今年2月、3月の相談者のうち、夫の「コロナ前」の赴任先は多岐にわたります。専業主婦の理想は「亭主元気で留守がいい」ですが、とはいえ誰もがうらやむ高所得夫と別れるのはもったいない。今回はコロナのせいで帰国を余儀なくされた夫婦の悲劇を紹介しましょう。

<家族構成と登場人物、属性(すべて仮名)>
夫・福島洋一郎(46歳)銀行員、年収1600万円
妻・福島明子(44歳)専業主婦 ☆相談者
長女・福島桜子(7歳)小学生

夫は海外赴任、長女は私立小に合格

「時間の問題なら、こっちから離婚って言ってやりますよ!」と相談者・福島明子さん(44歳)は語気を強めますが、一体、何が起こったのでしょうか?

 明子さんの夫は新卒で都市銀行へ就職し、紆余曲折を経て、現在はベトナムの支店で活躍中です。海外勤務が実現するのは同期のなかでひと握り。夫は行内で選ばれし者なのですが、24年間の行員人生は必ずしも順風満帆ではありませんでした。

 平穏だった銀行勤めの潮目が変わったのは勤続20年目。永年勤続を祝して表彰されたのですが、同時に言い渡された取引先への出向。同行をメインバンクとするアパレルメーカーの財務部長の職を任されたのです。

 夫の年収は1100万円から1200万円に増えたので一見すると悪い話ではなさそう。しかし、取引先にとって夫の存在は人質も同然。夫がいるからこそ銀行は新規の融資を断りにくいし、融資の条件も甘くなるし、他の銀行を当たらなくてもいい。つまり、取引先は銀行に便宜を図ってもらう見返りとして、夫に対して決して安くはない賃金を支払うというカラクリ。

 明子さん夫婦は23区内在住ですが、出向先は23区外。自宅から電車で45分もかかるので、夫は出向先近くのワンルームを借ることに。平日に限ってワンルームで寝泊まりし、休日は自宅に戻るという半単身赴任のスタイルへ移行したのです。

 そして“都落ち”から3年。夫はようやく銀行に戻ることが許され、今度は海外勤務を命じられたのです。

 かなり珍しい人事ですが、夫が24年間、銀行の内外で流した汗が認められた結果なのでしょう。基本給1100万円に加え、海外赴任手当として400万円、専門職手当として100万円が支給され、夫の年収は1600万円に達していました。46歳の会社員としては高給取りの部類に入るでしょう。夫婦には7歳の娘さんがいるのですが、お受験に成功し、現在は私立大学付属の小学校へ通っています。明子さんは娘さんの小学校を変えたくないという理由で海外赴任に帯同せず、夫が単身赴任という形を選んだのです。

 ベトナムでも新型コロナウイルスの感染者が増えるなか、3月上旬には日本本社から帰任を命じられました。夫は赴任前、ワンルームにひとり寝泊まりして打ち込むほどの仕事人間。どの国も他国からの入国を制限しているため、いったん日本に帰国するとコロナが収束するまでベトナムに戻ることは難しいでしょう。夫にとっては苦渋の選択でしたが、泣く泣く帰国の途に就いたのです。

帰国後、ホテル滞在する夫に不倫の影が

 現在、海外帰国者への感染対策は厳格です。例えば、海外からの帰国者はまず空港でPCR検査を受けると、検査の結果が出るまで空港内か指定の施設、または自宅で待機します。そして検査の結果が陰性だった場合は、次の滞在先で14日間、他者と接触せず、隔離された生活を送らなければなりません。公共交通機関で移動してはならないので家族などが自家用車で送迎することができない場合、結局はまた空港近くのホテルに宿泊することが定められています。帰国者以外も自粛の連続で不自由な生活を強いられていますが、帰国者の制約は段違いです。

 しかし、3月上旬の時点で政府はそこまで厳しいルールを科しておらず、各人の自主性に委ねていました。夫の会社の方針としては、帰国者は2週間、出社を禁じ、自主的な隔離を求めていました。明子さんはてっきり夫が自宅に戻ってくるのだと思っていたそう。しかし、夫は「お前たちに何かあったら」と言い、自宅ではなくホテルで過ごすことに。実のところ、明子さんは夫が戻ってこなければいいと思っていたので願ったりかなったり。

 そんな矢先、明子さんのスマホにLINEが届いたのです。「311だよ。早く来てね」と。家族の感染を心配している夫が明子さんをホテルに呼び出すのはおかしい。明子さんは「もしかすると不倫……? 相手の女に送るLINEを間違えて私に送ったの?」と女の勘を働かせ、「誰に送るはずだったの?」と返事をせず、こっそりと探偵事務所に依頼をしたのです。

 具体的には311号室の前に隠しカメラを設置し、待ち合わせの様子を撮影しようと試みたのです。後日、探偵に渡された報告書には1週間のうち3回、女性が部屋に入り、3時間ほど滞在し、出てくる様子が映っていました。明子さんはその女性に見覚えが。

 以前、経理の精算で夫のレシートを会社へ届けたことがあり、対応してくれた出向先の経理部の社員だったのです。もし女性がデリヘル嬢なら気持ちの伴わない情事なので「見なかったこと」にすることも可能だったかもしれません。しかし、相手が元同僚なので遊びとは限りません。

 夫は女を連れ込むために自宅に戻らず、ホテル暮らしを選んだことが明らかになったのですが、ウイルス対策が必要な時期に女と「不要不急」の濃厚接触をしていたなんて、どういうつもりなのか。筆者は首をかしげざるをえませんでした。

 とはいえ明子さんいわく夫の不倫は初めてではありませんでした。出向時代にワンルームへ女を連れ込んでいたことも薄々、勘づいていたけれど、仕事は熱心だからと黙認してきたのです。筆者は明子さんに「夫が本気の場合は、そのうちに離婚したいと言ってくるでしょう」と伝えました。

キャリアを捨て、家庭第一で尽くしてきた妻

 今回の夫婦は結婚10年目ですが、夫が海外に赴任する前、日本で一緒に暮らしている間も順調とは言いがたい生活でした。独身時は介護施設で看護師として働いていた明子さん。「俺を支えてくれ」と言う夫のために仕事を辞めて家庭に入り、家族第一で尽くしてきたのです。

 夫の潔癖症やこだわりを家族にも押しつけるスタイルに長年、悩まされてきました。例えば、夕食のおかずは5品以上用意したり、洗濯かごは常に空の状態にしたり、台所のシンクを毎日、ピカピカに磨いたり……明子さんは亭主関白の夫が要求する家事の数々を必死でこなしてきたそうですが、それだけではありませんでした。

 当時6歳の娘さんは小学校から帰るとランドセルを置き、靴下を脱ぎ捨てると自転車に乗り、友達を遊びに行くのですが、明子さんが先に帰宅し、脱ぎっぱなしの靴下、置きっぱなしのランドセル、そして玄関で舞い上がる砂ぼこりを片づけ、掃除しておけば事なきをえます。しかし、たまたま夫が先に帰宅した場合は大変。

「あんな汚い家に住みたくないんだよ! ゴミ屋敷みたいなもんだろ? 俺がいくら片づけても意味ないじゃないか!!」

 夫はありったけの暴言を浴びせるのです。

「子はかすがい」という言葉通り、明子さんは娘さんに免じて夫の亭主関白ぶりを我慢し続けたそう。「あいつ(夫)は電球ひとつ変えてくれたことがないんです!」と愚痴をこぼしますが、どうにか結婚生活を続けてきました。そんな矢先に起こったのがコロナパニックでした。夫の不倫が決定打になり、筆者のもとを訪れた明子さんは「もう終わりだと思いました。時期を見て離婚しようと思っています」と肩を落とします。

(後編に続く)

※後編は6月17日20時30分に公開します。


露木幸彦(つゆき・ゆきひこ)
1980年12月24日生まれ。國學院大學法学部卒。行政書士、ファイナンシャルプランナー。金融機関の融資担当時代は住宅ローンのトップセールス。男の離婚に特化して、行政書士事務所を開業。開業から6年間で有料相談件数7000件、公式サイト「離婚サポートnet」の会員数は6300人を突破し、業界で最大規模に成長させる。新聞やウェブメディアで執筆多数。著書に『男の離婚ケイカク クソ嫁からは逃げたもん勝ち なる早で! ! ! ! ! 慰謝料・親権・養育費・財産分与・不倫・調停』(主婦と生活社)など。
公式サイト http://www.tuyuki-office.jp/