美容家の佐伯チズさん(享年76)

 “美の伝道師”として世の女性たちから絶大な支持を集めたカリスマ美容家・佐伯チズさんが、難病の『筋萎縮性側索硬化症(ALS)』のため、76年の生涯を閉じた。今年3月の公表からわずか3か月足らずでの訃報だった。

ALSは“命の選択”を迫られる病気

 チズさんの命を奪ったALSとは、どんな病気だったのか。日本でも数少ないALS専門クリニックを開設している東邦大学医療センター大森病院の狩野修教授に聞いた。

「脳からの指令を筋肉に伝える“運動ニューロン”が障害されてしまう神経の病気で、手足を動かす、ものを飲み込む、呼吸するといったすべての運動に必要な筋力が低下します。非常に進行の早い病気で、発症から平均3、4年で亡くなることが多く、佐伯さんのように1年以内に亡くなる方も1割ほどいます」

 さらに、特有の深刻な問題を抱える病気でもあるという。

「病状が進行して手足が動かなくなっても、気管切開して人工呼吸器をつけさえすれば、10年でも20年でも生き続けることができる病気でもある。ただし、それには覚悟が必要です」(狩野教授、以下同)

 なぜか。

「ALSは、その進行を完全に止めることはできない病気です。いずれは、手足が動かなくなって、話すことも食事をすることも、表情をつくることもできなくなります。つまり誰ともコミュニケーションがとれなくなってしまうんです。たとえるなら、ひとりぼっちで閉じ込められながら生きていくような。これは患者もつらいですが、周りの人も非常につらい。たとえそうなっても呼吸器をつけて生きるのか、つけずに残された時間を全うするか。患者とその周りの人は“命の選択”を迫られるという病気なんです」

 ゆえに、日本において実際に呼吸器をつける選択をする患者はおよそ2割だという。チズさんが出した答えも──。

「人工呼吸器はつけないという選択をされた、と。“最後まで、佐伯チズでいたい”と、おっしゃっていたそうです」(美容業界関係者)

メディアに姿を見せなくなった理由

 7月には、チズさんのメッセージブック『夢は薬 諦めは毒』が出版されるとアナウンスされたばかりだった。本の担当編集者は声を落とす。

「亡くなられた実感がないというのが素直な気持ちです。“佐伯式美肌メソッドをこれからもずっと伝え続けて、きれいな女性たちが世界中であふれてほしい”ということをよくお話しされていました。“女性がきれいでいると家庭が幸せになって、戦争だってなくなるのよ”って……」

チズさん最後の著書となった『夢は薬 諦めは毒』(宝島社)。チズさんが遺言として残した言葉が収録

 チズさんが生涯を捧げた佐伯式美肌メソッド。それが「ある人物の裏切りで、めちゃくちゃにされた」と自ら告白したのは、亡くなる3年前──’17年のことだった。長年、チズさんの“右腕”としてマネージャーを務めていた女性スタッフに「会社を乗っ取られかけた」というのだ。

「あれだけテレビや雑誌で引っ張りだこだったチズさんが、’14年ごろから、ぱったりと姿を見せなくなったんです。というのも、その女性スタッフが“佐伯は引退”“体調が悪く仕事ができない”と、いろんな所で勝手に吹聴してオファーを断っていたからだそうで。“これからは佐伯の代わりに私が”と仕事も受けていたそう」(女性誌編集者)

 そんなこととは露ほどにも思わないチズさんは、彼女を会社の役員に抜擢。経営も任せるようになっていった。

資金が尽きた師に「自己破産すれば」

「その女性スタッフが、’15年ごろから“運営資金が足りない”“会社が倒産する”と、頻繁にチズさんにお金の工面を頼むように。会社をつぶしたくない一心で、言われるがまま、チズさんは個人的に2億円もの大金を立て替えたのですが、それでも“足りない”と。チズさんが“もうお金はない”と言うと、女性スタッフは“自己破産すればいい”と吐き捨てたそうです」(同・女性誌編集者)

 恩人への背信行為はこれだけでは終わらなかった。

 結局、チズさんの会社は経営に行き詰まり、東京・銀座にあったビルからの撤退をはじめ、事業を大幅に縮小、清算せざるをえなくなる。

 すると、女性スタッフが招き入れた男性役員のA氏が、登録商標やチズさんブランドの美容商品、大切な顧客名簿までもチズさんに無断で持ち去ってしまったというのだ。

 それらの商品は、今もA氏が代表を務める別の美容関連会社で販売され続けている。その会社に電話をかけ続けたが、「本日の業務は終了しました」というアナウンスが流れるばかり。ならばと、自宅マンションを訪ねるも、妻とおぼしき女性が「Aはここには不在にしていますので。どこにいるかは私も知りません」と、取りつく島もない。

「結局、チズさんの2億円も何に使われたのかはわからないまま。返されることもなかったそうです。これらはチズさん側の言い分でしかないですし、当時、会社の経営が行き詰まっていたのは事実。だから、女性スタッフのほうにも言いたいことはあるでしょうけれど……」(前出・美容業界関係者)

 それでも、彼女を“私の後継者”と呼ぶほど信頼していたチズさんのショックと憤りはそうとうなものだった。

「実際、テレビや新聞の取材現場では、名指しでその女性スタッフへの恨み節を語っていましたから。でも、彼女はチズさんの会社を去った後、まだこの業界で仕事をしているんです。“トータルビューティーアドバイザー”という肩書でね。水井真理子氏がその人。プロフィールには佐伯チズの“さ”の字も出てきませんが、みんな、彼女だと知っていますよ」(同・美容業界関係者)

水井真理子氏を直撃

 水井氏は、有名女性誌やWEBメディアなどの美容企画やインタビューにしばしば登場。’19年には著書も出版している。大恩人が亡くなった今、何を思うのか──。

 6月10日、本誌は水井氏の自宅を訪ねた。都心の一等地にある瀟洒なヴィンテージ・マンションのインターホンを押すと、水井氏本人がオートロックを開けてくれた。玄関先に出て来た水井氏は、薄手の白いTシャツ姿で化粧っ気もなく“ビューティーアドバイザー”の面影はない。

『non-no』『anan』『ELLE』『LEE』……といったメジャーな女性誌や、そのWEB版で活躍している水井氏。中でも“スキンケア”には定評があるという。ちなみに、チズさんもスキンケアを得意としていた

─亡くなられた佐伯チズさんのお話を伺いたいのですが。

「どうやって、この住所がわかったんですか……!? 佐伯先生のことは、私が話せることではないので……」

─チズさんが生前、水井さんに「2億円を取られた」「会社を乗っ取られた」と話していたことについては?

「……このようなことになって……私がお話しできることはありませんので」

─チズさんが亡くなったと聞いたときは?

「つらくないわけ……ないじゃない……!」

 水井氏は最後にそう言うとあふれる涙をぬぐった。それは惜別の涙だったのか、悔恨の涙だったのか──。