読み聞かせをする容疑者。現在はキッズラインHPから削除されている

「そんなハレンチなことをする男性じゃないわよ。子どものころから、まじめでおとなしかったんだから」

 と容疑者宅マンションに住む60代女性は“誤認逮捕”を疑うような口ぶりだった。

容疑者に仕事を頼んだ女性に聞く

 東京都目黒区のマンションで、5歳女児の身体を触るなどわいせつな行為をしたとして警視庁目黒署は6月12日、強制わいせつの疑いで大田区蒲田の職業不詳・荒井健容疑者(30)を逮捕した。

 マッチングアプリを介してベビーシッターを請け負い、保育中に犯行におよんでいたから悪質極まりない。

「被害女児の母親はコロナ禍による在宅テレワーク中で、その目を盗んで別室で手を出したとみられる。言葉巧みに公園の多目的トイレに女児を連れ込み、下着の中に手を入れたこともあったようだ。容疑者は“気持ちを抑えきれなかった”と犯行を認めている」(全国紙社会部記者)

 荒井容疑者は2018年7月、ベビーシッターのマッチングサービス『キッズライン』に登録。今年4~5月中旬にかけ、被害女児宅を計8回訪問していた。男性シッターは珍しい中、「保育士資格」を持っていることを売り文句にし、華奢な身体つきや朴訥(ぼくとつ)とした雰囲気も、顧客の警戒心を解くのに役立ったとみられる。

 実際はどのような仕事ぶりだったのか。荒井容疑者にシッターを頼んだことのある女性に話を聞いた。

 被害者と同年代の女児を育てる都内の40代女性は、荒井容疑者に初めてシッターを頼んだとき、「保育士さんなのに無表情で笑顔がないな」と違和感を覚えたという。

「コミュニケーションをとるのが苦手なのかなと思い、うちの娘は人見知りが激しいので心配でした。夕ご飯の世話と寝かしつけをお願いして、“一緒に遊んでもらえるだけで大丈夫なので”と伝えました。“お風呂は入れなくていい”とも話しました。預けたときは娘の様子について事後報告してくれるんですが、一緒に工作をするなど遊んでくれたことはわかる内容でしたね」(同・女性)

自宅の鍵を欲しがった容疑者

 シッターを依頼したのは昨年12月から今年2月までで計4回。荒井容疑者は「時給2000円」と料金設定が高かったため、最初は断ろうとしたところ、

《時給1300~1700円でいかがでしょうか》

 と幅を持たせてきたり、

《1000円でいいですよ》

 と半額提案するほど必死だった。

「安くしてくれるのはありがたいけれど、最初の『時給2000円』は何だったのかと思ってしまう。次回の予約をとることにも積極的でした。慣れてきたのか次第に笑顔も見せるようになり、5回目のシッターをお願いしようとしたときのことです」

 と、この女性はひと呼吸おいて振り返る。

「娘を公園に連れて行きたいので戸締まりのため自宅の鍵を預けてくれというんです。でも合鍵を作られたら怖いじゃないですか。それにシッターを頼むのはいつも夕方からで、日の短い真冬だったのでもう薄暗い時間帯なんですよ。結局、頼みませんでしたが、もしかしたら娘をそういう対象として見ていたのかもしれないと思うとショックです。事件は信じられません」

荒井容疑者と40代女性のやりとり。報告は丁寧だが、公園という言葉に不穏な空気が漂う

 保護者の信頼を得るためか、シッター後の報告は具体的かつ詳細。子どもの成長ぶりがわかる書き方は巧妙で、最初から犯罪目的だとしたら恐ろしい。

 女性は逮捕のニュースを受け、警察にも相談したという。

 JR蒲田駅から徒歩10数分、築35年の分譲マンションで容疑者は両親らと暮らしていた。穏やかで人当たりのよい住人が多く、容疑者一家を悪く言う声はほとんどない。

「ご家族はみなさん誠実なんです。おばあちゃんと同居してらして、お子さんたちもいい子ばかりなのに……」

 と前出の60代女性はため息をつく。

取材に応じない運営会社

 一家を知る住人らによると、容疑者は3人きょうだいの末っ子。地元の小・中学校時代は、クラスでは目立たない存在ながら成績優秀だった。

「運動神経はゼロ。友人も少なく、女子生徒にもモテなかったが、頭だけはよかったですね。あだ名は“アラケン”。通っていた進学塾では成績最上位のクラスでした」(中学の同級生男性)

優秀だったという中学時代の荒井容疑者

 別の同級生女性は、「本当に静かな子だった」と印象の薄さを語る。女性アイドルや異性には興味を示さず、友人と対戦型アクションゲームをするのが唯一の息抜き。ストレスがたまっていたのか、塾で“脱線”することもあった。

「塾生が講師を“逆採点”する仕組みがあるんです。みんな講師たちに気を遣ってほとんど『〇』をつけるんですが、アラケンはちょっと空気が読めないところがあって、『×』とか『△』をつけまくって講師に呼び出されていました。授業中にふざけて呼び出されたこともあって、ふだんは温厚な講師に怒られ泣きじゃくった。クラスメートが慰めていましたが、それくらいで泣くなんてビックリ

 と前出の同級生男性。

 卒業後は都立の進学校に進んだはずだという。

 近況に詳しい関係者が少ない中、容疑者宅マンションの女性住人は「子ども向けのお楽しみ会がメインイベントの町内夏祭りで、容疑者らしき人物を見かけた」と話す。子連れの参加者が多く、若い男性の単独参加は珍しいため記憶に残ったようだ。

 なぜ保育士資格を取得したのか─。

 容疑者宅のインターホンを押すと、「はい、なんでしょう」と母親と思われる落ち着いた女性の声。事件についてお聞きしたいと申し出たところ、それ以降はいっさい言葉を発しなかった。

 事件に使われたマッチングアプリ『キッズライン』をめぐっては、別のシッターの男(29)が預かった5歳男児にわいせつな行為をして4月に逮捕(6月10日に類似の別件で再逮捕)されている。

 運営会社『キッズライン』(経沢香保子社長)は両事件を受けて男性シッターのサービスを一時停止。シッターの経歴や資格を定期的にチェックするなどの再発防止策をホームページ上で公開しているが、犯行態様を見る限り、どこまで効果があるか疑問が残る。最初から犯行目的でマッチングサービスに登録した可能性が否定できないからだ。

・両容疑者は登録時の面接で志望理由をどう述べたのか
・実地研修での評価はどうだったのか

 など質問を送ったが、回答はなく、取材窓口の電話もつながらなくなってしまった。

 そのとき、被害女児らはシッターの豹変にどれほど怖い思いをしたか。再発を防ぐためにも想像してほしい。