凛ちゃんも毎日オンライン学習に励んでいる。「全然休んでなんかいない。毎日勉強している」と凛ちゃん

「“過保護”と面と向かってほかの保護者に言われました。なんと言われようと、私は家族を守るために学校には行かせません」

 と宣言したのは、都内在住の若井優希さん(仮名・40)。緊急事態宣言が解除され、学校が再開された今も、自主的に休校を続けている。

 6月1日時点で全国の小学校と中学校の99%が、高校の96%が再開したことを文部科学省が発表した。

 表情の見えづらいマスク着用義務に加え、向かい合って食べることのない給食、ソーシャルディスタンスが保たれた席。学校が再開したからといって元の生活に戻ったわけではない。

 冒頭の若井さんは、

「学校を信用していいものか……、大ごとになってから後悔したくありません」

 と語気を強めた。

アトピーのため学校でマスクをはずしたら

 若井さんは、小学校6年生の長女・麗美ちゃん(仮名・12)、小学校1年生の長男・流星くん(仮名・6)と夫の4人暮らし。

「長男がアトピー性皮膚炎なんです。1日つけたマスクの裏を見たら血で真っ赤だったんです。蒸れて痒(かゆ)くなって掻(か)きむしったんでしょうね。春休み中にそのことを学校にお伝えしたんです。まだ担任も発表されていなかったので、学年主任の先生が対応してくれて、そのときは安心して学校に通えると思っていました」

 しかしその思いは打ち砕かれた。自主休校への決定打は5月中の分散登校にあった。

ゴールデンウイーク明けからひとクラス6名ずつの分散登校が始まりました。そのときに流星がマスクをはずしたら周囲の子どもたちがマスクしないなんて悪いやつだ、と囃(はや)し立てたらしいんです。そのときに担任の先生は“そうだね、マスクしないといけないよね”と言ったと聞いて。アトピーのことを知っていたのにその反応は、とあきれてものが言えなくなりました。その日に学校に電話をして理由を説明し休校を伝えました。学年主任の先生から謝罪をいただいてマスクをはずしてもいいという許可をもらいましたが、担任にまた傷つけられるのではないかと不安が募り……。だって、そんな反応をする人ですよ」

登校している人を否定しているわけではないのに

 姉の麗美ちゃんは学校に通っている。

「姉が流星に学校の楽しい話をしてくれるので、学校自体を嫌いにはなっていません。ただ、担任の先生への不信がぬぐえない」

 若井さんの日々は忙しい。学校生活と同じように子どもの時間割を管理。加えて、大手学習塾のオンライン授業やオンラインのサッカースクールなども並行している。

新小学1年生の定番課題は朝顔の観察。「育ったぶんだけ休校の長さを実感させられた」との声も(写真はイメージ)

「学校に行かせたほうがよっぽど楽です。教師役もしなくてはなりませんし、家だとやはり気が緩んでだらだらさせてしまうところを厳しく管理しなければいけません。私もときどき揺れますよ。みんなと一緒に過ごさせたほうがいいのではないかと思ったりもします。だけど親が揺れていたら子どもに伝わりますから、強い姿勢で学校に行かないで! と私がお願いする形をとっています。担任は連絡を一切寄越さずに学年主任の先生がしてきている状態。トラブルになるのをおそれているのでしょうが……」

 担任への不信感が払拭されるまでは学校に行かせない、という選択をした若井さん。そんな彼女は周囲から過保護、過干渉、モンスターペアレンツなどと言われている。

「幼稚園が一緒だったママさんから、《なんで休んでるの? 流星くんがいないからうちの子も休みたいって言ってて困るんだけど》っていうLINEをもらいました。ほかにも《過保護すぎない? ちょっとは子離れしなよ》とかいろいろ。

 なんでわざわざ他人の家庭の事情に首を突っ込むのですかね。私は登校している人を否定しているわけではなくて、うちの子どもは行かせられないというだけなのに

「かわいそう」無責任な周囲の声

「私ってかわいそうな子なの? と娘に聞かれました」

 と話すのは東海地方在住の伊藤まさこさん(仮名・37)。伊藤さんは小学校3年生の娘・凛ちゃん(仮名・9)と夫の3人暮らし。凛ちゃんが学校を休んでいることは近所でも有名だという。

休校中、多くの小中学校はオンライン授業などを行わず家庭学習は親に任せっきりになった(写真はイメージ)

「田舎特有の村社会で。クラスも1クラスしかないですし、うちがコロナを理由に休んでいることはすぐに知れ渡りました。

 娘は不安感が強い子で、毎日コロナのニュースを見てウツぎみになってしまったんです。それで休校を決めました。担任は凛の性格を知っているので理解してくれましたが、学年主任と教頭から“過保護じゃないですか?”と言われました。

 家の前で体力づくりのために縄跳びなどをしていると、通りすがりの近所のおばあちゃんとかから“学校に行けないんだって? かわいそうに”としょっちゅう言われます。それで娘が“私って、かわいそうなの?”って。そんなことないよ! かわいそうって言う人がかわいそうだね、と言いました

 無理に学校に行かせずに安全な場所を提供した伊藤さんのサポートのかいもあり、凛ちゃんも心の健康を取り戻しつつあるという。

「本人が学校に行きたい! と言ったらすぐに通わせようと思いますが、周囲のお友達に何か言われないか、不安が募りますね」

*  *  *

『学校が子どもを殺すとき』の著書があるジャーナリストの渋井哲也さんは、コロナで学校に行かないことは評価する一方で注意点があるという。

「学校との接点をなくさないこと。担任が信頼できないなら学年主任や教頭など誰か1人は理解者をつくっておくこと。

 もうひとつは親が孤立しないこと。学校で学ぶいちばん大切なことは人間関係の構築です」

 今回取材した2組の家族は特別過保護でも、モンスターペアレンツでもない。新しい生活様式と同様に、アフターコロナの世界ではそれぞれの価値観で行動できる親の勇気が、子どもを救うのではないだろうか。