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 新型コロナウイルス感染症の陽性者が24日、東京都で55人にのぼった。東京で50人
を超えたのは5月5日以来のことだ。

 その無症状や軽症の人がホテルなどで療養するのが本格的に始まったのは4月末。埼玉県で自宅療養中の男性が死亡し、リスクが大きく問題視されて厚生労働省が4月23日、宿泊施設での療養を第一にする方針に転換してからだ。

 東京都はその前、4月7日から宿泊療養を始めており、これまで都内5つのホテルが患者を受け入れてきた。すでに一部では受け入れが終了しており、8月からの新たな受け入れ先のホテルの募集がはじまるところだという。

調べないと出てこない数字に違和感

 しかし、ホテル療養とは、どこでどんなふうに行われているのか? 見えてこない。調べてみると、東京都ではこれまで5つのホテルが受け入れてきたが、厚生労働省の発表(新型コロナウイルス感染症患者の療養状況、病床数等に関する調査結果)では6月17日時点で、都内で2865室が用意され、64人が利用している。

 もちろん感染者総数の増減でその数は変わり、4月27日時点では1558室が用意され、193人が利用していたし、6月17日の数字も前週よりは増えている。今後、第2波、第3波に襲われたり、PCR検査数が増えて無症状陽性者が増えた場合には、再びホテル利用者が増える可能性もある。

 ちなみにコロナ感染症での入院用のベッド数は、東京都で6月17日時点で3,300床が用意され、236名が入院してる。重症者用ベッドは400床があり、22名が入院中だ

 こうした数字、厚労省のサイトで発表しても、東京都は積極的に公表していない。こういう数字こそ、私たちが知りたいことなのに、どうしてもっと大きく伝えてくれないんだろうか。 

 そもそもホテル療養について、知り合いの医師に尋ねても「東京都はかん口令を敷いている」ようで、ほとんど情報が入ってこなかった。一体、何のために? 誰もが感染の恐れがあり、ホテル利用になる可能性もあるのに、どんなふうに、どこが運営しているのかもわからず、不安がふくらむばかりだ。

 そこで、都内で療養者を受け入れた各ホテルに内情を聞いてみるも、「行政にホテル1棟そのままお貸ししていて詳しいことはお答えできません」(東横INN東京駅新大橋前を提供している東横イン広報部)とか、「プレスリリースをご覧になってください」(イーストタワー品川プリンスホテルを提供する(株)プリンスホテル)と、宿泊を受け入れていることは教えてくれても、運営についてはうかがい知ることができなかった。

スタッフからの不安や不満はない

 そんな中、インタビューに答えてくれたのが『the b 八王子』を1棟そのまま提供するISHIN HOTELS GROUPのオペレーション本部マネージングディレクターの八木貴博さんだ。こちらはホテル療養が始まる前、八王子市より、「市と地元医師会で協力するので考えてもらえないか」と打診を受けて療養者の受け入れを決めたそうで、快くインタビューに応じてくれた。

「社会への貢献、社会からの要請として大切な役割だと捉えて手を挙げました。一方で、ホテル利用者が激減して苦しい状況のなか、従業員の働き場を確保するという意味で応えたという面もあります。初めての経験であることに加えて、都内で感染が拡がるスピードへの対応もあり、いざ受け入れが決まってから、実際に軽症者が入所するまでは急ピッチで進める必要があったことは大変でした。

 なぜならば、the b 八王子にはテナント様がいたり、事務所貸しもしていますし、飲食店もあります。そうしたところへの説明や、さらに大切な周辺の住民のみなさまへの説明など時間がかかりました。飲食店様などは、全店お休みしていただいています。

 また本件を進めるにあたり、スタッフの安全確保を最重要視し、決定前にスタッフが担う業務内容や安全面の確認をいたしました。そして決定後は、東京都の指示に従い、ホテル内を汚染ゾーンと衛生ゾーンに区分けしたり、業務フローを整える事前の研修など、感染防止策を徹底して講じていきました

 ほかのホテルではどこも「運営には一切、携わっていない」と言っていたが、こちらは1棟そのまま貸し出すだけでなく、ホテルスタッフも勤務している。

「スタッフに概要を説明し、そのままここで働くか、休むか、ほかのグループ・ホテルで働くか希望を取り、普段の約半分のスタッフが今も働いています。現在の予定では7月中旬まで療養者の方が宿泊し、8月1日から一般営業に戻ります。期限が区切られていることで、スタッフも緊張を途切れさすことなく働くことが出来ていると思います。これまで特に不満や不安は聞かれません

 主な業務を尋ねたところ、「療養者さんに朝昼晩、1日3回のお弁当の配布ですとか、部屋から出たゴミを持って来てもらい、それをまとめるなどです。あとは館内放送のお知らせ。また看護師さんと事務局の担当者は24時間常在していますので、その部屋の清掃もあります。さらに事務などの内勤もあります」とのこと。

 ゴミの片付けといっても感染性廃棄物の処理になる。長袖ガウンやマスク、ゴーグルなどの着用が必要になり、感染最前線だ。また療養者への差し入れを受け取り、あらかじめ用意した「差し入れコーナー」に置いておくと、療養者本人が取りに来ることができるようにしているそう。ちなみに医師は昼間のみ常在していて、療養者に何かあった場合は館内電話で連絡をする。

リネン類はすべて焼却処分

 しかし、療養者はホテルでは基本、部屋から出ることはできない。『the b八王子』の個室に窓はあるが、「近隣の住民のみなさまもいらっしゃるので……」ということで、窓を大きく開けて過ごすことはできないという。ホテルの個室で24時間、最低でも2週間を過ごすのは中々にハードだが、仕方ない。

 さらに、「タオルやアメニティーはご自身でお持ち込みされたり、ホテルからも提供いたしますが、その間シーツなどのリネン類は交換しません。当ホテルでは退所されるときにリネン類はすべて焼却処分することになりました」というから、ホテルならではのパリッとしたシーツを毎日味わうことも難しい。

 お湯を沸かすポットなど部屋の備品はそのまま使うことができるが、自分の下着などは部屋で手洗いして室内に干すしかない。東京都のサイトには体温計やタオル、パジャマなどは持参するよう書いてあるが、パジャマも手洗いしなきゃいけないのか? どうも快適な療養生活というふうにはいかないようだ。ちなみに『the b 八王子』では宿泊費やお弁当代だけでなく、アメニティ・グッズなども無料で提供している。

 さて、『the b 八王子』が療養者向けに提供されるのは7月中旬まで。その後は東京都から請け負った業者によって館内一斉の消毒が行われるという。

「8月1日から一般営業に戻りますが、果たして風評被害のようなものがおこるかどうか読めないですね。この状況の中、最前線で感染防止策を学んで実践してきたので、その軽症者受け入れをしたホテルである学びを今後のオペレーションに実際に生かし、安心安全な滞在が出来るということを、より実践的に、より具体的にお客さまに伝えていきたいと思っています」

 大変な役目を担ってくれたホテルには感謝しかないが、第2波がこの秋にも来ることも予想される中、ホテル療養に関して東京都や厚労省は情報をもっと公開してほしいところだ。

 誰もが利用の可能性があるホテルが、どういう場所かわからないまま、体調が不安定の中、2週間の滞在を決めるのは難しい。また、療養者がホテル個室に閉じこもったまま不自由な生活を送らなければならない今の状態も、改善を望みたい。

<取材・文/和田靜香>