精力的に選挙運動をする“ゆづか姫”こと新藤加菜候補(@himeyuzkより)

「夜のお店の写真じゃないんだから」

 東京の北区役所前のポスター掲示板を前にため息混じりにこぼすのは、同区に長らく住んでいるという70代の女性だ。

 6月25日に告示された東京都議会議員選挙の補欠選挙が7月5日に投開票される。その候補者のポスターが6月28日から各選挙区に掲示されたのだが、北区の欠員1名を争う5名の候補者がみな女性だったのだ。

 もちろん、冒頭の女性が「夜のお店」と顔をしかめたのは、候補者がみな女性だったからではない。そのうちの1人が“いかにも”な写真だったからだ。

“ピンクポスター”が街中にあふれた

 背景や文字の色など、ピンク色を基調したポスターに写るのは、両手で胸を寄せた“下着”姿でニッコリ微笑む若い女性。まるで水商売の指名写真か、かつて公衆の電話ボックスなどに張られていた“ピンクチラシ”のようだ。

 そんな性をイメージさせる“ピンクポスター”が堂々と、ビシッとキメた他候補者と並んで張られているのだ。同区内のファミリー層が多く住むマンション前だったり、小学校の塀に沿って掲示されているのだから、子どもへの影響を案じてか恨めしそうに女性の写真を一瞥(べつ)する保護者の姿も。

 しかも、よ〜く見たら、この女性が身につけているのは下着ではない。記者宅にも届いた、見覚えのある特徴的な小さい布マスク。安倍晋三首相が国民に配布した“アベノマスク”2枚を組み合わせて作ったものだ。ポスターにはご丁寧に《アベノマスクブラ(笑)》とあることから間違いないだろう。

《ホリエモン新党公認 しんどう かな》

 それが“ピンクポスター”に写る候補者の名前だ。「ホリエモン新党」とは5月25日に発足したばかりの政治団体で、代表者は「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志だ。

「ところが、“ホリエモン”こと堀江貴文氏自身が自身のツイッターで“特定の政党や候補者とは関係ありません”と話すように、実際は、彼はこの新党には関わっていないと言うのです。NHKに続き、ホリエモンという“パワーワード”を用いて注目を集める立花氏の戦略なのでしょう。とはいえ、ポスターに堀江氏も登場していることから、まったくの無関係とは言いきれないと思います」(全国紙記者)

 なんともはっきりしないモヤモヤするホリエモン新党。そして公認を得て出馬したのが「しんどうかな」こと新藤加菜氏だ。

「現在27歳で10年ほど前から“ゆづか姫”という名前で、動画配信サービス『ニコニコ動画』に出演してアイドル級の人気を博しました。今で言う“ユーチューバー”ですね。熱狂的なファンに支えられる一方でアンチも多く、それでも“死ぬまで愛して”と良くも悪くも視聴者を惹きつける存在でしたが、最近はめっきり話題にならなくなっていました。

 プロフィールによると、早稲田大学法学部卒の高学歴ながら“ニート”を自称。昨年から“N国党”と関わり、衆院選の立候補予定リストにも名を連ねるように。政治家としての実績は皆無ですが、“ゆづか姫”として一定の知名度があるため担ぎ出されたのでしょう」(ネットニュースメディア編集者)

 「NHKをぶっ壊す!」といった過激なスローガンで注目を集めた立花氏だけに、今回は過激なポスターで目を引こうとしたのだろう。

選挙管理委員会の対応は

 それにしても、こういった過激な写真を選挙ポスターにするなんて、許されることなの? 東京都議会議員選挙を管理する、東京都選挙管理委員会に改めて同ポスターについて聞いてみると、

「公職選挙法における条文の解説書によりますと、ポスターの記載内容につきましては虚偽事項公表罪であったり利害誘導罪、または刑法や破壊活動法に反するような事柄であれば、当然、法的規制があるわけですが、これらに関する記載をしない限りは原則として選挙運動の自由があります。例えば全裸であれば(公然わいせつ罪などの法に)触れるでしょうが、そうでなければ(表現内容に)規制はないのです」

 今回の“ピンクポスター”は法に触れている、とは言えないようだ。さらに、ポスターに関して事前チェックすることはなく、それこそ選管(選挙管理委員会)も掲示板で初めて記載内容を知ることもあるのだとか。

「今回、事前にネット上でマスクを使用した形のものであること、かなり扇情的な内容であることを把握しておりましたので、都の選管と連絡を取った上で、北区選管の方から“再考された方がよろしいのではないか”という話を候補者サイドに促しています。ただ、そういった話をしても、候補者サイドからは“法的な規制、根拠があるわけではない”との回答があったと聞いています」(東京都選挙管理委員会)

 北区の選管の方からポスター内容の変更を提案されたにもかかわらず、ホリエモン新党はこれを“突っぱねた”ということのようだ。

ポスターが掲示されるやいなや、区役所には数十件のクレームが入ったと言います。当然、子どもたちの教育上を考慮したものが多かったそうです。本来、住民や国民の生活をより良くするための政策を訴えるはずの選挙ポスターです。将来を背負う子どもたちに見せられないようなポスターが、果たして本当に“戦略”なのでしょうか。

 おそらく、自身も都知事選に立候補している立花氏にとって重要なのは勝ち負けではなく、ホリエモン新党の宣伝に過ぎないのではないでしょうか。かつてのN国党がそうであったように、先ずはひたすら目立って名前を売って、次の衆議院選挙への足掛けのような気がします」(前出・全国紙記者)

マスクブラは加藤紗里のマネ?

 一方、インパクトある“マスクブラ”で、まさに身を持ってホリエモン新党の名を売るゆづか姫。

「このネタは、もとは彼女が4月下旬にツイッターで“アベノマスクチャレンジ”として投稿したもの。これがネットで“バズって”、雑誌『週刊プレイボーイ』から取材が来たことを嬉々として報告していました。ですが、実はアベノマスクブラは彼女より先に“炎上女王”こと加藤紗里がツイッターに投稿していたものなのです。

 ゆづか姫の過去のツイートを遡って見ていくと、議員になることよりも先ず“目立ちたい”だけのようにも思えます。補選の出馬も、立花氏に“出る?”と聞かれて“でよかな”との軽いやりとりを告示3日前に明かしています。ホリエモン新党に利用されているように思える彼女ですが、win-winの関係なのでしょう」(前出・ネットニュースメディア編集者)

 こうしてピンクポスター問題を取り上げたことで、おそらくは記者もホリエモン新党の思惑にまんまと乗せられているのだろう。7月5日の有権者の判断を待ちたい。