「ヤバい女になりたくない」そうおっしゃるあなた。ライターの仁科友里さんによれば、すべてのオンナはヤバいもの。問題は「よいヤバさ」か「悪いヤバさ」か。この連載では、仁科さんがさまざまなタイプの「ヤバい女=ヤバ女(ヤバジョ)」を分析していきます。
別居状態と報じられた前田敦子と勝地涼

第42回 前田敦子

 元AKB48・前田敦子(以下、あっちゃん)と俳優・勝地涼が別居状態。『女性セブン』の報道には驚きましたが、記事を読んでみると、勝地はあっちゃんやお子さんと暮らす家とは別に“仕事部屋”を持っていて、そこで暮らしているそう。勝地は現在ドラマ『ハケンの品格』(日本テレビ系)の撮影中で不規則な生活を送っているでしょうから、別に暮らしているのかもしれません。もし本当に離婚をすることになったとしても、それでヤバい呼ばわりされる時代でもありません。

 今回の別居とは別に、前からあっちゃんに感じていたヤバさについて書かせていただくことにします。

マザコンを公言していたあっちゃん

 2018年8月22日放送の『1周回って知らない話』(日本テレビ系)が、芸能事務所ホリプロに密着していました。ホリプロと言えば、石原さとみら人気芸能人を多く抱えていることで知られています。ホリプロの敏腕スカウトマンは、スカウトの条件の1つとして「両親と仲がいい子」をあげており、時代が変わったのだと思いました。

 ホリプロには山口百恵さんという伝説の歌手がいましたが、自叙伝『蒼い時』(集英社文庫)によると、家庭環境は複雑で、経済的にもかなり苦しい生活を強いられていたそうです。百恵さんだけでなく、売れている芸能人で経済的な苦労や親との不和を経験している人は少なくありませんでした。しかし、厳しい芸能界を生き残るためにふんばりがきくという意味で、苦境やハングリー精神はむしろプラスに捉えられていたと思います。

 しかし、いまどきの傷つきやすい若者に根性論は通用しません。特に芸能界は、事務所にスカウトされたからといって、すぐに人気者になれるほど甘い世界ではない。スターの原石が「もう頑張れない」と心折れないように、親と事務所が協力してスターにするのが得策だとスカウトマンたちは思ったのでしょうか。

 ホリプロスカウトマンの言う「両親と仲がいいこと」にあっちゃんはあてはまり、特に、お母さんは大きな存在のようです。

 2016年7月22日付の『Daily Sun NewYork』のインタビューを受けた独身時代のあっちゃんは、「私は実家の目と鼻の先に住んでいるので、しょっちゅう親と一緒にいますし、本当にマザコンですね」とお母さんが大好きであることを明かしています。その気持ちは結婚して母となっても変わらず、2019年5月12日のインスタグラムには、「母はいつでもフラットでいてくれるし。大丈夫だよって必ず言い切ってくれて、かっこいいんです。つい甘え過ぎちゃいます」と全幅の信頼を寄せているようです。

 あっちゃんが芸能人としてここまで来られたのは、お母さんとの二人三脚の結果かもしれません。お母さんがいたからこそ、あっちゃんが頑張れたのだと思います。その一方で度を越したお母さん好き、“女のマザコン”になってしまうと、実は結婚生活がうまく行きにくい、ヤバい側面があるのではないかと思うのです。

母の指示なくしては生きていけない? 西川センセイ

 女医タレントのさきがけ、西川史子も“女のマザコン”と言っていいのではないでしょうか。西川センセイのお母さんは、娘を医師にするため全精力を注ぎこみます。『婦人公論』(中央公論新社)でお母さんがインタビューに答えていましたが、テストで100点を取ったら1万円、受験に関係のない家庭科や美術の提出物はプロにお金を払って作ってもらうなど、お母さんは受験勉強に集中できる環境を作り上げます。西川センセイが「医学部に行きたくない」と言ったら学費を払わないと宣言する一方で、医学部合格に向けて勉強するのなら、小遣いは無制限に与えたそうです。

 お母さんの期待どおり、西川センセイは医師となり、芸能活動を始め人気者となります。一般人男性と結婚しましたが、レギュラーを務める『サンデー・ジャポン』(TBS系)で突然「夫が家を出て行っちゃった」と告白したり、西川センセイ自身がホテルオークラに“家出”したことを明かすなど、うまくいっていないことは周知の事実でした。

 離婚後、西川センセイは『ノンストップ!』(フジテレビ系)で、「自分で初めて決めたことが結婚で、それで失敗した」と、お母さんの指示がなくては生きていけないかのような発言をしています。昨年、西川センセイはインスタグラムで失恋を告白しましたが、その際に「親にも友達にも泣いて、でもいまこんな感じで大丈夫です」と書いていました。48歳(当時)になっても、自分の恋愛を親に話すヤバさに背筋が凍る思いがしましたが、西川センセイとお母さんの癒着は変わらずということでしょう。

 親子仲良しで何が悪いんだという人もいるでしょう。たしかに、それは他人が口を出すことではありません。しかし、“女のマザコン”は母も娘も「誰がいちばん大事なのか」「誰が解決すべき問題なのか」を忘れがちという意味で、ヤバいのではないでしょうか。

夫とは溝ができても母とはぴったり合う

 結婚したら、夫婦は二人で協力し、生活を作り上げていきます。結婚しても親が大事な存在であることに変わりはありませんが、親は基本的に「別の家の人」であり、優先すべきは配偶者のはずです。

 しかし、“女のマザコン”は、常に気持ちがお母さんのほうを向いています。違う環境で育った夫とは意見が一致しないこともあるでしょう。この溝が埋まらず、イライラすることもあるでしょうが、お母さんとはぴったり合う。娘の思考回路や価値観は、ほぼ母親が作ったものなので合うのは当たり前なのですが、「お母さんなら、わかってくれるのに!」と“女のマザコン”化に拍車がかかってしまう可能性はあります。

 夫婦の問題は夫婦で話し合うべきですが、娘の愚痴を真に受けて、娘の夫に「もっと早く帰ってきなさい」「もっと家にお金を入れなさい」と命令するお母さんを私は実際に知っています。

『女性セブン』によると、お母さんのサポートを受けやすいように、出産前にあっちゃん夫妻は両親が暮らすマンションの別のフロアに引っ越したそうですが、お子さんが生まれてから、都心に舞い戻ったそうです。あっちゃんの知人は「勝地さんとあっちゃんのご両親との関係で、悩みがあったのでしょうか」と話していました。

 お母さんが「娘夫婦のお手伝いをしている」のならいいのですが、お母さんが娘のために奮闘しすぎると、お母さんが部長で、娘夫婦がその判断で動く部下のようになってしまうかもしれません。だとすると、夫はお母さん部長から離れたい、ひとりになりたいと思ってもおかしくはないでしょう。

 あっちゃんのような“女のマザコン”は、日本中に溢れていると思います。男性のマザコンは「気持ち悪い」と言われがちですが、“女のマザコン”はそう言われないからヤバいのです。なんだか恋愛や婚活がうまくいかないと思う人は、ご自分が“女のマザコン”になっていないか、考えてみてもいいかもしれません。


<プロフィール>
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に応えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」