8羽詰め込まれた採卵養鶏場のバタリーケージ。突つきあいを防ぐため、くちばしが切断されている。巣、砂場、止まり木もない

 新型コロナウイルス感染拡大防止対策で、緊急事態宣言が出されていた春の行楽シーズン。今年は外出自粛ムード一色で、地方の観光地では閑古鳥が鳴いていた。

 例年、5月~6月下旬ごろににぎわう山形県内の観光果樹園もほぼ閉鎖を余儀なくされ生産者は頭を抱えていた。

「エシカル消費」に関心が高まっている

 窮地を救ったのは都内に住む50代男性の友人。知人に声をかけて注文を集め、支援の輪を広げた。

「ふるさとの美味しい果物をたくさんの人に食べてもらいたい思いで声をかけて、80キロ注文が集まりました。農家の友人も“こんなに注文がくると思ってなかった”と、すごく喜んでくれました」

『楽天市場』は「全国の美味しいもの 食べてつながる支援の輪」と題し、観光客が激減した地域の特産品やイベント中止で販路を失った商品を集め、消費者と生産者をつなぐ緊急企画を実施。1つ注文すると100円寄付される仕組みで約2か月間行い、累計4000万円を超える寄付金額になった。

「チャリティー関連の取り組みは震災時にもありましたが、今回は特に盛り上がったように思います。誰を応援したいか、商品の裏側にどんな生産者がいるのか、消費者の側が強く意識する機会になったように思います」(楽天サステナビリティ部)

 打撃を受けたのは生産者だけではない。

 廃業の危機に直面し、手探りでテイクアウトを始めた飲食店を応援しようと、SNS上では「美味しいはコロナに負けない」「食べて応援! お店の味をおうちで」などと呼びかける投稿が目立った。「とちぎエール飯」「別府エール飯」など、全国で地元住民らがテイクアウトできる店舗をマップにまとめ、サイトを作成。テイクアウトの利用を写真つきで投稿する人も急増し、“応援消費”が盛り上がった。

 好きな店や企業をつぶしたくない。生産者を支えたい。そんな誰かへの思いやりでお金を使う応援消費。実はコロナ以前から近年の新しい消費行動として注目を集めていた。

 株式会社ジャパンネット銀行が今年2月末に20~60代の男女1000人に実施した応援消費に関する意識調査によれば、60%の人が「誰かのためや共感できるモノにお金を使いたい」と回答。約3人に1人が応援消費の経験者で、「応援したい対象がいた」「思いに共感できた」などが理由に挙げられた(写真ページのグラフ参照)。

 もともと、被災地支援の復興を支える消費が盛り上がり生まれた「応援消費」という言葉。最近ではふるさと納税、クラウドファンディングなども広く含むようになった。

 また、環境問題の改善や持続可能(サステナブル)な形を求めて課題に取り組む事業者を応援し、倫理的で正しいと思えるものにお金を使う「エシカル(倫理的な)消費」に関心が高まっていることも背景にある。 

 最近、セブン-イレブン店頭でその言葉を見かけた人も多いのではないだろうか。

 今春より、消費期限間近の商品に「エシカルプロジェクト」というシールを貼り、該当商品を買うとnanacoポイントが付与される取り組みがスタート。食品ロスが削減され、環境に配慮した商品の選択ができるようになった。これも地球に思いを馳(は)せた応援消費だ。

 地球温暖化や気候変動の問題を中心に、持続可能な生産と消費の研究を行う慶應義塾大学大学院の蟹江憲史教授は、エシカル消費への意識の高まりをこう分析する。

「2015年、国連サミットで米国や北朝鮮、中国も含む193か国が合意した持続可能な開発目標『SDGs』が採択され、エシカル消費という言葉が徐々に認知されるようになりました。飢餓や環境破壊、ジェンダー平等など2030年までに未来を変える17の目標が掲げられ、中には“つくる責任・使う責任”という消費者に訴える項目もある。実際、買い物を通して社会や環境を支える選択をしたいと考える人がここ2、3年で増えてきた印象があります」

※グラフは株式会社ジャパンネット銀行の調査をもとに週刊女性作成 イラスト/おおつかさやか

 ウィズコロナ時代、応援消費の盛り上がりをきっかけに「エシカル消費も定着するのではないか」と蟹江教授は予想する。

「外出自粛にしても応援消費にしても、ひとりひとりの意識が積み重なって社会や経済が成り立つことがよくわかった。環境や地球の問題も同じで、長期的な対策が必要だし、個人の意識が鍵になる。それを多くの人が今、肌で感じているはずですから」

 そう前置きしたうえで、感染爆発と地球が抱える課題は、切り離せない関係にあると警鐘を鳴らす。

人間の自然破壊により環境バランスが崩れ、生息地を追われた野生動物が病原体を拡散し、コロナのようなウイルスが突出するという論調で語る学者も多い。このままだと、環境に負担をかけず、化学物質を軽減したものを選ばざるをえなくなりますよね。

 また、6月中も異常な猛暑日が続きましたが、マスクをしながら生活すれば、新たに熱中症のリスクも高まる。すると温暖化対策も同時にやらなければいけないわけです」

 安さ重視で商品を買う。何の気なしに手に取ったモノに、健康被害や未来を脅かすリスクが隠されていたら……。いつも買う商品の背景にあるストーリーは悲劇か、人や動物、環境を守ろうとする生産者の逆転劇か──。

猛暑と健康被害を加速させる野菜選び

「日本は農薬の使用基準が相当ゆるい。環境にも人にも悪影響のある農薬が野放しにされてきました」

 NPO法人『食品と暮らしの安全基金』代表の小若順一さんが特に問題視するのは『ネオニコチノイド(ネオニコ系)農薬』だ。

「虫の神経に作用するほか、野菜や果物の受粉で重要な役割を果たすミツバチの大量死が国内外で長年指摘されてきましたが、日本は問題にしてこなかった」(小若さん、以下同)

 EUでは2018年、ネオニコ系農薬の主な3つの成分の屋外使用を禁止。フランスは全面使用禁止にしている。

 だが、世界中で規制が加速するなか、日本では稲作や青果の栽培に広く使われてきた。'15年には、ホウレンソウや春菊などの残留基準値を段階的に緩和したほどだ。

 昨夏、北海道大学研究チームは「母親が食べたものから摂取したネオニコ系農薬は、胎盤を通り、胎児にも移行する」と報告。

 一部の専門家は、子どもの脳の発達に悪影響を及ぼす可能性を指摘する。

ネオニコ系農薬7種類のうち2種類は発がん性も認められています。水で洗い流せる農薬と違って、土にまくタイプの農薬なので、雨が降ると根から吸い込んで、葉を食べた虫を殺す力があります。

 今年4月施行の改正農薬取締法でようやく日本も影響評価対象に飼育用ミツバチを追加し、一部制限が始まるようですが、これからですね」

 では、環境にも人にもやさしい観点で作られた野菜をどう見抜けばいいのだろうか。

化学合成された農薬や肥料の使用が禁止された『有機JAS』認証を受けた野菜は安全です。自然農法、自然栽培、無肥料栽培、循環農法と謳(うた)うこだわりの農家を見つけて宅配利用するのもいいですね」

 オリンピック、パラリンピックの選手村で提供する農産物の条件として注目された『GAP認証』も覚えておきたい。

 農薬のみならず、環境保全や働く人の安全など、栽培から出荷までに厳しいルールが細かく設けられ、第三者機関がチェックする。ローソンやイトーヨーカドーが日本独自の『JGAP』認証取得に取り組むほか、イオングループは、さらに厳しい国際基準である『グローバルGAP』認証取得を進めている。

「現在、全国のイオン直営農場全20か所で認証を取得しています。'18年より、グローバルGAP認証を取得した農場から出荷されたものとわかるように『GGNラベル』をつけた商品の取り扱いも始めました」(イオン広報担当者)

 イオンでは地産地消コーナーにも力を入れ、全国300店舗で展開。これが地球温暖化防止につながると、前出の蟹江教授は評価する。

「フードマイレージ(生産地から食卓までの輸送距離)の観点で言えば、食材を長距離輸送する過程で温暖化ガスを排出し環境に負荷をかけます。フランスではCO2排出量を商品に表示していますが、日本では見えにくい。地元の野菜を選ぶこと、家庭菜園を始めることもエシカルな選択になると思います」

平飼いされている採卵鶏 (c)CompassioninWorldFarming

子宮をボロボロにしながら産んだ食用卵

「鶏には本来、巣箱に隠れて卵を産みたい習性があります。ところが、日本の採卵養鶏場の92%が『バタリーケージ』といって、足元も横もすけすけの金網の上で卵を産ませています。伸びきった爪が金網に引っかかり、くちばしが割れ、隙間に挟まって死んだり、羽ばたこうとして骨が折れたりすることも日常茶飯事です」

 NPO法人アニマルライツセンター代表理事の岡田千尋さんは眉を顰(ひそ)める。

 さらに驚くことに、日本には飼育面積の最低基準がない。狭いところでは300平方センチメートル前後で1羽あたり、iPad1枚分だけ。8羽を無理やり詰め込んだケージでは鶏と鶏の間から顔を出すのがやっとという惨状だ(トップページの写真参照)。2018年、韓国ではEUと同じ1羽あたり750平方センチメートル以上を最低飼育面積として法制化。欧米、南アフリカ、メキシコ、ブラジル、タイをはじめ、世界ではケージ飼育をやめる『ケージフリー』の動きが強まっている。

 アニマルウェルフェア(動物福祉)は“かわいそう”という感情論ではなく、動物行動学、生理学などに基づき、科学的根拠で論証されたもの。

 例えば、27時間絶食させた鶏に巣箱と餌を選ばせると、巣箱に駆け寄るという実験結果もある。食欲より強い欲求や本能が奪われているのだ。

「鶏は自分で健康管理ができます。1日1万回以上地面をくちばしで突き、足で穴を掘り、ミネラルを含む土や虫を食べる。砂遊びでダニや寄生虫を落とし、太陽の光で殺菌する。自由に飛び回り、止まり木で眠るのが至福の時間です。一方、運動ができないケージ飼育の鶏は骨の厚みが3分の1。生後すぐに複数のワクチンが打たれ、月に1度、殺虫剤を身体に噴射されて何とか生き延びています」(岡田さん、以下同)

 日本は卵の消費量がメキシコに続き、世界第2位。1人年間337個と言われる。

 親鶏が育てられる数である年間20個を産むのが通常だが、採卵鶏は品種改良により約300個産んでいる。

「知人の獣医師が、屠殺(とさつ)される前の150羽ほどの採卵鶏(廃鶏)を解剖した際、約9割は卵巣か卵管に疾患があり、卵巣嚢腫(のうしゅ)の状態になったり、卵管に腺がんがあった鶏もいたそうです。子どもを毎日産み落とすわけですから」

 欧米のスーパーの棚ではオーガニック、放牧卵が大半を占める。日本も数は少ないが、『平飼い』表記の卵を扱うところは増えてきたという。

「普段買う卵より値段が少し上がるかもしれませんが、日本人はそもそも卵を食べすぎています。数を減らして、6個入りの『平飼い』や『放牧』の卵に適正な対価を払うようになってほしいと思います」

生涯拘束される国産豚も

 採卵鶏と同様、食肉鶏もまた飼育環境の劣悪さで後遺症が報告されている。糞尿(ふんにょう)が一面に敷かれた閉鎖空間で数千羽がぎゅうぎゅう詰め。その飼育密度はEUの1.7倍、ブラジルの1.8倍だという。

 また、過度な品種改変により、本来150日かけて大人になる鶏が、生後50日で大きくなり、殺されて肉になる。急速に成長する体に作り変えられ、心筋梗塞や腹水症、成長痛で苦しんでいる。

 私たちが食べるのは生後40~50日前後でまだピヨピヨと鳴くひなの肉だという。

「ワクチンと抗生物質を与え、ギリギリ大量死しない環境です。厚生労働省によれば鶏肉からの薬剤耐性菌の検出率は国内59%、海外34%。2050年になると1千万人が薬剤耐性菌で死ぬと予測されていて、この数は今のがんの死亡者数を上回ります」

 羽から足が生え、脳みそが変形するなどの先天的異常を持つ鶏の割合がこの10年で急増したという研究もある。

「日本では70日以上の飼育が条件で、飼育面積も決められた地鶏であれば比較的、健康で過度な品種改変もしていない鶏肉と言えますが、国産より、ブラジル産の鶏肉のほうが動物にはやさしいですね」

食事もトイレも就寝も同じ場所で、ストールの幅は約60cm。首は左右約45度しか曲げられない

 豚肉では、『妊娠ストール』という飼育環境が問題になっている。世界的に廃止が進む中、日本の88・6%の養豚場が採用したままだ。

「子取り用の母豚をストールという拘束施設に収容する様式です。身動きがとれないので、目の前の鉄棒を噛み続けるなどの異常行動を起こす。足元は糞尿にまみれて、気が狂う。うつ状態で無反応になることもあります」

 豚は群れでの生活を好む、清潔好きな動物。糞尿は餌場から最も遠い場所で行う。

「仲間同士で寄り添い、自由に歩ける『群れ飼育』は、母豚の病気が減り、子豚の死亡率も下がった。不要な殺処分がなくなり、生産を増強できたという報告もあります」

 欧米に続き、タイや中国の企業もストール廃止を宣言し、群れ飼育に切り替えている。

「ハムなどの加工品はEU産を買うと、自ずと妊娠ストールフリーになります。なぜ国産を選んでいたのか、もう1度考えてほしいです」

※飼育面積の単位を修正しました(2020年7月15日)