『ユキナ的な。』出版イベントでの木下優樹菜('09年8月)

 木下優樹菜が引退した。『クイズ!ヘキサゴンⅡ』(フジテレビ系)で世に出てから13年、その芸能生活に終止符を打ったわけだが、これは同時に「おバカ」ブームの終焉も感じさせる。あのブームで世に出た人たちの生き残りバトルもそろそろひと区切り、という気がするからだ。

ヘキサゴンファミリーのその後

 '06年から5年間放送されたこの番組は、'08年にピークを迎え、番組から生まれた音楽ユニットがヒットチャートを席巻した。羞恥心(つるの剛士、野久保直樹、上地雄輔)とPabo(里田まい、スザンヌ、木下優樹菜)が『NHK紅白歌合戦』に出場し、応援に駆けつけたヘキサゴンオールスターズと共演した場面を覚えている人もいるだろう。

 しかし、その翌年には早くも野久保直樹が脱落。きっかけはSNSでの「やらかし」だと報じられている。ブログでマネージャーがコロコロ代わることを愚痴ったり、独立をほのめかしたりして、事務所を怒らせてしまった、というのだ。

 番組を卒業後、舞台に活路を求めたが、翌年『週刊文春』に直撃されると、こんな自虐的なことを言っていた。

おバカキャラを捨てる? いや、僕の場合、キャラというより、もともとの自分なので、変えようがないんですよね(笑)」

 かと思えば、香田晋のように、おバカキャラがウケすぎて、本業の歌に自信が持てなくなった人もいる。引退して、飲食店を経営したあと、現在は僧侶だ。

 やがて、'11年には仕掛人の島田紳助が離脱。暴力団との交際疑惑から芸能界を引退してしまい、番組も終了となった。これに痛手を受けたのが、misono山田親太朗だ。前者はかまってちゃんキャラがウザがられることに。後者は姉・山田優のバストサイズを平気でネタにするような無神経ぶりが災いしてか、表舞台では見なくなった。

 一方、生き残り組には「おバカ」を上手く卒業できた人が目立つ。たとえば、つるの剛士はイクメンキャラを経て、いまや社会派タレントだ。ツイッターでは保守派の論客として鳴らし『バカだけど日本のこと考えてみました』(ベスト新書)という著書も出している。

 また、上地雄輔も『遊助』名義の歌手活動で結果を出したあと、今ではイッパシの俳優である。父は政治家(現・横須賀市長)で小泉孝太郎・進次郎とも幼馴染みとあって、ただの「おバカ」ではなかったのだろう。

 現在出演中の『ハケンの品格』(日本テレビ系)でも、パソコンが得意な役。高校時代にバッテリーを組んだ松坂大輔投手同様、技巧派に転向しつつあるわけだ。

 ちなみに、ヘキサゴンファミリーには野球と縁のある人が多かった。野久保は高校時代、プロ野球のドラフト候補だったし、元木大介はプロ野球の一流選手だった。ただし、番組では縄跳び企画でアキレス腱を切るなど、元アスリートらしからぬ「おバカ」ぶりを発揮。もう本業には戻れないのではと心配してしまったが、その後、少年野球の監督として世界一になり、現在は古巣の巨人でヘッドコーチをしている。現役時代は「隠し球」が得意だったし、野球的なアタマはいい人なのだ。

結婚後の天国と地獄

 そして、誰よりも「野球」絡みで飛躍したのが里田まいだ。夫はメジャーリーガーの田中将大投手。結婚を機に、ジュニア・アスリートフードマイスターの資格を取ったり、英会話をマスターしたりして、球界有数の賢夫人の名をほしいままにしている。

 そんな里田に「野球選手の妻」としての心得を説いたともされるのがスザンヌ。ひと足先に当時ソフトバンクの斉藤和巳投手(現・解説者)と結婚したが、4年後に離婚した。斉藤はとかく女癖の悪さが報じられてきた人で、これが2度目の離婚。スザンヌは男を見る目がなかったのかもしれない。

 ほかに、男で失敗した「おバカ」といえば、矢口真里もいる。ただし、この人の場合は自らの「クローゼット不倫」で離婚したわけで、自業自得というほかない。

 というわけで、生き残りのポイントはやはり、賢さ。木下には結局、それが不足していたということだろう。

 皮肉なのは、その点でも前夫・藤本敏史に置いていかれてしまったことだ。というのも、藤本はここ数年『プレバト!!』(TBS系)の俳句企画で活躍中。名人のひとりに認定されており「おバカ」キャラを卒業しつつある。

 木下もママタレとしてカリスマぶりをアピールすることで、イメチェンを図っていたのだろうが、そこから賢さはあまり伝わってこなかった。そのあげくの「タピオカ恫喝」騒動である。

《出方次第でこっちも事務所総出でやりますね》

《いい年こいたばばあにいちいち言う事じゃないと思うしばかばかしいんだけどさー》

《謝るとこ謝るなり、認めるとこ認めて、筋道くらいとおしなよ》

 と、彼女が恫喝に使ったのはインスタグラムのダイレクトメッセージだった。それを相手にバラされたわけだが、こうした経緯もなかなか象徴的だ。かつての野久保がそうだったように、SNSでのやらかしは芸能人にとって致命傷になりかねない。

 そもそも「おバカ」ブーム自体、番組の演出によるところが大だった。だからこそ「お」という接頭語つきで愛されたのだ。番組が終わっても、そのままやっていけると油断していると、いつしか「お」が取れ、ただの「バカ」になってしまうということでもある。

 さらにいえば、クイズで「おバカ」な回答をするのと、人生で「バカ」をやらかすのは別モノだ。彼らの生き残りバトルは、そんな当たり前の現実を教えてくれる。

PROFILE●宝泉 薫(ほうせん・かおる)●作家・芸能評論家。テレビ、映画、ダイエットなどをテーマに執筆。近著に『平成の死』(ベストセラーズ)、『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、『あのアイドルがなぜヌードに』(文藝春秋)などがある。