※写真はイメージです

「おいしいケーキ屋さん知りませんか」
「このあたりに、いいお店はありませんか」

 
 ひとりで道を歩いていて、2人組以上にこう声をかけられたら、警戒してください。緊急事態宣言の解除後、これまでとは一風変わったキャッチセールスが報告されています。声をかけている彼らの正体はというとーー。

『ついていったらこうなった』の著者で、詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリストの多田文明さんに聞きました。

コロナの影響で
キャッチセールスの形にも変化が

 結論からいえば、人から人へネズミ算式に商品やサービスの販売網を広げていくマルチ商法の勧誘者たちです。ご存知の方も多いと思いますが、この商法は、誰かを販売組織に引き入れることで、バックマージンが入り、儲かる仕組みになっています。

 その販売網に入るためには、入会金など数十万円がかかりますので、その金額以上の稼ぎを出すために、彼らは必死に勧誘を行います。場合によっては、手当たり次第に人を誘い込み、周りの友人関係がズタズタになるまで勧誘をし続けることも。昔からの友人が急に連絡をしてきて、何かと思えば勧誘だった……なんて経験をされた方もいるのではないでしょうか? 

 これまでのマルチ勧誘といえば、知人やSNSで知り合った人などを中心に誘う形が主でした。しかしなぜ、知らない人に声をかけるキャッチセールス型が出てきたのでしょう。

 そこには新型コロナが大きく影響しています。

 しばらくステイホームで、勧誘者がいくら友人に声をかけても、家から出てきてくれない状態でした。緊急事態宣言が解除された今でも、必要以上に人と会おうとしない人も多いことでしょう。こうなると「勧誘ができない」=「儲けられない」ことになります。それで、“マルチ破綻”を防ぐため、路上にいる人にまで声をかけて誘おうと必死になっているのです。

 断っておきていのは、法律上、マルチ商法は、特定商取引法の連鎖販売取引にあたり、法令を遵守していれば問題ありません。

 本来は勧誘に先立ち、相手に「氏名などの明示」をしなくてはならず、勧誘先の業者名や、入会金などが伴うマルチ取引をあらかじめ告げなければならないのですが、法律をしっかりと守っていては、勧誘の実績が上がりません。そこで先のキャッチのように、ただ「お茶でも飲みましょう」といって、お店などに連れ込みます。そして勧誘を始めて、かなりの時間が経ってから相手がマルチ商法の業者であること知るのです。

 最近では、マッチングアプリで知り合った男性に女性が勧誘されというケースもありますが、キャッチセールス型にしても、マルチの正体を隠して、なりふり構わず勧誘してくる場合も。

 そこで、悪質なマルチ勧誘だと気づき回避するための3つのポイントを、以前に受けた私の勧誘体験とともにお伝えしていきます。

(1)「うやむや」にされたら怪しいと思え

 今でも、私は炎天下で走り回るようなテニスバカですが、以前はテニスサークルに入っていて、その時の無職の友人が声をかけてきました。

「後藤さん(仮名)から仕事を紹介したいので、説明会に来てみないかと誘われているんだ」

「よかったじゃない」というと、「この女性に誘われたら、ひどい目に遭ったという、きな臭い話も聞こえてくるんだよ」

 仕事は見つけたいが、厄介な目にも遭いたくはないと言います。

「なんなら代わりに行って、どんな会社なのか見てきましょうか?」

「お願いします。彼女によると、会社説明会は2時間かかり、仕事を始めるにあたって、給与の振り込み用の口座と銀行印を持ってくるようにと言っていました」

「了解!」

 その夜、彼女から電話がかかってきました。

「明日の会社の説明会に来ていただけると聞いたんですが」

「はい。ところで、どんな会社なのですか? 仕事の内容は?」

「それは……明日の説明会で聞いて下さい。話すと長くなるので」と言葉を濁されたまま、電話を切られました。

 結局、どこの会社でどんな仕事なのかも知らされませんでした。もしこれがマルチ取引だった場合、極めて法律に違反した行為です。いずれにしても、尋ねたことに曖昧な返答しかない場合は、絶対に誘いにのってはいけません。これは、被害回避の第1ポイントになります。

(2)よくわからない「用語」に注意

 翌日、会社説明会に向かうと、会場には男女70人ほどがいました。ボードには代理店事業説明会の文字が書かれ、壇上では講師が力強く語ります。

 事業内容を要約すると、手書き文字を読み取れるファックスとネットをつないだ電話機の開発をしているとのこと。しかしながら、電話機どころか、オンライン販売の仕組みもまだ開発段階というのです。

「そこで、モニターとしてみなさんにその電話機を使ってもらい、不完全な部分があれば意見をあげてほしい。そして、オンライン販売の仕組みを作り上げていってほしい」

「現在、会員は35万人いて、これを100万人まで増やしたい」

「会員制なので入会金が必要。代理店は将来販売する人を増やし、販売網を作り、みなさんでいっぱいお金を稼ぎましょう!」

 そして、ボードに“MLM”と板書しました。実はこれ、“マルチレベルマーケティング”の略。仕事の紹介と聞いていましたが、ようやくここでマルチ取引であることを告げられたのです。しかし、これがマルチの略語だということをどれだけの人が理解しているでしょうか。

 そう、彼らはハッキリとマルチとは言わず、このように略語でごまかすことで、もしあとから「マルチとは言ってなかった」とツッコまれたときも、「いや、マルチ商法だと言ったよ。MLMと言ったよね」と言い訳をすることができるのです。

 このように、わかりにくい用語を使ったり、“あと出しじゃんけん”の形でマルチ取引を告げる場合も。でもここで彼らの誘いを断れずに入会してしまうと、結局自分も、だまし討ちするような形での勧誘をすることになりますので、この先に進むのは絶対にやめてください。これが被害回避の第2ポイントです。

(3)集団→個別の勧誘についていかない

 会場は「儲けてやるぞ!」という熱気に包まれていきます。この興奮状態の中、彼女は目を輝かせながら、私の方に向き直ります。

「もう少し詳しく説明したいです!」

 私は近くの喫茶店に誘われました。そこで、「会員になりましょう!」「儲けましょう!」と執拗に契約書に署名とハンコを押すように促されたのです。

 マルチ商法では、集団で講座を受けさせることで「絶対に、儲かる」という気持ちの高揚を誘います。それからお店などに連れ込んで、一気に個別の勧誘を行うのが一般的。この流れにのせられてしまうと、冷静な判断ができなくなり、契約をさせられる可能性が高くなりますので、断ることに慣れていない人は、絶対に興味本位で深入りはしないでください。

 勧誘組織が組み立てた“騙しの流れ”にのせられないようにする。これが第3の被害回避ポイントです。

 本来、マルチ商法では新生活を始めてまもない、友達の少ない人たちを狙い勧誘を仕掛けてくるものでしたが、そのかき入れ時だったはずの3月、4月に新型コロナが蔓延して、それができませんでした。しかしグループには稼ぐためのノルマがあります。勧誘をしなければ、組織は破綻します。

 マルチ破綻を防ぐために、今、勧誘者は必死になって声をかけてきます。あの手この手でやってくる悪質なマルチ勧誘には充分に注意してください。

多田文明<ただ・ふみあき>
1965年生まれ。詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト。ルポライターとしても活躍。キャッチセールスの勧誘先など、これまで100箇所以上を潜入取材。それらの実体験を綴った著書『ついていったらこうなった』はベストセラーとなり、のちにフジテレビで番組化。マインドコントロールなど詐欺の手法にも詳しい。そのほか『だまされた! 「だましのプロ」 の心理戦術を見抜く本』など多くの本を出版、テレビやラジオ、講演会などへの出演も。