DVD『OneTreeHill』リリース記念特別試写会での山本裕典('12年2月)

隣の座席との間隔は空いていると言っても1席分程度で、片手を伸ばせば届くくらいでした。前後の間隔は1列分も空いていなかったから、かなり近かったですね……」(観劇した女性)

なぜクラスターが起きたのか

 6月30日から7月5日にかけて上演された舞台『THE★JINRO イケメン人狼アイドルは誰だ!!』で、出演者や制作関係者、そして観客らが新型コロナウイルスに集団感染した。

「主演は山本裕典さんで、そのほかの出演者は世間的にはあまり認知されていない、いくつかの若手アイドルグループのメンバーが出演していました。舞台ではありますが、人気の『人狼ゲーム』を用いたアイドルイベント的な要素が強い作品でしたね」(演劇ライター)

 はじめに、出演者の1人である7人組ダンスヴォーカルユニット『Super Break Dawn』のTAKUYAの感染が発覚。その後、全出演者とスタッフがPCR検査を受け、7月16日までに主演の山本ら出演者・スタッフ・観客の計77人の感染がわかっている。約800人という観客全員も“濃厚接触者”に指定され、不安な日々を過ごしているという

 国立感染症研究所感染症疫学センターによると、濃厚接触者の定義の1つに以下のようなものがある(国立感染症研究所ホームページ内「新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領」より抜粋)。

●その他: 手で触れることの出来る距離(目安として1メートル)で、必要な感染予防策なしで、「患者(確定例)」と15分以上の接触があった者(周辺の環境や接触の状況等個々の状況から患者の感染性を総合的に判断する)。

※「患者(確定例)」とは、「臨床的特徴等から新型コロナウイルス感染症が疑われ、かつ、検査により新型コロナウイルス感染症と診断された者」を指す。

 冒頭の女性が言うように座席間隔は狭く、公演時間は15分をゆうに超える。上記の定義にぴったりと当てはまる公演であった。

劇場となったシアターモリエールは通常は186席。今回は政府のガイドラインに合わせて、100席弱に減らして上演されたようです。同劇場も加盟する『小劇場協議会』は、コロナウイルス対策について、“劇場の責任”として小劇場協議会が作成したガイドラインに沿って、“劇場ごとに”独自のガイドラインの作成を求めています

 ガイドラインには入退場の注意や密にならない工夫などが示されていますが、劇場の規模や立地、作りによって当然それらは変わってくるわけです。換気をできる窓があるかどうかでも変わってきますからね。

 シアターモリエールは、ガイドラインの作成が本公演に間に合わなかったため、小劇場協議会のガイドラインで公演しました。強行とも言えますし、休演の考えが出なかったのか疑問ですね」(前出・演劇ライター)

上演中は完全に“密”の状態

 本公演の制作に関わり、実際に観劇した男性に話を聞くと、

主催側はガイドラインに沿って、出演者の検温や劇場の消毒なども行っていましたが、甘かったと言えば甘かったのかもしれません。一度、“微熱がある”と申告した出演者がいたのですが、すでにコロナにかかったことがあるかどうかを検査する抗体検査を受けて陰性だったことから、主催側も“陰性なら大丈夫”と出演させてしまったそうです。今思えば、微熱がある時点で出演自体を見送るべきだったと切実に思いますね……

 上演中の様子はどうだったのか。

音漏れ対策なのか窓をすべて閉めていて、1度休憩を挟むタイミングで窓を開けて換気していました。ですので、上演中は完全に“密”の状態でしたね。また、客席側から見ても楽屋は狭そうで、1人でも感染者がいたらクラスターが起こるのは必然だったと思います」(同・舞台関係者)

 片手で届くほどの座席間隔はどのように設定されたのか、ガイドラインの作成が間に合わなかったことで休演する考えはなかったのかなどを、主催及び制作であるライズコミュニケーション、また劇場であるシアターモリエールの両者に質問を送ったが、どちらも期日までに回答はなかった。

 対策がずさんだったのは主催者や劇場だけではない。キャストたちの意識も、決して高いと言えるものではなかった。

劇場では“出待ち”をする人も少なくなかったですね。この状況で出待ちをするなんて怖いもの知らずだと思うのですが、山本さんなどはそういったファンの女性と握手をしたり、サインに応じていました。もちろん消毒なんてしていません。

 それを咎めなかった劇場スタッフもよくないですが、大切なファンへの対応とはいえ、この時期は断るべきだったと思いますね」(前出・観劇した女性)

舞台関係者も激怒

 さらには……。

感染したTAKUYAさんは、公演本番の4日前にグループのほうの仕事でファンと触れ合う地方でのイベントに参加しています。県をまたいだ移動も慎重さを求められる状況ですから、参加を見送るなどもう少し対策できなかったのか……。

 多くの舞台関係者はきちんと感染予防対策をして、なんとか開催できるように努力しています。そんななかで制作側及び出演側双方のずさんさで起きてしまったクラスターなので、ほかの舞台に関わるスタッフたちは“今回の件で、舞台へ足を運ぶ人が減ったらどう責任を取ってくれるのか”と憤っていますね」(前出・演劇ライター)

 確かにTAKUYAが所属するグループの公式ツイッターを見ると、6月26日に愛知県でリリース作品のお渡し会を行っている。同日の彼のツイッターにも《沢山の方が来てくれて本当に嬉しい限り》と、多くのファンと交流したことが綴られていた。

 TAKUYAの所属事務所に、舞台の本番直前にも関わらず、あえてイベントへ参加させた経緯について問い合わせたが、期日までに返答はなかった。

 1日あたりの東京都内の感染者は200人超えが続き、7月16日には286人と過去最多を記録した。安心して舞台を観劇できる日は、いったいいつになったらやってくるのだろうか……。