星野ルネさん

 黒人への暴力に抗議するデモ「ブラック・ライブズ・マター」が世界中に拡大。日本でも多くの有名人が賛同しているけれど、この国で暮らす黒人の人々が日ごろ何を思い、どう暮らしているのか、ホントのところはあまり知られていない。漫画家として活躍する星野ルネさんのリアルな声を聞いてみた。

目立ってしまうことを武器にかえよう

 黒人はみんな運動神経バツグンで、歌もうまい……。そんな巷にあふれる勘違いや思い込みを、ときには痛烈に、ときにはユーモラスに、アフリカ少年の視点から描き出す漫画家・星野ルネさん(35)。母の再婚に伴いカメルーンから4歳で来日して31年。地元・姫路の学校に通い、「みそ汁飲んで、から揚げ食べてドラゴンボール読んで、ほぼ中身は日本人」の感覚で育ってきた。

 そうした体験をもとに描いた漫画がたちまち話題になり、いまや著作は3冊を数える。連載を持ち、YouTubeもスタートさせるなど、アフリカ系としての自分を武器に活躍の場を広げている。

 ただ、星野さん自身、そうした特性を最初から受け入れていたわけではない。

「子どものころはめんどくさいとしか思ってなかった。いちいち目立つし、肌の色や髪質の違いをあげつらう子もいたので。ただ僕の場合は運がよくて、ほとんどの友達はいいやつで、楽しく遊んでいた思い出のほうが多いんです。

 それが成長し、将来を考えるようになるにつれ、大人の僕が働いているイメージがまったくわかなくて困った。テレビを見ても、日本社会でアフリカ人が働いているところを見たことがなかったから」

 そこへ、日本人である父の言葉が追い打ちをかけた。

「僕が中学生のころ、父親から“見た目が外国人だと、いろんな誤解や偏見があるから人一倍、頑張らないと大変だよ”と言われたんです。立派に育てようと思って言ってくれたセリフなんですけど、ほかの人の倍も頑張らないといけないの? それで一人前とかアホらしいと思って

 しばらく悶々としていたが、いざ社会に出て働きだすと、こう考えるようになった。

「僕は嫌でも周りより目立ってしまう。どうせなら、それを武器に変えよう。自分の見た目や違いを活かして、プラスになるような生き方をしてやろうって」

 実際、アパレル関係のバイト先ではお客さんが面白がり、服を買ってくれた。

「いわゆる“ハーフ”や外国にルーツがある子どもたちって、小さいころは周りとの違いを責められたりして、自分を活かせる場所がなかったりする。でも、大人になると存分にあるんで、それをわかっていてほしい。大丈夫、あとでお釣りは返ってくるから」

京都で先月行われた人種差別反対デモには1000人の参加者が集まった

「美白」が与える絶望的なメッセージ

 アフリカ系の子どもたちにとって「違い」から募る疎外感、孤独感は、大人が考えるよりも深刻だ。

 プロ野球・オコエ瑠偉選手は幼少期に、『みにくいアヒルの子』の絵本をきっかけに周囲との違いを痛感した体験をツイッターで明かし、話題を集めた。実は、星野さんのマンガにもよく似たエピソードが登場する。褐色の肌をめぐるイメージに思い悩む子どもたちは少なくない。

「見た目に関する悩みは男の子にもあるものの、女の子のほうが、よりきつい。例えば大人はキャッチコピー的に“美白”と言うけれど、白は美しくて黒は醜いの? と、子どもにとっては絶望的なメッセージに感じられるんです」

 たとえ悪意がなくても、結果的に傷つけたり、不平等な扱いになったりする。そこに差別問題の難しさがある。

「積極的に攻撃してやろうとか、傷つけてやろうと思うような激しい差別は、ヘイトスピーチに走る過激派は別にして日本にはあまり多くないと思う。知識や情報がなく、違う肌の色やルーツを持つ人たちとどう関わっていいかわからず、誤解から生じるような差別が大半なのでは?」

 アメリカで黒人男性が警察官に首を押さえつけられ死亡した事件を受けて、日本でも黒人への暴力に抗議するデモ「ブラック・ライブズ・マター」(黒人の命を軽んじるな)に賛同する動きが目立つ。

「男だとか女だとか、黒人だとかっていう“属性”をもとに自分が描くイメージは、基本的に間違っていると思ったほうがいい。実際に見て、話してみるまでは、どんな人のこともわからないと思って生きてみる。その謙虚さがいちばん大事なんだと思います」