男性が首吊り自殺した部屋で、インタビューに答えてくれた 撮影/矢島泰輔

『事故物件住みます芸人』という肩書を持つ、お笑い芸人・松原タニシ。自殺、孤独死、殺人事件……いわく付きの部屋をわざわざ選んで住む理由とは? これまでに借りてきた物件の内容と身の回りに起こった不可解な出来事を、現在住んでいる“本物の事故物件”で聞いてきました。

前の住人が自殺した部屋で……

「今日、取材で来てもらったこの部屋は6軒目の事故物件になります。本当は新しい物件を借りたいんですけど、同居している後輩芸人の三日月マンハッタン仲嶺さんが今、ここを引っ越してしまうと行くあてがないらしくて。間取りは1Kで、広さは12畳。どういう事故物件かというと、50代の男性が首吊りで自殺した部屋です

 これまでに何度も取材やロケで撮影されている部屋だけあって、本人は説明も慣れたもの。しかしその耐性がまったくない者にとっては、淡々と話す姿が逆に怖い。首吊りした場所は、はっきりとは分からないらしいが「今、カメラマンさんが座ってる位置が怪しい」と指差す。その位置で頭が痛くなったり、気分が悪くなる人が多数いたらしい。

「ここに住んでる仲嶺さんは、よくテレビが勝手に消えるって言ってます。お笑い番組を録画してるんですけど、再生していると途中で画面が真っ暗になったり“接続されてません”って表示されるとか。ちょうど面白いところでなるから、意地悪されてるのかなって(笑)」 

 と冗談交じりに話すが、笑えない話も。現在は仕事の関係で大阪と東京の行き来をしているものの、大阪にいた日にも関わらず「昨日、帰って来ましたよね?」と仲嶺さんに言われることもあるという。

「部屋の中から“ゴソゴソ音がした”と。あと、この部屋、なぜかたまに部屋の真ん中からピピピピッて音がするんです。これ、本当に何の音かわからない。

 音で思い出すのは、2軒目の家での出来事ですね。知人から “タニシ君から留守電が入ってたから聞いてみたら、ゴボゴボゴボゴボって入ってるんだけど何?”って突然、電話がかかってきて。僕、電話をしてないんですよ。で、あとから、前にそこに住んでいた女性がお風呂場で殺されていたというのを近所の人からたまたま聞いて。今思えば水の中の音だったのかなって。しかもこの話を村田らむさんが漫画で書こうとしたら、夜中に知らない番号から電話がかかってきて、電話口でずっとゴボゴボゴボゴボ音がしたと。あれは不思議な出来事でした」 

 そんな体験をしながらも、タニシさんがこれまでに契約した事故物件は10軒。現在はこの部屋のほかに大阪と沖縄に2軒、計4軒の部屋を借りている。

「大阪の物件では、そこに住んでいた人はトイレで亡くなったみたいです。発見が遅れて、腐敗臭が廊下にまで出て初めて気づかれたと聞いてます。

 いちばん最近借りたのは、2月に契約した沖縄の“おばけマンション”といわれている物件です。地元じゃ有名らしくて、女性の霊が徘徊しているとか押入れの中におじいさんがいるとか、顔の潰れた医者の霊が出るとか……噂はめちゃくちゃ聞きますね」 

 2012年12月から番組の企画をキッカケに事故物件に住みはじめたタニシさんだが、どのようにして部屋を探しているのだろうか?

「不動産屋によるんですけど、“事故物件に住みたいんですが”って直接、尋ねて行ったら、受付の人からベテランの人に変わったんです。その人はすんなり物件を紹介してくれて、なかには地盤沈下が起きるマンションとかも。まぁそれは違った意味で“事故物件”ですが(笑)」

 物件に特徴みたいなものは?

孤独死の部屋は1Rが多くて、首吊り自殺の部屋はロフト付きの部屋が多いですね。首吊る場所がロフトの柵だったりはしごだったり、吊りやすいみたい。大きめの集合住宅では、高齢者の孤独死が多いです

 数ある中でも、何か起こりそうな部屋を“あえて”選んでいるというが、8年弱もの間、普通の物件を契約しないことに何か理由は? メリットについて聞いてみると、

「芸人として言うなら、単純に、こうして取材を受けられるというところです(笑)。ほかだと、金額ですね。家賃が安くなるだけじゃなく、敷金礼金がないところも多いので初期費用はだいぶ抑えられます。 

 大家側は次の人を早く住まわせたいみたいで。『大島てる』という事故物件紹介サイトが有名になってきているので、そこで検索して自分の住んでいるところが事故物件だと知り、クレームを入れてくる人がいるらしいんですよ。そうなると大家側が不利な立場になることが多くて、裁判を起こされるとややこしい。そんなトラブルを避けるためにも、いまは事前に告知する大家さんが増えてるそうですよ」 

 どうしても気になる人は、覚悟を決めて一度、自分の部屋を調べてみるのもありかもしれない(大家さんへのクレームは推奨していません!)。

人形と“共演”した女の子の手首に……

 そのタニシさんが住む部屋には、どうしても触れずにはいられないモノが。確実に普通ではない雰囲気を纏っている気がするんですが、その日本人形はいったい……?

「あぁ、これは孔子(こうし)くんという名前の人形です。古物商から僕が引き取って。

首が取れた孔子くんと、1番古い付き合いの人形だというみゆき 撮影/矢島泰輔

  この間、朝のワイドショーのロケ取材で僕の部屋にカメラが来たんですが、移動させようとしたら持ち方が悪かったのか首がいきなりポーンって飛んで、テーブルの上に落ちて割れちゃったんです。パリーンって、木っ端微塵に。それで修理したんですよ。

 実は割ってしまう1週間くらい前に、孔子くんの首がゴミ袋の上でピョンピョン飛んでる夢をマネージャーさんが見たっていう話を聞いていて。なんか関係があったんですかね」

 そう言って見せてくれた孔子くんの顔部分には、割れた跡がはっきりと残っていた。

「そしていちばん付き合いの長い人形が、この“みゆき”です。とある番組につれていったこともあって、そのとき“あの人形が怖いです”って共演者のある女の子がすごいビビってて、それからしばらく、その子の手首に毎日一本ずつ傷が増えていくという怪現象が続きました。

 でも何が怖いって、もともとはお笑い養成所の小道具だったのでコントで使ってたんですけど、みゆきを使うと絶対にスベるといった別の怖さが(笑)。養成所が移転するタイミングで僕が貰い受けて、それからずっと一緒に住んでます」

 もともと霊感は持っていないというタニシさん。呪いや祟りについては、「受ける側が強ければかからない」という持論を持つ。怖がることがいちばんよくないと話していた。

「唯一、一度だけ金縛りにあったことがあります。中学生の冬だったんですけど、仏教とプロレスに興味を持った時期がありまして。みちのくプロレスという団体に新崎人生というプロレスラーがいて、全身にお経を書いていたんですよ。僕も同じことをしたいと思って、全身に自分でお経を書いて、家の裏にあった墓苑に行き写真を撮ったりしていたら、その日の晩に金縛り。こんなんしたらあかんねや、って思いました」

 しかし中学のスキー合宿の出し物で、懲りずに同じことをしたそう。当時の写真を見せてくれながら、「一人でお経流して手をあわせるパフォーマンスをしたんですけど、めっちゃスベりましたね」と、悲しい思い出を語ってくれた。

 事故物件に住むことに対して抵抗感はまったくないそうだが、心配しているのは治安。気をつけてほしいと、読者にも呼びかける。

家賃が安いので、反社会的な人たちが集まりやすいという点もあります。犯罪に巻き込まれる可能性が高くなるということは、心霊現象なんかより単純に怖いのでオススメはできないですね

 次はいったい、どんな“怖い”物件に住むのだろうか。

松原タニシ(まつばら・たにし)
1982年4月28日生まれ。『事故物件住みます芸人』として活動し、著書に『事故物件怪談 恐い間取り』『異界探訪記 恐い旅』など。第二弾『事故物件怪談 恐い間取り2』が7月6日より発売中(いずれも二見書房)。8月28日より亀梨和也主演で公開される映画『事故物件 恐い間取り』の原作者。

<取材・文/高橋もも子>