イラスト/上田惣子

 おりもののにおいが強くなったり、かゆみが頻繁にあったり……。これらはすべて老化現象!膣もアンチエイジングが必要なんです! 

 婦人科医の池下育子さんは「更年期前後から膣の自浄作用が大幅に低下します」と語る。腐敗臭のようなおりものが出たり、痛みやかゆみが現れてくる。

週刊女性にも「閉経以降、下着が膣に張りつく感じが気になって……。乾燥して、ちょっとの刺激で痛いんです」(62歳・Iさん)などのお悩みが寄せられている。

 更年期の女性を苦しめるこれらのお悩みを解決する方法を、池下さんに詳しく伺った。

悩み1. 不快さが続くかゆみ・におい

「自転車のサドルにまたがっただけで、こすれて陰部が痛くなったり、ペーパーで強くふき取ったらヒリヒリしてしまったり。更年期前後から膣はとてもデリケートになってきます」と、池下さん。

 膣の老化は40歳ごろから始まり、50代半ばの更年期を迎えるころから顕著になってくる。女性ホルモンのエストロゲンが減少することで、膣の粘膜が薄くなり粘液の分泌が減少、肌と同じようにハリや弾力もなくなる。乾燥した肌が敏感傾向になるのと同じように、膣も乾燥してくるので、傷がつきやすく、炎症が起こりやすくなってしまうのだ。

 さらに、池下さんは「50代の膣はよどんだ空間になりがち」という。

「膣に雑菌が入っても、生理があれば経血と一緒に流れるのですが、生理がなくなると膣の中の雑菌が停滞したままで、よどんでしまいます。すると、においが強くて、色の濃いおりものが出たり、かゆみの症状が現れてきます」

 若いころは自浄作用が十分に機能しているが、更年期以降は、その機能が低下。デリケートゾーンのにおいが強い場合は、“滞り”のサインだと思ってほしい。この状態でセルフケアをおこたっていると、感染症を招きかねない。

「特に気をつけたいのが、更年期前後で数年ぶりにSEXをするとき。不衛生な状態だと感染症にかかりやすくなります」

 性行為後には、しっかり洗浄するなどのケアが重要となる。

「おりものの量や色に大きな変化がみられたら、性感染症はもちろん、子宮がんの可能性も。不安に思ったらすぐに婦人科を受診してください」

専用石鹸の使用や保湿ケアも必須

「乾燥が進んでいるので、一般的な石けんでは刺激が強いことがあります。できれば、ベビー用や外陰部専用の弱酸性の石けんを使うといいでしょう。石けんを泡立てて、指の腹でやさしく洗って。膣の中まで洗う必要はありません」

 においがどうしても気になる場合は、ビデで中まで洗浄してもいいが、頻繁に使うのはNG。乾燥を加速させ、自浄作用がより低下してしまう可能性がある。

「お風呂からあがったら、保湿剤を塗ることもおすすめ。性器の表面だけでなく、膣の中もケアするといいでしょう」

 保湿ケアを続けることで、乾燥ばかりか、においや黒ずみも軽減される。毎日の習慣のひとつに実践してみたい。

デリケートゾーンの洗い方 イラスト/上田惣子

【保湿剤の塗り方】

 お風呂で身体を温めたら、保湿剤をたっぷりつけた指で膣表面に塗る。なれてきたら指の第2関節くらいまでを膣に入れて、膣内部もやさしく塗り込んで。保湿剤はデリケートゾーン専用のものを使って。

悩み2. “レス”の原因にも!性交痛

「コンスタントに夫婦生活があるという人はあまり問題がありませんが、数年ぶりとか、閉経後に初めてするなどという人は、痛みと出血で悲鳴を上げるほどという人も少なくないんですよ」

 ストレスなどで性交痛がある場合もあるが、中高年女性の場合、主な原因はやはり膣の老化。

「膣は粘膜に覆われていて、粘液を出すのが通常ですが、中高年になると粘膜が薄くなり“粘液力”は低下。乾いた状態なので、挿入時に痛みを感じてしまいがちです」

 性交痛が恐怖となり、セックスレスになってしまう人が少なくないという。

 閉経後の性交痛にも関連するが、膣の潤いがなくなり、外陰部や膣が乾燥・萎縮して、雑菌が繁殖し炎症があれば“萎縮性膣炎(老人性膣炎)”と判断される。

「膣まわりの粘膜の厚みが減り、まるでせんべい布団のように薄くなる状態です。乾燥によりヒリヒリ感や灼熱(しゃくねつ)感を感じることが多いですね」

萎縮性膣炎チェックリスト

ヒアルロン酸を注入する方法も

 さらに自浄作用が著しく低下しているので、おりもののにおいもかなりきつくなる。

「不快症状がひどければ、慢性の膣感染症や尿路機能障害にもかかりやすくなるので、婦人科での受診がおすすめです」

 多くの人は、“年齢を重ねれば萎縮は誰しも起こる”とやりすごしている場合が多いというが、QOL=生活の質を向上させるためにも、受診がベスト。

 女性ホルモン(エストロゲン)の減少とともに起こる膣萎縮や乾燥。治療はホルモン補充療法(HRT)や、薬による局所療法が一般的だが、最近は美顔ケアのようなレーザー再生術『モナリザタッチ(R)』なども登場している。

「これは膣内にレーザーを照射し、乾燥やかゆみ、性交痛、排尿障害を改善するもの。30分程度の施術ですむので、注目度も上がってきています」

 さらには、女性器のたるみやシワの改善にヒアルロン酸を注入する方法もあるという。

「さまざまな治療法が出てきていますが、まずは前出の保湿ケアを習慣化させるのがいいですね。加えて骨盤底筋を鍛える運動もしてみてください。膣まわりの血行が改善しトラブル解消に効果的ですよ」

【40代以降で希望者が増加!“介護脱毛”】

 介護されるときに排泄後のふき取りや清拭で迷惑をかけないためにと、アンダーヘアを脱毛することを“介護脱毛”という。自分の老後を想定し、更年期前後の女性でこの処置をする人が増加傾向にある。

「更年期前後は自浄作用が衰えるため、細菌に感染しやすくなります。ヘアがなければ、汚れが停滞しにくく、さまざまなトラブルも回避しやすくなります」と池下さん。

 とはいえ、脱毛は毛抜きで処理するのは絶対NG。必ず専門の医療機関で行って。

デリケートゾーンの脱毛は3種類。一般にVIO脱毛と呼ばれ、Vはビキニライン、Iは陰部の両側、Oは肛門まわりのゾーンを指す。 イラスト/上田惣子

(取材・文/樫野早苗)


《PROFILE》
池下育子さん ◎産婦人科医。いけした女性クリニック銀座 院長。心と身体の不調に悩む女性のアドバイザーとして、働く女性を中心に大きな支持を得ている。『子宮を温め健康になる25の習慣』(新星出版社)など著書多数。