年中さんのとき、おもちゃのタコでおでこを吸引しながら集中するコタくん 撮影/カワムラヒサコ

 ADHDのコタくん(10歳)は写真家のかーちゃん、ヘアメイクアップアーティストのとーちゃん、猫の金太郎との4人暮らし。“かーちゃん”であるカワムラヒサコさんがコタくんの成長の日々をつづった『さんかくの本 ADHDの子育て』(秀和システム)は、 ADHDのお子さんがいる親御さんはもちろん、子育て中の全ての人に向けたクスッと笑えてホッと安らげるお守りのような本になっています。 今回は、本の一部を紹介。子育てが楽しくなるようなヒントが隠れているかもしれません。

まずは親の固定観念を一旦リセットする

 息子のコタはADHDです。

 ところで皆さんはADHDって知っていますか?

 ADHDとは脳の発達障害のことで、注意欠陥多動性障害とも言われています。約5%(※1)のこどもがADHDと診断されていて、男児は女児より3から5倍(※2)多いそうです。

 個人差はありますが、

・課題や活動を順序立てることがむずかしい
・日々の活動の中で忘れっぽい
・物事に集中できる時間が短い
・不適切な状況で走り回ったり高いところに登ったり落ち着きがない

 などの多動・衝動性が特徴と言われています(※3)。

 でも、かーちゃんはこう思っています!

A=あれもこれも気になる→好奇心が旺盛!
D=できること・できないこと→分かりやすいのでサポートがしやすい!
H=ハイテンション→いつでも元気!
D=だれにでも話しかけられる→思ったことはすぐに実行する行動力!

とーちゃんに肩車してもらっていたら……どんどんズボンがズレてお尻が出てしまったコタくん。注意する前に写真を撮るかーちゃん 撮影/カワムラヒサコ

 コタとの暮らしは、にぎやかそのもの。

 一緒にいるとたくさんのことを学びます。

 まずは親の固定観念を一旦リセットして、家族みんなでコタと自分たちの可能性を、もっともっと伸ばしてみることに決めました。

※1〜3 国立精神・神経医療研究センターHPより(2020年1月)

ADHD“D”
できること・できないこと

 小さいころは、成長の過程だと受け止められたことも、集団生活が始まると、できること・できないことが現実化します。でも、習得までに時間はかかったとしても、できないことも、必ずできるようになるはずです。

 これまでの固定観念や、情報で判断せず、目の前にいる子どもをしっかりとみること。子育てのハードルをぐんと下げて、子どものスモールステップをともに楽しむことが大切なのかな。

最初の大きな壁は「漢字の読み書き」

 幼稚園時代は、お友達に「どうぞ!」がなかなか言えず、気持ちの切り替えも苦手でした。小学校に上がると、静かにしていなくてはいけない授業や、同級生とのコミュニケーションなど、集団生活が始まると「できないこと」として見えてきます。

 最初の大きな壁は、2年生での「漢字の読み書き」でした。まず、ノートのマスの中に書くことができません。枠からはみ出し、左右のバランスもとれません。お手本通りに書かせるのが本当に大変!

 やっとイスに座ったかと思うと、喉が渇いたと言い、ジュースを飲みに席を立つ。なんとか座って書き始めると、今度は息苦しいと言い、ベランダに出て深呼吸。やっと気持ちを切りかえてイスに座ると、今度は消しゴムのカスで遊び始める始末。頭がハゲそうでした!(笑)

コタくんが5歳のとき、かーちゃんが付箋に書いた自分へのメッセージ。効果大で、イライラが減ったそう 撮影/カワムラヒサコ

 とにかく、コタは集中力が超~短いので、短期決戦でどこまで進められるか、サポートする私の器量にかかっていました。宿題は、夕飯前に少し、夕飯後にまた少し、それでも終わらないときは、朝5時半くらいに起きなくてはならないくらい、時間がかかっていました。

 私もコタも下校時間が近づいてくると、あ~また漢字の宿題をやらなくちゃいけないんだ……と、かなり憂鬱になっていた時期です。当時の彼の筆箱のなかの鉛筆は、噛まれて全部がガギガギになっていました。今思うと、漢字を書くという行為が、コタにとっては本当にしんどかったんだなと思います。

いい意味での“手抜きかーちゃん”に生まれかわる

 そんなころ、学校で特別支援教室が利用できるようになりました。

 面接で悩みを相談すると、「漢字は読めれば、書けなくても。20歳くらいまでに小学校レベルの漢字が習得できればいいですよ」と先生。「えっ!? 息子はそんなレベル!?」と、現実を知るとともに、これがきっかけで、肩に乗せていた“がんばらなくちゃいけないかーちゃん”を降ろし、いい意味での“手抜きかーちゃん”に生まれかわりました。

イメージは合ってる!? 直すのがもったいない 撮影/カワムラヒサコ

 まず、漢字は1マスに書くのをやめて、4マス分を使って大きく書いてもいいように、担任の先生にお願いしました。さらに、一度にたくさん書くのもやめ、数も減らしてもらいました。

 すると、それ以降、鉛筆を噛むこともなくなり、朝5時半起きもなくなりました。本人にとって何が負担なのか? それを見つけて寄り添うことが重要だと気づけた出来事です。

スモールステップをともに楽しむ

 しかし、壁はまだまだやってきます(笑)。次の課題は「縄跳び」。「なわとびコンクール」という学校行事が毎年あるのですが、個人競技はさておき、問題はクラス対抗長縄競技。コタが飛べないとクラスの対抗戦に影響があるため、練習しなくては! と、長縄をネットでポチッと購入。親子で特訓が始まりました。

 1日目。長縄の片方を自転車に結び、いざ回してみると、両手を上げて飛ぶので手が縄に引っかかってしまいます。何で万歳して飛ぶの? と、思ったら、手を挙げて飛ぶタイミングを計っているようです。手がひっかからないように、万歳をやめて両手を胸にクロスするようにアドバイスして、1日目が終了。

 2日目。なぜか練習の始めに、なわとび歌の「ゆうびんやさん」をやりたがるコタ。早く練習をさせたい母心は横に置き、「ゆうびんやさん」からスタート。

 ここはもう、「ゆうびんやさん」をやらない理由がないことを、かーちゃんは知っているのです。まずは付き合うこと。彼のモチベーションをあげることが、苦手なことをやらせるときになにより大事。2日目は、ゆうびんやさんが10回飛べたところで終了。

 3日目も「ゆうびんやさん」からスタート。リズム感が良くなっているよう。そしていよいよ、本題の長縄の練習へ。縄に入るタイミングをつかみやすくするために、「1、2、3!」とか「いまっ!」とかの声掛けをするも、それでも飛べないコタは、「かーちゃん、その掛け声やめて!」など、文句の嵐。さすがのかーちゃんもキレ始める。

 しか~し! ここでコタの暴言にまんまとのって怒ってしまうと、練習にならないのでお菓子で誘導、これも母の訓練と自分に言い聞かせます。縄に入るタイミングを3、4回待っていたコタが、2回で入れるようになってくると、涙が出るほどの喜びが、かーちゃんに押し寄せました。

 汗だくでがんばっている息子が、憎たらしい存在から、尊敬する存在へと変わったのです。「よくがんばってるぞ! 息子よ。小さな感動をありがとう」と息子をハグして3日目が終了。

 それ以降は縄に入るタイミングが格段に上達、最後には八の字クロスでも、1、2回で入れるように。本人の顔にも自信が生まれました。

 このように、漢字も縄跳びもいろんなことが、他の子どもたちより、習得までにとってもとっても時間がかかります。でも、できないことは、必ずできるようになると信じ、コタのスモールステップをともに楽しんでいます。できること・できないことにあわせて子育てのハードルを下げてみると、途端に一緒にいる時間が楽しくなりはじめます。

漫画/大田垣晴子(カワムラヒサコ『さんかくの本 ADHDの子育て』より)

できないことがあっても、いいじゃない!
かーちゃんの子育て格言

●「志は高く、子育てのハードルは低く」
●「成長は、息子の超短い集中力との戦いだ!!」
●「小学校の勉強は基本、暗記です。それができなくても×ではない」
●「子育てを工夫しようとする親たちに、悪い人はいない」
●「みんなと同じペースで勉強できなくてもいい、学校だけで人生は決まらない!」
●「小さくたって子どもは、尊敬できる大きな存在」
●「事件は警察、火災は消防、子育てに困ったときは近所のママ友」
●「車の運転は、オートマで。子育てはマニュアル運転で」

カワムラヒサコ著『さんかくの本 ADHDの子育て』(秀和システム) ※記事内の画像をクリックするとamazonの紹介ページにジャンプします

カワムラヒサコ
写真家/麻の服屋さん「quiraku niキラクニ」オーナー。東京生まれ。写真家・佐藤孝仁氏師事後2001年より独立し、夫とともに有限会社SHIBARAKUを設立。2014年に麻の服屋さん「quiraku niキラクニ」ネットショップをオープン。広告・雑誌などの撮影のほか、障害のある方々が就労している福祉作業所のブランディングにも携わる。
https://quirakuni.base.shop