回転寿司で、カウンターの寿司屋より美味しく食べるコツとは

 “安かろう悪かろう”─、ひと昔前まではそんなイメージが先行した回転寿司。しかし、今、“安かろううまかろう”、そう言っても過言ではないほど大きな進化を遂げていることをご存じだろうか?

“朝とれ”以上に新鮮!

 全国の15歳~59歳の男女13万595名を対象とした、マルハニチロ「回転寿司に関する消費者実態調査2020」によると、「月に1回以上」回転寿司店を利用する人は全体の36%にのぼり、回転寿司店を選ぶ際に重視している点は「値段が安い」(46・4%)が最も高く、次いで、「ネタが新鮮」(37・4%)があがったほどだ。

 ただ安ければいいというわけではなく、今の消費者は、ネタの鮮度を求めて回転寿司に足を運んでいることがわかる。

 さかのぼること1958年、日本初の回転寿司と言われる『廻る元禄寿司』が大阪に誕生。特許が切れる1978年、後を追うようにさまざまな回転寿司が全国に普及し、人気は拡大していく。

 不況下にあえぐ平成の時代においても、外食産業の中で唯一右肩上がりで成長し続けたことから、“最強の外食産業”と呼ばれるまでに。現在、回転寿司業界は年間6000億円の巨大市場と言われ、5大チェーンである『スシロー』、『はま寿司』、『くら寿司』、『かっぱ寿司』、『魚べい』が牽引する格好だ。

 しかし、冒頭でも触れたように、かつては死魚や代替魚を使っているなんて話も出回り、「安いけど美味しくない」、そんなイメージを抱く人も少なくなく、特に年配者の中には回転寿司と聞いただけで拒否反応を示す人もいる。

「5~6年前“100円の回転寿司は美味しいのか?”という質問をしたら美味しくないと答える人がほとんどでしょう。でも、いま現在は“美味しい”としか言いようがない」

 そう笑うのは、TVチャンピオン2『回転寿司通選手権』チャンピオンであり、回転寿司評論家の米川伸生さん。以前には、市場などが回転寿司をまともに取り合ってくれなかったので、売れ残った魚を買うなどグレーなケースも散見された。

 だが、大手チェーン店が漁師と直接契約を結ぶ現在では、ありえないと語る。昔も今も同じ食材を使用しているのなら、なぜ数年で美味しくなったのか?

回転寿司でよく食べるネタ (マルハニチロ調べ)

冷凍保存の技術が飛躍的に進歩しています。魚は、死んでしまうと全身に血が巡ることで、臭みが生じる。そのため、血抜きや氷漬けなどをして魚の鮮度を保つようにするのですが、沖から港に戻るまでの数時間で、どうしても劣化してしまう。

 ところが、大手チェーンの中には、漁獲と同時に船内で瞬間冷凍してしまう、国内に10隻ほどしかないと言われるとてつもない設備を備えた遠洋漁船と契約しているところがある。血が巡る前に凍らせてしまうので、朝とれの魚以上に、まったく臭みのないマグロやカツオを店舗に届けることができる」(米川さん)

 5大チェーンの一角であるスシローに冷凍保存について話を聞くと、

「人気No.1のマグロは、長い縄にたくさんの釣り針をつけた、はえ縄漁でとってすぐに船上で凍結されます。その後、工場に運ばれ、マイナス55度という極寒の冷凍庫で保管。加工工場でスピーディーに加工、梱包されます。

 店舗に冷凍状態で届いたマグロは、温塩水解凍といううまみを逃がさない解凍方法で丁寧に解凍するので、よりよい状態で提供することができます」

 このように、生鮮食品などを生産・輸送・消費の過程で途切れることなく、低温に保ちながら物流する方式をコールドチェーンと呼ぶそうだ。

 大手回転寿司チェーンは、その先駆者であり、ほかの外食産業と比べても、特に技術革新を重ねてきた歴史を持つという。

客からの“クレーム”がさらなる進化を促す

「食材の廃棄率を下げるためにタッチパネルを導入し、いま現在、大手チェーン店のロス率は、1%台といわれています。また、スタッフの労力を削減するために給茶システムが生まれました。『くら寿司』は、1990年代後半に皿カウンター水回収システム、時間制管理システム、自動廃棄システムなど、いち早くフロアの効率化に取り組んでいます。

 実は、これらの多くは“使い勝手が悪い”“待たされる”などクレームに対応するために開発された背景があります。クレームによって回転寿司の進化が後押しされているところがあるんです」(米川さん)

 2016年、公益社団法人発明協会が『戦後日本のイノベーション100選』を選定した際には、外食産業で唯一、回転寿司が選ばれたほど。コロナに起因する感染症対策として、タッチパネルに触りたくないという要望に応える形で、スマホの専用アプリから注文を行えるように対策を講じた大手チェーンもある。このスピーディーな対応ひとつ取っても、いかに回転寿司が先進的な外食産業かわかるはずだ。

 また、技術革新によって人件費や廃棄率の効率化を実現したことで、「通常30%を切る外食産業にあって、回転寿司チェーンは平均40~50%という高い原価率(材料比率)を可能にしています」と説明するのは、調達・購買業務コンサルタントで、未来調達研究所の坂口孝則さん。

「回転寿司の価格の秘密は、原価率の高いネタと安いネタの両方を食べてもらうことで、値段のバランスをとっていること。“粗利ミックス”と呼ぶのですが、ひとつの商品で利益率を考えるのではなく、まとめて利益を考えていくわけですね。

 また、集客のための“吸引力”として大特価のマグロや目玉商品を軸に展開することを『マグネット商品』と言います。目玉商品に手をのばす一方、子どもは原価率の低いネタを、お父さんは原価100円のビールを500円で飲む。回転寿司はマーケティング面においても、非常に先進的な外食産業と言えます」(坂口さん)

 スイーツやドリンク類などサイドメニューが充実していることも理由があるという。

子どもたちにも人気の回転寿司。各チェーン店とも、めん類やスイーツ系が充実しメニューのバリエーションが魅力

「通常、外食産業はランチタイムとディナータイム以外は、客足が鈍ります。ところが、回転寿司はスイーツなどを充実させることで、14時~18時のアイドルタイム(遊休時間)に、学生やママ友などのグループが利用したくなるような工夫を施している。

 しかも、ケーキ類の原価は68円と比較的高い。回転寿司はネタが回転するだけでなく、客の“回転率”も視野に入れて設計されています」(坂口さん)

 徹底した機械化とマーケティングによって進化し続けてきた回転寿司。となると、残すは「味そのものへの追求でしょう」と、前出の米川さんは語る。

「『スシロー』さんはセントラルキッチンを持っておらず、店内調理やスライスをしているので『天然魚フェア』を開催した際には、天然もののサメガレイ、しかもエンガワがレーンから流れてきました。

 効率的にコストを削減できる設備と戦略があるからこそ、人件費をかけてでも美味しさの追求が可能となる。追いつき追い越せで、ほかのチェーン店も質にこだわるようになる。現在、回転寿司は安さ以上に、美味しさを競い合う新たな局面を迎えていると言えます」(米川さん)

 畜産とは違い、天然魚は大海原で勝手に育つ。ならば、その漁獲方法や保存方法を、これまで以上に丁寧に行うことで、より美味しく提供できるのではないか─。

「今までは、朝とれた魚こそが新鮮だという価値観があったと思います。ところが、朝とれたカツオよりも、2か月前にとって瞬間冷凍させたカツオのほうが美味しい(笑)。信じられないかもしれませんが、技術力によって鮮度の価値観が劇的に変わりつつある」(米川さん)

 坂口さんも、まだまだ進化するのではないかと予想する。

「食品メーカーさんから聞いた話では、コロナの影響もあって回らないお寿司屋さんへ行く機会が減っているため、需要の低下に伴い鮮魚の単価が下がっていると。大手回転寿司チェーンが巨大な資本力を生かし、通常であれば回転寿司では提供しないような高級ラインナップを仕入れていくといったことも考えられるでしょう」

 4月の既存店売上高はスシロー44・4%減。くら寿司48・1%減、かっぱ寿司51・5%減の売り上げという具合に、コロナによって回転寿司も苦境に立たされている。

 しかしクレームによって発展してきた背景を持つ回転寿司も、ピンチを新たなチャンスにしてしまうに違いない。

プロが教えるコスパの高い食べ方

“足が早い”といわれる青魚の味の進歩も、目を見張ると米川さんが太鼓判を押すように、「アジやイワシを食べると、その回転寿司チェーンのレベルがわかる」とも。

 また、サーモンは冷凍せずにノルウェーから輸入できるようになり、なんと水揚げから24時間で日本に届き、48時間後には、お店で食べることができるまでに進歩しているというから驚きだ。

「従来、回転寿司で提供していたのはトラウトサーモンといって、ニジマスを海水で養殖したもの。しかし今は、本物のサーモンが食べられる。サーモンの人気が高いのは、単純に美味しいからなんです」(米川さん)

「原価率が低いものは、エビやツナマヨ、コーン、かっぱ巻き、卵などが原価30円以下、みそ汁は約10円です」(坂口さん)

 あくまで目安であって、食材のよしあしもあるため、原価率が高い=美味しいとは一概には言えない─、と釘をさすが、少しでも元を取りたい欲張りなユーザーにとっては、覚えておいて損のない情報だろう。

 緊急事態宣言以降、大手チェーンはテイクアウトに力を注いでいる。そのラインナップを見ると、スーパーの鮮魚コーナーに並ぶ刺身類は、質もリーズナブルさも頭ひとつ抜きんでている。

 自宅で家族や友人と、質の高いネタでオリジナル寿司を創作する……、そんな楽しみ方まで回転寿司は提供し始めたのだ。

「これまで回転寿司は、ファミリーレストラン、コンビニエンスストアと競い合ってきましたが、今後はスーパーマーケットが競合他社になるのではないか」と坂口さんが指摘するように、スーパーではなく、回転寿司チェーンに魚を購入しに行く日も、そう遠くないかもしれない。

原価率が高い“神7”ネタ

1位 ウニ 85%

2位 マグロ 78%

3位  ハマチ 66%

4位 イクラ 65%

5位 キングサーモン 64%

6位 かにサラダ 63%

7位 ホタテ 60%

『スシロー』に美味しさの“裏側”を直撃!

 ネタの原価率、約50%で回転寿司業界最高水準といわれる『スシロー』。うまさへのこだわりを『スシロー』広報課に聞くと─。

「1軒の立ちの寿司屋から始まった『スシロー』は、ネタの目利きと仕入れ力が最大の強みです。仕入れだけではなく店内調理のひと手間をかけ、こだわりのネタをいちばんいい状態で提供できるよう努めています。

 毎週行われる新商品のプレゼンでは1度に10~15商品提案されています。年間約600種類の試作品を開発し、さまざまなプレゼンや会議を経て、最終的に全国での販売に結びつくのは、たったの約70商品です。店舗で販売されているお寿司は、この狭き門をくぐり抜けた厳選された商品になります。

「開店寿司界の巨人」『スシロー』

 また、スシローでは店内調理に力を入れており、店内でスライスするネタもあります。特に鮮魚と呼ばれる、ハマチ(ブリ)・タイなどは皮がついた状態で納品され、その皮を引く作業(皮引き)は鮮度とうまみにこだわり、店舗で提供前に行っています。

 多くのスタッフは入社時にはそのスキルはありませんが、店舗の社員が教育やサポートをすることで、店舗ごとに複数人、皮引きができるスタッフを育てています。

 そのほかのネタも同じく、入社時には包丁を握る機会がなくても、日々の積みかさねでまるで職人のようにネタを切れるようになるスタッフもいます。

 店内調理をすることによって、ネタをよりよい状態でお客様に提供することができるため“うまい寿司”を追求する店内調理のひと手間は妥協しません」

 スシローのあまり知られていないオリジナルの食べ方や楽しみ方については、

「エビアボカドに甘だれをかける、カフェラテにとろっとプリンをのせる、アイスコーヒーにベルギーショコラアイスをのせる、などがおすすめ食べ合わせです」

 とのこと。さらに、レーンにしか出現しないレアなネタがあるとか。

「サイズが小さくお寿司にできない希少な部位を店内で漬けにして軍艦にした『まぼろしの倍盛り海鮮漬け』と、部位を指定しての注文ができないためレーンで流れてくるのを待つしかない『ハマチ(ハラミ)』を見つけたら、ぜひ食べてみてください」

 8月23日まで『スシロー』では、感謝の気持ちを込めて『大切りの夏! 100円の夏!』を 売切御免で開催。『大切りマグロ』は、『スシロー』で人気No.1のマグロがお値段そのまま、1・5倍の大切りで提供。中トロやタイも今だけ100円と、うまい寿司をお手軽に楽しめる。

《取材・文/我妻アヅ子》

PROFILE●坂口孝則(さかぐち・たかのり)●未来調達研究所株式会社取締役。大学卒業後、メーカーの調達部門に配属される。調達・購買、原価企画を担当し、バイヤーとして200社以上のコスト削減、原価企画を担当した仕入れなどの専門家。テレビ・ラジオでも活躍中。
PROFILE●米川伸生(よねかわ・のぶお)●回転寿司評論家。2007年、TVチャンピオン2『回転寿司通選手権』チャンピオンに輝く。回転寿司のスポークスマンとしてテレビや雑誌などで精力的に発信するほか、回転寿司店のコンサルティングをするなど、幅広く活躍している。