左から大森南朋、西島秀俊、眞島秀和

 放送中のドラマ『私の家政夫ナギサさん』(TBS系)で、家政夫役を演じる大森南朋に癒される女性が続出している8月13日からは『おじさんはカワイイものがお好き。』(日本テレビ系)がスタートするなど、昨今“かわおじ”系作品が増加中だ。背景には、新時代の価値観も関係しているようで……。

かわいいおじさんが
芸能界を制する!?

 8月11日に放送されたTBS系ドラマ『私の家政夫ナギサさん』(以下、『わたナギ』)の第6話の視聴率が番組最高となる16・0%を記録。回を追うごとに視聴率をアップさせている。

「原作は電子書籍配信サイト『コミックシーモア』で連載中のウェブ漫画。製薬会社で働く、家事と恋が苦手なキャリアウーマンが家政夫を雇ったことで振り回されるというストーリーのラブコメディーです」(テレビ誌ライター)
 
 コメディーに定評のある多部未華子の演技力はもちろん、映画『アウトレイジ 最終章』などハードボイルドな役のイメージが強い大森南朋が、キュンとするかわいい家政夫を演じているのも人気の秘密。

「放送後、SNS上には《大森さんに癒される》といった意見が殺到するなど、ナギサさんのキャラクターが女性にウケています。プロデューサーは“硬派なイメージとのギャップを見てみたかった”と大森さんを起用。ほどよいおじさん感を出すために衣装などを試行錯誤したと語っていましたが、その狙いが見事ハマっていますよね」(同・テレビ誌ライター)
 
 ドラマに詳しいフリーライターの田幸和歌子さんも、人気の理由をこう分析する。

結果ばかりが求められがちな現代において、頑張っている“過程”に気づいて、いたわってくれる、ナギサさんのような存在を世の女性が求めているという証拠なのかも。また大森さんのワンコっぽいキラキラした目で見つめる演技や丸っこいルックス、手を触れられたときにビクッとしてしまう乙女な反応、誠実さなども魅力的ですよね」
 
 8月13日にスタートしたドラマ『おじさんはカワイイものがお好き。』(日本テレビ系)では、主演の眞島秀和がカワイイものが好きなことを隠して生きるイケオジ役を演じ、そのダンディーなルックスとのギャップで早くも話題を集めている。
 
 昨年春には、西島秀俊と内野聖陽がカップル役を演じ、ほのぼのとした2人の食卓を描いた『きのう何食べた?』(テレビ東京系)が放送されるなど、ここ最近、“かわいいおじさん”が登場するドラマが増えているように思える。その理由とは?

「'90~'00年代は、テレビ局などのメディアが発信するカッコいい男性やライフスタイルが、ドラマでも描かれがちでした。しかしSNSが普及した結果、イケメンだけでなく、どこか哀愁を感じさせるおじさんも視聴者の需要があるということを制作サイドがキャッチできるようになりました。このことが大きいと思います」(エンタメ事情に詳しいライターの大塚ナギサさん)
 
 10月スタートのドラマ『極主夫道』(日本テレビ系)では元極道の専業主夫を玉木宏が演じるなど、家事をする男性キャラクターも増加中。こういった背景には、時代の空気感が影響しているようだ。

家事を軽視する
男性は時代遅れ

「女性の社会進出が進み、女性のお仕事モノがドラマで多数描かれるようになったことで、女性にとっても家事より仕事が大事という図式ができてきたことも背景にあると思います。一方で、家事を仕事より下に見たり、いまだに“家事=女性がやるもの”という固定概念も根強く残っています。『わたナギ』は、そんな風潮に疑問を投げかけるジェンダー的視点で描かれているので、共感する女性が多いのでしょう」(田幸さん)
 
 実際、惣菜コーナーでポテトサラダを購入しようとした主婦が、通りすがりの高齢の男性に「母親ならポテトサラダくらい作ったらどうだ」と言われ驚いたという話をSNSに投稿したところ、“ポテサラ論争”に発展したのは記憶に新しいところ。

「その後も冷凍餃子を夕食に出した主婦が夫に“手抜き”と言われたという投稿や、日テレ系の朝の情報番組『スッキリ』では“手抜きだと思う料理は?”という街頭インタビューで“から揚げ。ジャンクフードは手抜きですよ”と答えた男性が物議を醸しました。今や家事を軽視する男性は時代遅れというのがネットでの共通認識です」(ネットニュース編集者)
 
 ドラマだけでなくバラエティーでも、その傾向は進んでいるようだ。

「バカリズムさん、中丸雄一さん、カズレーザーさんという家事初心者がゼロから学ぶテレ朝系の『家事ヤロウ!!!』は、バラエティー番組でインスタグラムのフォロワー数ナンバーワンを誇っています。またコロナ禍で巣ごもり時間が増え、芸能人が家事の話をバラエティーでする機会が増えたこともあり、『わたナギ』のナギサさんのように家事をやってくれる男性が支持される一因になっているのでしょう」(田幸さん)

 『日経エンタテインメント!』が毎年調査している関心度の高いタレントを調査する『タレントパワーランキング』では、サンドウィッチマンが2連覇。かつて嫌われタレントの代表的存在だった出川哲朗も芸人部門で、昨年の10位から4位にランクアップした。

『ずん』の飯尾和樹は、ドラマ『わたナギ』にレギュラー出演するほか、4社のcmに起用されるなど遅咲きのブレイク。平成生まれの“お笑い第7世代”が台頭する中において、癒し系おじさんが健闘中だ。前出の大塚さんは、SNSの負の部分が影響していると指摘する。

「『テラスハウス』に出演していた木村花さんが命を絶った原因がSNSでの誹謗中傷だといわれるなど、年々ネットがギスギスしてきています。そんな時代だからこそ、テレビぐらいはホッコリしたいという視聴者が増えた結果、コンビ仲のよいサンドウィッチマンや、天然でイジられポイントが多いのにニコニコしている出川さんや飯尾さんのような癒し系おじさん芸人に人気が集まっているのでは
 
 今後、ますます需要が高まりそうなかわいいおじさん。ドラマでは強面キャラの個性派&実力派俳優たちの“かわおじ”が増えるのでは? と田幸さんは予想する。

「遠藤憲一さんを筆頭に、“Vシネマ・任侠映画”系のおじさん俳優は、強面なルックスでかわいいものを愛でるだけでギャップが生まれ、かわいさが倍増します。それだけに強面俳優たちの“かわおじ化”は増えていきそうです。また、ずっとカッコいい路線だった木村拓哉さんも最近、中年の悲哀をにじませるようになっただけに、“かわおじ”を全力で演じたら絶対魅力的になると思うので、ぜひ見てみたいですね」

 令和の時代は、かわいいおじさんが芸能界を制する!?