東海道新幹線

 東海道新幹線の輸送量は、今年3月に前年比4割となり、緊急事態宣言下の4月、5月には前年比1割にまで下がった。GWの利用人数は前年比6%である。

なかなか戻らない客足
9月に希望の兆し?

 緊急事態宣言が解除されて、6月には前年比3割弱に回復したが、7月になっても3割超と頭打ちである。お盆期間は前年比24%だったので、8月も3割に満たない結果となりそうだ。

 JR東海では、4月以降のデータを平日、土休日に分けて公開しているが、土休日の落ち込みの方が大きい。7月の輸送量(東京口)では、平日が前年比35%に対して、土休日は前年比27%である。

 私自身、ビジネスで東海道新幹線を利用することが多いが、最近の閑散ぶりには驚かされる。

 通常、東海道新幹線の座席利用率は約64%で、その内訳は公表されていないが、東京~名古屋に限れば7割に届くのではないかと想像できる。普通車は1列が5シート(3+2)なので、平均で3~4席が埋まる計算だ。私の実感としても、それぐらいの混雑が日常的に起きている。

 ところが、最近は窓側の席でも前後が空いており、これ幸いと、座席を大きくリクライニングさせている人が多い。利用する人が少ないため、車内販売も頻繁に行き来している。こんな状況は見たことがない。

 この状況は、需要が一時的に抑制されているだけなのか?

 5月27日に緊急事態宣言は解除されたが、首都圏で県をまたぐ移動自粛要請が解除されたのは6月19日である。しかも、7月2日には東京都の新規感染者が100人を超えて、多くの人が第2波の到来を実感した。

 7月、8月は、Go Toキャンペーンのように外出を促す話もあれば、知事などから抑制を求める発言もあり、受け止め方に戸惑う状況が続いた。

 初めて客観的に安心できる材料となったのは、8月21日の政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会である。そこで、発症者数のピークは7月27日から29日にかけてだったというデータが示されて、「全国的に見れば今回の感染拡大はピークに達したものと考えられている」という専門家の見解が出された。

 つまり、6月は移動自粛要請の期間があり、7月、8月には人々の危機感も強い状態が続いた。東海道新幹線の利用者が頭打ちになったのも当然の結果である。そう考えれば、9月以降に利用者が戻ってくる可能性はある。

 一方、「新しい生活様式」の定着により、需要回復が限定的になる懸念もある。

 同じJR東海の管内でも、名古屋近郊の在来線は新幹線とは状況が異なっていた。自動改札機の集計に基づく乗車人員のデータによると、名古屋近郊の在来線では4月、5月の実績が前年比4割前後で、6月、7月には7割弱にまで増えている。

 同じ期間、東海道新幹線の輸送量は4月、5月が前年比1割にまで落ち込み、6月、7月になっても約3割にとどまっているので、圧倒的に東海道新幹線の影響が大きかったことがわかる。

 新幹線は県をまたぐ移動になるため、在来線よりも利用が抑制されやすい。それだけでなく、新幹線と在来線では利用者の構成も異なる。

カギを握るビジネスマン

 パーソナル研究所が実施した「新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」では、職種別のテレワーク実施率(4月10日~12日 正社員 サンプル数:22,477)が調査されている。

 それによると、従業員のテレワーク実施率が低かった職種は、福祉系専門職(介護士・ヘルパーなど)、ドライバー、軽作業、製造(組立・加工)が5%以下で、それに建築・土木系技術職(職人・現場作業員)、【飲食】接客・サービス系職種、理美容師などが続く。

 当然ながらテレワークが不可能な職種は多く、そのため在来線の需要は底堅い。

 反対にテレワーク実施率が高い職種は、WEBクリエイティブ職、コンサルタント、企画・マーケティング、IT系技術職、広告・宣伝・編集と続いており、これらの職種では5割を超えている。営業職(法人向け営業)ですら47.8%と高く、オフィスワーカーだけでなく、客先(法人)を訪問する職種でもテレワークは進んでいる。

 東海道新幹線を利用している客層はどこにあるのか?

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 2015年に実施された調査によると、東海道新幹線の利用目的は、出張・ビジネス、単身赴任の合計が74.1%で、観光旅行、趣味、帰省の合計が22.4%という割合だった。圧倒的にビジネス利用が多いのだ。

 どのようなビジネスマンが利用しているかと言えば、テレワーク実施率が高いオフィスワーカーや客先(法人)訪問する人たちだろう。つまり、これまで新幹線を利用していた人たちが、テレワークに移行しているのだ。

 JR東海は、ドル箱の東海道新幹線によって成り立っている。その同社が、第一四半期(4~6月)に836億円の営業損失を出したのだ。今年度の業績予想は、「未確定な要素が多く、現時点で算定が困難」として公表していない。

 鉄道業界の動向は社会への影響が大きい。今後の数字に注目する必要がある。


文)佐藤充(さとう・みつる):大手鉄道会社の元社員。現在は、ビジネスマンとして鉄道を利用する立場である。鉄道ライターとして幅広く活動しており、著書に『明暗分かれる鉄道ビジネス』『鉄道業界のウラ話』『鉄道の裏面史』などがある。また、自身のサイト『鉄道業界の舞台裏』も運営している。