斎藤佑樹選手

 プロ野球・北海道日本ハムファイターズの斎藤佑樹(32)投手が久々に話題になった。『週刊文春』並びに『文春オンライン』が《「キャスターもいいですね」ハンカチ王子引退へ》という記事を掲載。ここ数年の不振から今季限りの引退が濃厚で、その後はキャスター転身なども考えられる、と報じたのだ。

 しかし、『東スポWeb』によれば、本人がこれを完全否定。親しい関係者に、

自分から引退するようなことは絶対にない

 と語ったという。その後『文春オンライン』の記事が削除されたことで、信憑性に疑問が投げかけられることに。ただ、ここで特筆すべきは、相変わらずのニュースバリューの高さだ。なにせ、斎藤は一昨年、去年とゼロ勝に終わり、今年は一軍での登板すらない。そんな選手の去就がここまで注目されるのである。

 もっとも、なかにはとっくに引退したと思っていた人もいるだろう。つまりはそれくらい「過去の人」なのだが、その「過去」がすごい。

“ハンカチ王子”になってからの斎藤佑樹

 早稲田実業時代、3年生の“夏の甲子園”決勝で延長引き分け再試合の末、優勝。汗を青いハンドタオルでぬぐうという、野球選手らしからぬ爽やかさもあいまって「ハンカチ王子」という愛称がつき、これは流行語大賞にも選ばれた。『めちゃ×2イケてるッ!』(フジテレビ系)では「オナラ王子」というパロディも生まれ、日本高等学校野球連盟が抗議したりしたものだ。

 早稲田大学進学後も1年の春からエースを務め、いきなり日本一を達成。4年の秋にも日本一になった。このシーズンの早慶戦(早稲田大学対慶應義塾大学)で発した「持ってる」に関連した言葉が、二度目の流行語大賞に選ばれている。

 また、プロ入り後も2年目に開幕投手として完投勝利をあげるなど、しばらくは華のあるところも見せていたのだ。

 なお、筆者は野球オタクでもあり、斎藤については高2から生でのプレーを観てきた。とりわけ印象的なのは、大学1年の6月、全日本大学野球選手権初戦での姿だ。彼は9回2死1、3塁のピンチにリリーフで登場したが、相手の九州国際大の4番・松山竜平(現・広島東洋カープ)にフェンス直撃の二塁打を浴びてしまう。しかし、二人目の走者が本塁で憤死。2対1で辛くも逃げ切った。さすがに高校時代から「持ってる」と言われ続けてきた投手だと実感したものだ。

 また、当時の人気はすさまじく、普通なら余裕で座れるバックネット裏の特等席ゾーンがいわゆる佑ちゃんファンのオバサンたちで占拠されていた。リリーフ登場時の大歓声から、打たれた瞬間の悲鳴、勝った直後の安堵まで、そのパワフルな一喜一憂に圧倒された記憶がある。

ボロボロになるまで頑張る

 ただ、2年後の7月、同じ東京ドームで行なわれた日米野球第2戦では、彼の将来を不安視する声も耳にした。試合のあと、近くの店で食事をしていると、隣りのテーブルに有名な野球ライターたちのグループがいて「斎藤は年々、悪くなっている」などと話していたのだ。同じことを感じていたので、プロ入り後の成績についても、まぁこんなものかなという気がしている。

 ちなみに、プロ10年目の斎藤は現時点で15勝26敗。とはいえ、観客動員やグッズの売り上げなど、営業面ではかなり貢献してきた。昨年の結婚もニュースになったし、ある意味、成績だけでは評価できないところもある。それゆえ、日本ハムも彼を大事にしてきたのだろう。

 しかし、このままでは戦力外宣告、つまりクビになる可能性もある。『東京スポーツ』が以前、そのあたりについて質問すると、彼はこう答えたという。

もしそうなった場合でも、ひとりの野球人としてボロボロになるまで野球を続けたいです。(海外球団でも)もちろん、どこでもオファーがある限り

 ハンカチの「ボロボロ」と身体の「ボロボロ」を掛けたわけでもないだろうが、野球への情熱がしっかりと伝わってくる。また、13年前に出版された『佑樹 家族がつづった物語』(小学館)のなかで、彼はこんな将来像を語っていた。

「夢は大きく」ということでやってきたんで、メジャーリーグは目標にしているところではあるんです。でも、それは“日本のエース”になってからですね

 かつてハンカチ世代と呼ばれた同期生には、田中将大前田健太のようにこの目標を実現した選手もいる。このまま二軍の中継ぎで終わるわけにはいかない、というのが本音だろう。

 ボロボロになっても投げ続けるハンカチ王子。その爽やかさだけではない、泥くさくもある野球人生をこれからも見届けたい。

PROFILE●宝泉 薫(ほうせん・かおる)●作家・芸能評論家。テレビ、映画、ダイエットなどをテーマに執筆。近著に『平成の死』(ベストセラーズ)、『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、『あのアイドルがなぜヌードに』(文藝春秋)などがある。