志茂田景樹('14年撮影) 撮影/本誌写真班

 かつてはバラエティー番組にも出演し、話題を呼んだ作家・志茂田景樹。トレードマークでもある自由で個性的なヘアスタイルとファッションは、80歳になった今も変わらない。そんな志茂田氏のSNSが現在、「名言」「格言」に溢れていると話題だ。ツイッターのフォロワーは41万人超え。フォロワーからの「人生相談」に、直接「言葉」を投げかけ寄り添うことも。前編ではこの“生きづらい”世の中を「生き抜くヒント」を聞いた。後編ではインタビュー形式で、ご自身のことについて、尋ねてみた。

あのツイートの真意は

――作家としての活動はもちろん、全国の学校などを訪問して読み聞かせを行う『よい子に読み聞かせ隊』の隊長としてもご活躍されていますが、このコロナ禍は、どう過ごしていましたか? 

関節リウマチで、昨年6月からは車いす生活になりました。そこから講演や『よい子に読み聞かせ隊』の活動を都内のみに限定していましたが、コロナ禍となり、身体を使う活動は一切、休止にしました。でもその反面、執筆活動をじっくりやれるようにもなったんです。さらにその繋がりで表現活動も多様化していき、SNSなどネットでも展開しつつあります」

――ツイッターも人気ですね。頻繁に更新されていますが、中でも悩めるフォロワーさんに向けた言葉が心に響きます。どのくらいの頻度で返信されているのですか?

「おそらく平均にしたら1日3件弱といったところでしょうか。1年に1000件、10年で1万件以上の計算になります」

ーーつぶやかれる言葉は、どう生まれるのでしょうか。

「誰かをイメージして、その人に寄り添うように語ることもありますが、実体験に基づくものが大部分です。そのときの願望や、期待を言葉に乗せてつぶやくこともあります。“疲れた心を白い雲に託して……”なんてことはできっこないので、じゃぁどうしたら疲れた心を癒せるか。すると、答えが出てくるものです。

 フォロワーのつぶやきに答える場合は、その人が発信する限られた文字数の中から、そのひと自身をなるべく具体的にイメージして、そのイメージに語りかけるつもりで返事をします。例えばプロフィールにキスマイ(Kis-My-Ft2)のファンだと明記している人がいたときは、キスマイの最新曲の歌詞の一部をヒントに返信したこともありました。

――例えば、ここ数か月では、「自分自身にやらせてはいけない3つのこと。責める。焦る。捨て鉢になる」というつぶやき(7月30日)に2000の「いいね」がつきました。この言葉はどういったことから生まれたのでしょう。

「これも自分自身の体験から。自分を責めてよかったことは1度もありません。

 子どものときは、お母さんに叱られても自分を責めるということはほとんどありませんでした。今度は叱られないようにうまく立ち回ろうと、自分の都合のいい反省をするだけ。でもこれは成長です。学びです。

 大人になって周りのみんなは平気なのに、自分は先輩にちょっと注意されただけでどうしてこんなに傷つくのか。“なぜこんなに弱いんだ”と自分を責める。これじゃ自分に救いがないでしょ。子どものときのように“今度は注意されないよう要領よくやろう”“それにはどうしたらいいか”それでいいんです。これで前を向くことができます。

 次に“焦り”。焦ってもいいことはありません。拙速の結果が待っているだけです。

 懸賞小説に応募していた時代、毎回候補作にノミネートされながらも、落ちていた時期があって焦りましたよ。受賞は手が届くところまできているのに、なぜ届かないんだと。焦ってマンネリ化していたんですね。そこで考え方を変えました。手の届く距離まできているなら、焦らずに、悠々と手を届かせようと。そのためにはどうしたらいいのか。この気持ちがじっくり作品の質を高めるほうへ僕を導きました。

 最後に“捨て鉢”について。僕は職を転々としてきました。今は浮草のように漂っていますが、きっとどこかに僕が根を下ろせる地があるはずだ、という大変、楽観的で虫のいい希望を持ち続けたんです。もしも、“どこで何をしても自分は駄目な人間なんだ”という捨て鉢な気持ちになっていたら、犯罪者に誘われて犯罪の道へ進んだかもしれません。図々しく楽観的になって希望を持つことで、次第にその流れに乗っている人達と出会い、引き上げられると信じてきました

つらいとき、
志茂田景樹さんはどうしてる?

――なるほど。でも人を救う言葉がある一方で、最近はネットでの誹謗中傷が問題視されるなど、言葉はときに「凶器」と化してしまうことも。どう向き合っていったらいいと思われますか?

「SNSに参入してくる人の目的はさまざまです。中には犯罪的な目的を秘めた人もいる。でも、ネットでいろんなことを共感できる誰かとつながりたいという純粋な目的の方も多いんですよ。リアル社会では理解しあえる友達がいない人のケースが少なくありません。

 中にはネットの怖さを知らない人もいる。リアルな社会より、ネットで自分の思いを素直に表現していると突然、不意打ちのように揚げ足をとられて中傷されてしまう。ほとんどがネットの誹謗中傷に免疫のない人なので、グサリと心を芋刺しにされてしまうものです。

 悲しい事実を偶然、知ってしまったことがありました。もうだいぶ前のこと。中傷されて死ぬほど傷ついたという人の相談に答えたんですが、その人の別アカウントと思われるツイート履歴を見ていったら、人を誹謗するものがいくつもありました。この人は純真な気持ちでツイートをはじめたものの、誹謗中傷され絶望し、今度は自分が誹謗中傷する側に回ったのでしょう。このケースはみなさんが考えているより多い。こういう人は一時、SNSから引いていたほうがいいと思いますね。

――そんなネット内でも、リアルな社会でも、何かつらい出来事があり、救いを求めて志茂田さんのツイッターに集まってくる人が多くいます。ご自身、つらいことがあったときは、どうされているのでしょうか。

「楽しかったときのことを思い浮かべます。“万事塞翁が馬か”とつぶやいてつらいことと向き合うことも。

 自分のタイムラインに並ぶ言葉に励まされることもありますよ。今、筆記は30分以上は無理なんです。パソコンは数時間続けられますが、それでも手首の関節が痛むことがあります。でもツイッターを見ると、ときに“調子が出ているぞ、頑張れ”と応援されたような心地になります」

――現在80歳。最後に今後の人生設計について教えてください。

持病との兼ね合いもありますが、急がず焦らず90代突入までにはライフワークの長編を脱稿させたいです。ほかの執筆活動、ネットの活動と並行しながらですので困難がある道程ではありますが、新たな元気を引き出してくれそうです。

 90代からは余生と思っています。可能になっていれば車椅子で旧中山道を旅してみたいですね。旧東海道を完歩して次は中山道、という矢先に関節リウマチを発症しましたので。楽しいリベンジになることでしょう」

志茂田景樹(しもだ・かげき)
1940年、静岡県生まれ。1976年に『やっとこ探偵』で小説現代新人賞を受賞、作家活動をスタート。1980年には『黄色い牙』で直木賞に輝き、その後も多くの著書を執筆、話題を呼ぶ。さらに奇抜で個性的なファッションが注目を集め、ファッションショーでモデルを務めたり、『笑っていいとも』のレギュラーになるなど、多くのバラエティー番組に出演して人気を博す。1998年に『よい子に読み聞かせ隊』を結成し隊長に。Kindle版『死にたいという本当は死にたくない私』が話題。