現代の社会問題をさりげなく織り込んだ丁寧な脚本に一同拍手! 米津玄師の主題歌『感電』も『アンナチュラル』の『Lemon』同様、ストーリーと絡んだ名曲! 左から岡田健史、菅田将暉、星野源、綾野剛、麻生久美子

 今年の夏ドラマは未曾有のコロナ禍で、放送の延期や中断、撮影の見合わせなどで大混乱! 昭和・平成のテレビを見つくしてきた中年トリオが今期ドラマをぶった切る!!

座談会メンバー

ららら……昭和生まれの地方在住ドラマウォッチャー。ネット上でエスムラルダによって発掘された期待の新人。最近『青が散る』(宮本輝原作)のドラマ版豪華だったよなぁとよく思い出している。

エスムラルダ……昭和生まれのドラァグ・クイーン、ライター、脚本家。小学生で大河ドラマ『おんな太閤記』や『おしん』(いずれも橋田壽賀子脚本)にハマり、以後、ドラマフリークに。

成田全……昭和生まれのライター。ドラマの現場取材や記事を数多く担当。人生で初めて自分の意思で見たドラマは、石井ふく子プロデュース、水前寺清子主演の『ありがとう』(平岩弓枝脚本)。

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TBS系ドラマ、強し!

ららら これほどの状況は、ドラマ史上初ですよね。

成田全(以下、成田) 日本の連続ドラマは1、4、7、10月からスタートして10話前後を約3か月かけて放送、その間はほかのドラマと重ならないよう出演者が調整されてるんですが、そのすべてがコロナ禍でぐちゃぐちゃに。そんな大変な状態で制作されているみなさま……本当にありがたいね。

エスムラルダ(以下、エス) いやもうホントに! ということで、今回は「7月ごろから放送されていたドラマ」というざっくりしたくくりでやっていきます! とにかくこの夏はTBS系が面白いものばかり! 

 特に『MIU404』(TBS系)は『アンナチュラル』と同じ野木亜紀子の脚本、同じ演出チームで、前評判も高い作品。毎回、事件が起きて解決するんだけど、現実社会で起きている問題を決して声高にならず、象徴的に描いていて、深く考えさせられるの。さらに謎の組織が絡む縦軸の物語もあって、次週への引きも本当に強い!

ららら 前半の脚本を書いたのはだいぶ前だそうですけど、“今”起きていることを予測するかのように書いてますよね。

エス いいドラマって、不思議と今の問題から半歩先の未来をしっかりと描くんだよね。そして視聴率が20%超えで絶好調の『半沢直樹』(TBS系)はとにかく爆発力! 出てくるみなさんの「顔面筋」の動きにも釘づけ!(笑)

ららら やはり『半沢』は大和田取締役の香川照之が人気のキモですよね。味をしめたわけではないでしょうけど、今回は歌舞伎役者が多く出演されてますね。

成田 前作から引き続き登場の片岡愛之助、香川と従兄弟の市川猿之助、そして若手の尾上松也、さらには劇団☆新感線の古田新太など劇団出身の役者まで大挙して出演し濃度アップ! その濃さの中に及川光博、上戸彩、賀来賢人、吉沢亮など清涼感のある人を投入して濃さを中和(笑)。歌舞伎や舞台演劇のような大げさ演出もあって、見ているほうも楽しいですが、出演者もスタッフも楽しそうですよねぇ。

ららら こんなにも人の顔の筋肉って動くのかと驚きますね(笑)。勧善懲悪なストーリーで毎回、最後に悪者が成敗される『水戸黄門』的スッキリ展開もいい!

エス それ、大事!(笑) しかも『半沢』はカタルシスの後にひと悶着あって、次回への引きも強いんだよね。ドラマ後半で登場した国会議員役の江口のりこもいいし、ラスボスの柄本明との対決も楽しみ!

アクの強~い面々が勢ぞろい。勧善懲悪で日曜の夜にスッキリさせてくれるのも人気の秘訣? 左から香川照之、堺雅人、柄本明

ららら 筒井道隆の悪役弁護士はこれまでのアクの強い出演者とは違う変化球なキャラで、どう成敗されるか楽しみです(笑)。それにしても『半沢』も『MIU』もネットで実況映えする作品ですよね。脚本と物語で視聴者を引きつける『MIU』のようなドラマと、『M 愛すべき人がいて』のようなツッコミで盛り上がるドラマがありますけど……。

エス 『半沢』はどちらの要素もある(笑)。

『未満警察』、「ジャニーズが主役なのに、いいの?」

成田 面白いドラマほどいい場面をいち早くネットでつぶやきたいから、放送中に見るリアルタイム視聴=リアタイしたくなる。だから放送開始までに用事をすませて、スマホを握りしめてテレビ前で待機するんですよね。

『MIU』は社会で「おかしいな」と感じることを鋭く抉る内容と展開の妙、『半沢』は出演者のアクの強さと物語の面白さの両方を言いたくなる。同じTBS系の『私の家政夫ナギサさん』は、ほんわりした世界観の中に旧態依然とした社会への疑問がしっかり盛り込まれていて、こちらも語るべき内容がありますね。

エス そう! 男性が家政夫として働くことや、働く女性のジレンマとか、女性だからって家のことを完璧にやらないといけないなんてことない、といったさまざまな価値観を描いていて、好感がもてる内容なの。家政夫役の大森南朋のキャスティングも絶妙で、ヒロインの多部未華子は本当に演技がうまいなぁと再確認。特にひとり言のシーンが自然なんだよね。

多部未華子のファッションにも注目が集まる『ナギサさん』。登場人物がいい人なのもコロナに疲れた視聴者を癒す。左から瀬戸康史、多部未華子、大森南朋

ららら モノローグやナレーションが多いドラマって、主張がキツくなりがちですけど、『ナギサ』は押しつけがましさがないですもんね。

エス 今後はこういう「女だから」とか「男のくせに」というものを取っ払った、新しくて面白いドラマが増えていけばいいよね。それにしても『ナギサ』の後、先日亡くなった三浦春馬さんが出る『おカネの切れ目が恋のはじまり』の予告があって涙……でも4話だけでも放送する、というTBSのその意気やよし。悲しいけど、見るよ!

『未満警察 ミッドナイトランナー』(日本テレビ系)は面白い回もあるんだけど、「あれ?」と思う回が多い(笑)。物語のつじつまが合ってないところもあるし。

ららら アクションでも中島健人平野紫耀が相手にやられることが多いので、ジャニーズなのにカッコよく活躍しなくていいの? と思ってしまいました。でも、まあ土曜の夜だから、これくらいのゆるさでいいんですかね。

エス そうそう、リアルさを求めてはいけない枠よね(笑)。

成田 実は今回、僕がまったく食指が動かなかったのが『アンサング・シンデレラ』(フジテレビ系)で……もともと殺人と病気が前提のドラマって、あんまり見ないんですけど。

ららら 私も見てないですね……

エス あらら。かくいうアタシもネットで「薬剤師が越権行為しすぎ」といった、あまりいい評価をされていなくて、見てない……でも薬剤師さんの仕事をリアルに描いたら、ドラマになりにくいのかも。難しいところよね。

『アンサング・シンデレラ』は田中圭(右)、石原さとみ(左)で手堅いと予想されたが数字も評判も芳しくない

成田 そういう意味では、テレビ朝日系は『刑事7人』『警視庁・捜査一課長2020』『未解決の女』と毎回ドラマになる刑事モノをそろえて、固定客へのサービスは盤石。

エス うん。しかも10月からは最長シリーズの『科捜研の女』だから、手堅いよね! 

令和の夏を彩る若手俳優

エス そして『私たちはどうかしている』(日本テレビ系)の横浜流星、あの髪型、着物姿からあふれ出す色気がすごくてそこばっかり見てるわ(笑)。

ららら 観月ありさが極妻みたいな着物姿でイジメ役なんですけど、観月をキャスティングするところに、シリアスだけではないツッコミどころを残しているのかなと。イジメであまりに殺伐とすると、視聴者は離れますからね。

成田 サスペンス、ラブ、お店もの、嫁姑対決、復讐……ちょっとネタ盛り込みすぎかなと思うけど、名作『のだめカンタービレ』をまとめあげた脚本家の衛藤凛が担当しているから、「どうか」じゃなくて「なんとか」してくれるでしょう。

 それにしても浜辺美波、横浜流星、観月ありさ、高杉真宙……出演者の名前が美しすぎて、そっちのほうこそどうかしてますね(笑)。

 注目の俳優はどうです?

エス これはもう岡田健史でしょう! 『MIU』では警察庁のキャリア刑事、『いとしのニーナ』はヘタレ高校生、BSでやっていた時代劇『大江戸もののけ物語』は旗本の次男坊、木皿泉脚本のショートドラマ『これっきりサマー』では高校球児役と八面六臂の活躍! まっすぐで、とっても爽やかなんだけど、屈折してるところも出せるんだよね。

ららら 私もそう思います。ただ2018年のデビュー作『中学聖日記』では正直、演技力に不安があったのですけど、『MIU』を見てビックリ。岡田くん、デビュー以後しばらくドラマや映画に出てなかったですけど、演技の勉強をしたのかもしれませんね。

成田 イケメンだと「主役以外はダメ」みたいな不文律がありますけど、それに縛られていないのがいいのかもしれませんね。岡田くん、先輩俳優に揉まれながら演技を磨いて、いい役者になってほしいなぁ。

エス 女優さんだと『美食探偵 明智五郎』での小芝風花がよかった。今はテレビ朝日系の『妖怪シェアハウス』で大倉孝二らクセのある役者たちの中で頑張ってるよね。

今田美桜(左)は『半沢』『親バカ』と日曜の夜を掛け持ち! 座談会メンバーイチオシの小芝風花(右)

ららら 彼女、元フィギュアスケーターなんですよね。私は昨年放送された『トクサツガガガ』の特撮オタク役でガ然、注目しました!

成田 僕が個人的に推したいのはテレビ朝日系の『真夏の少年~19452020』なんです。戦時中の兵隊が現代の高校生たちの前にタイムスリップする。ストーリーとしては安易なんですけど、大人になると忘れてしまうヒリヒリした10代の気持ちを思い出させてくれる。なおかつ今どきの子たちの悩みも描かれていて、サスペンス的要素もあり、戦争のこと、平和とは何かも考えさせられる。

 そして主演しているジャニーズの「美 少年」のメンバーの初々しさも見どころで、中でも佐藤龍我の演技がとても自然でいいので、今後注目していきたい! また最近、ブチ切れた演技で何かと注目を集める水野美紀の毒母っぷりも面白いですよ(笑)。

エス 水野美紀、最近なんだかすごいほうへ振り切ってるよね(笑)。アタシは日本テレビ系の『おじさんはカワイイものがお好き。』に出ている富田望生に最近大注目してる! 個性派&演技派の逸材で、まだこのドラマでは持ち味を発揮してないけど、彼女ならやってくれると信じてるわ!

ドラマのあり方が変わった夏

ららら やはり全体の傾向として、1話でスッキリするドラマが好まれる傾向がありますよね。話がズルズル続くと「もういいか」と見るのをやめてしまう。月9の『SUITS/スーツ2』の視聴率がふるわないのは、そういうことなのかも。

成田 1話完結方式だと、ネットなどで「面白い」という反応があるとTVerなどの見逃し配信で見て、面白ければ次の回から見始めるという行動につながるという「間口の広さ」があるんでしょうね。あとはコロナ禍ならではの取り組みが単発やミニシリーズものであって、坂元裕二脚本の『リモートドラマ Living』(NHK)、千葉雄大主演の『40万キロかなたの恋』(テレビ東京系)、秋元康原案の『リモートで殺される』(日本テレビ系)、宮藤官九郎脚本の『JOKE~2022パニック配信!』(NHK)など、リモート時代ならではのソーシャルディスタンスなドラマが作られていたのも特徴でしたね。

ららら 『リモートで殺される』は犯人がわからないまま終わり、「続きはHuluへ!」とやって非難轟々でしたね(笑)。

エス ええっ、それはダメよね! でもこれからは3か月(10話)という放送スタイルではなく、3話くらいで終わるものがあってもいい。決まった月に始まる必要もない。少々出演者がかぶっていても視聴者は気にしないどころか、面白いドラマならちゃんと見るってことがよーくわかった。この前も『半沢直樹』の第8話の制作が遅れて放送が1週延期になったけど、関係なく見るよ! 秋以降も面白いドラマに期待!

座談会では語りきれなかったあの作品

『親バカ青春白書』

『勇者ヨシヒコ』シリーズや『今日から俺は!!』などを監督した福田雄一作品、個人的に演出の濃さとアドリブのしつこさが苦手だったのですが、今回は福田色が薄めで、物語を楽しめるよさがあります。娘の恋にやきもきする父と、今どきの大学生活をドラマで楽しめます。(ららら

新垣結衣がムロツヨシの亡くなった妻を演じることでも話題に。安定の中川大志

『おじさんはカワイイものがお好き。』

 主演の眞島秀和さん、これまで殺される役やヒロインの亡き夫みたいな役が多かったので、単独主演は感慨深いわ(笑)。『隣の家族は青く見える』では北村匠海くんと同棲するゲイ役が好きだったので、今回も今井翼くんとの「男同士の友情」的な展開が楽しみ!(エスムラルダ

『SUITS/スーツ2』

 アメリカの連続ドラマを原作にしているので、頭からしっかりと物語を追っていけば面白いんですけど、いかんせん出演者たちの過剰なまでの「アメリカンな動き」と「クールさ」ばかりに目が行って、肝心の内容が頭に入ってきません……(スーツ1のときもそれで挫折)(成)

×××××がっかり夏ドラマ3選×××××

『ギルティ ~この恋は罪ですか?~』

 実況ドラマとして楽しんでいたのですが、意識不明の重体の人が突然、病室からいなくなるなど無茶な展開と、登場人物の内面や心情が描かれないまま高速で物語がたたまれて「えっ?」となりました。コロナによる放送中断&撮影休止で、現場の勢いが削がれてしまったのですかね?(ららら

『竜の道 二つの顔の復讐者』

 両親を死に追いやった人への復讐なのに、成し遂げるためには関係ない人を殺す、ある意味で人生に成功しているのに復讐に突っ走る兄弟に疑問。さらに設定された時代では不可能なガス自殺や替え玉の焼殺など、『科捜研の女』だったら瞬時に解決→逮捕される案件ばかりで、初回に脱落。(成)

ハケンの品格』

 前作に比べてテンポが悪く、ラストでは篠原涼子演じる大前春子が演歌歌手で登場……あまりにも唐突すぎて、ちょっとガッカリ。続編放送まで13年、その間に脚本の中園ミホ先生は“スーパーハケン”の究極版『ドクターX~外科医・大門未知子〜』を書いて、ハケンのネタを出し切ったのかも……。(エスムラルダ