未曾有の外食不況を尻目に、今期は過去最高営業益を見込むKFC。ランチなどではしばしば行列が発生している例も見られる(記者撮影/東洋経済オンライン)

 日本上陸50年の節目を迎えたケンタッキーフライドチキンが、このコロナ禍のさなか、かつてない好業績に沸いている。

 8月7日に発表された日本KFCホールディングス(以下、KFC)が発表した2021年3月期第1四半期(2020年4~6月)決算。そこでは売上高が197億円(前年同期比11.5%増)、本業の儲けを示す営業利益は12.8億円(同35.5%増)と、売上高、営業利益ともに2ケタ増を表す数字が並んでいた。

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 同社にとって、比較できる2010年以降で4~6月期に10億円超の営業利益を稼いだのは初めてだ。しかも外食産業でコロナの影響が最も大きかった時期、まるで対照的に絶好調な業績を出せた要因は何だったのか。

実態は「中食」、
ドライブスルー利用も後押し

 まず1つは、もともとKFCでは、テイクアウトが販売の中心だったことだ。同社では従前から、テイクアウト販売が約7割と、店内での売り上げよりも比率が大きかった。新型コロナウイルスの感染を恐れ、客が飲食店でのイートインを避ける動きが広まったが、「外食」というより「中食」の需要がメインだったことで、結果的に難を逃れることができた。

 時期も味方した。4月~5月にかけての大型連休については、東京都の小池百合子知事が「今年はステイホーム週間にしてください」と、旅行や行楽地に行くことを控えるように強く要請。「外出できないが、自宅でちょっといいものを食べたい、というニーズがあった」(KFC)。別の娯楽に使うはずだった予算を食事に振り向けたり、連休ぐらい外食したいと思っていた家族が代わりに自宅で食事を楽しんだりという、ニーズの変わり目をつかんだと言える。

 もう1つ大きかったのが、全店の3割強にあたる約400店にドライブスルーが設けられていたことだ。通常のテイクアウトと比べても、店内に入らず、ほかの来店客と接することもなく商品を買えることから、飛躍的に利用が拡大。「(4~5月は)さまざまな販売形態の中でも、ドライブスルーの売り上げがいちばん伸びた」(同)という。普段はあまり注目されてこなかったドライブスルーが一躍大きな武器になった。

 ドライブスルーほどではないが、ウーバーイーツや出前館といった、代行業者を利用したデリバリーの売り上げも大きく伸びている。3月末時点に220店だったデリバリー対応の店舗を、今年度は80店増やす計画だったが、4~6月の3カ月だけで44店を増やすなど、計画を前倒して旺盛な需要に対応している。

 そればかりではない。こうした外的要因が追い風になったことは否めない事実だが、KFC自身の企業努力によって、「実力」で売り上げを伸ばした面も見逃せない。

 大型連休には大人数向けのセット商品「GWパック」を投入。家族で映画鑑賞をしながら、手で持って食べられることをアピールしたCMを、テレビやSNS、動画投稿サイトなどで一斉に訴求。少しでも自粛ムードを打ち消したい、消費者の本能に訴えかけた。

 一見地味だが、臨機応変な対応も、功を奏している。利用が急増したドライブスルーに対しては、最需要期のクリスマスにしか配置しない警備員を急きょ手当て。車列を誘導してスムーズに流れるようにし、客の回転率をアップさせたという。

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 居酒屋やファミリーレストランなど多くの外食企業が不振を極める中、KFCも商業施設内の店舗を中心に一時は150店舗を臨時休業したうえ、全店原則としてイートインでの客席利用を中止して20時には営業を終了。感染対策のため多くの制約を受けた。だがそうした逆風をはねのけ、全店売上高は4月が20.6%増、5月が22.2%増となるなど、前年同月比で大きく売り上げを伸ばしたというわけだ。

会社は過去最高益予想だが、それでも保守的

 KFCの場合、今期がスタートした時点では「新型コロナウイルスの影響により算出が困難」として、通期の業績予想を未定としていた。それが8月7日の第1四半期決算とともに通期予想も同時に発表。売上高は850億円(前期比6.7%増)、営業利益50億円(前期比4.5%増)で、本業である営業利益は上場来最高(16カ月決算だった2010年3月期を除く)を予想している。

 とはいえ会社予想は保守的だ。コロナ禍の第二波がピークを打ちつつある今、4月や5月のような売り上げ2割増のペースを期末まで続けるのは、さすがに難しいかもしれない。それでも、前期に47.8億円の営業利益を稼いでいることを考えると、たった2.2億円の小幅な増益とするシナリオは、いささか慎重視しているだろう。

 確かに新規出店で戦線を拡大する際、店舗設備の初期費用や従業員の採用費などの負担は大きく、利益に貢献するまでには時間がかかる。しかし、KFCの新規出店は少なく、既存店の成長が業績を牽引している状態にあるため、売上高が伸びると、それに比例し利益も増えやすい構造なのだ。

 最近では、ネットで事前注文して店舗で受け取るだけの客や、ウーバーイーツや出前館の配達員が受け取りに来ることも多い。まだ大半の店舗では、注文したその場で商品の提供を待つ形式のため、ランチタイムなどにはしばしば長い行列が発生してしまっている。

 こうした課題を解消すべく、今期はカウンターの注文場所と受け取り場所を分ける改装を推進する。直近では改装費用がかさむものの、将来に向けた投資ともいえ、年度後半にかけて業績にプラスに作用してきそうだ。

 中長期的な視点でKFCを見れば、業績のさらなる躍進のためには、新たな需要の創出や新規出店も欠かせない。この2~3年、KFCの業績が右肩上がりできたのには、これまでクリスマスやお盆といった「ハレの日」に利用が集中していたところを、割安なランチ施策などによって、「日常食」として需要を切り開いたことが大きい。

 新規客や休眠客を掘り起こし、日常利用しやすい価格帯と定期的な新商品を提供して、リピート客へと定着させる戦略が奏功したわけだ。KFCと聞いて、クリスマスでしか食べたことがない、しばらく行っていないという潜在的な客層はまだまだ多い。いずれコロナ禍が収まり、他の外食が復活してきたとき、今の延長のままでは、いつかは限界を迎えてしまう。

 かつて日本マクドナルドは「夜マック」を打ち出し、弱点だった夜間の需要を作り出した。いまだ季節性の強いKFCには、シーズンや時間帯、客層で伸びしろのあるマーケットを探り出し、新しい需要を掘り起こす施策が求められよう。目下、「フレーバーレモネード」というドリンク商品で、アイドルタイム(昼と夜の間の閑散時間帯)の強化や客単価の上昇を図っているが、こうした一手を途切れることなく連打しなければなるまい。

現在の国内1131店舗体制は維持か拡大か

 国内の店舗数は1131店舗あるが(2020年6月末)、現在の体制をどうするかも今後の注目点だ。既存店がフル稼働する時間帯が増えてくると、来店客がこれ以上増えても、対応しきれない事態も考えられる。新規出店によってこうした機会損失を防いだり、ニーズのある新たな商圏を獲得したりすることも、将来的に必要になってくる。

 コロナ禍にあって思わぬ活況を呈したケンタッキーフライドチキン。日本上陸から50年、株式上場から30年が経ったが、成長ポテンシャルはまだ十分ある。大きなビジョンを描きながら、顧客のニーズに沿った目の前の施策を、1つひとつ積み重ねていくことが求められる。


佐々木 亮祐(ささき りょうすけ)東洋経済 記者
1995年埼玉県生まれ。埼玉県立大宮高校、慶応義塾大学経済学部卒業。卒業論文ではふるさと納税を研究。2018年東洋経済新報社に入社し、編集局報道部記者として外食業界を担当。庶民派の記者を志す。趣味は野球とスピッツ鑑賞。社内の野球部ではキャッチャーを守る。Twitter:@TK_rsasaki