(左から)佐藤健、妻夫木聡、綾野剛

 10月期ドラマの目玉のひとつ、TBSの日曜劇場『危険なビーナス』('20年)に、主演することが決まった妻夫木聡(39)。日曜劇場で彼が主演を務めるのは、'04年の『オレンジデイズ』以来、実に16年ぶりだという。 

 かつて『ランチの女王』('02年・フジテレビ系)や『ブラックジャックによろしく』('03年・TBS系)、『スローダンス』('05年・フジテレビ系)など、民放連ドラでメインキャストもしくは主演として活躍してきた後、NHK大河ドラマ『天地人』('09年)で主演を果たした妻夫木。

 そんな彼が「連ドラ」に出ること自体、『若者たち2014』('14年・フジテレビ系)以来、6年ぶりとなる。

連ドラに戻ってきた俳優たち

 妻夫木の例ほど極端ではないが、近年、民放の連続ドラマから遠ざかっていた役者たちが、次々と連ドラに戻ってきている。

 たとえば、現在放送中の『半沢直樹』('20年・TBS系)で「帝国航空再生タスクフォース」のリーダー・乃原正太役で出演している筒井道隆(49)

 90年代に朴訥としたキャラを多数演じ、アイドル俳優的人気を博していた彼が、民放連ドラでは久しぶりの出演となる同作で、かつてのイメージを大きく覆す「インテリヤクザ」的魅力を放っていることは、大きな話題となった。

 また、連ドラに戻ってきたことで、ますます需要の高さを示したのが、『恋はつづくよどこまでも』('20年・TBS系)で多くの女性視聴者を悩殺した佐藤健(31)だ。

 彼がNHK連続テレビ小説『半分、青い。』でヒロイン・鈴愛と同じ日に同じ病院で生まれた「運命の人」として繊細な美青年・律を演じたのは、2018年上半期。このとき、連ドラ出演は『天皇の料理番』('15年・TBS系)以来、3年ぶりのことだった。

 個人的には彼の連ドラデビュー主演作『仮面ライダー電王』('07年〜'08年・テレビ朝日系)での中性的な魅力のある「史上最弱のライダー」野上良太郎や、NHK大河ドラマ『龍馬伝』('10年)での野良犬的な切なさ・愛らしさと「人斬り」として狂犬的魅力の岡田以蔵、『Q10』('10年・日本テレビ系)での病弱で冷静で大人びた高校生役など、線の細い佐藤健こそが、至高の美しさだと思っていた。

 しかし、そうした若いころの佐藤健に対しては、「ガリガリで細すぎる」「目だけ大きくて、痩せた猫みたい」などの声もあった。その点、世間の多くの女性が佐藤の魅力にとろけるようになったのは、彼が30歳近くになってから。

 その間、『るろうに剣心』シリーズや、『バクマン。』『世界から猫が消えたなら』『何者』『亜人』など、多数の映画に出演し、持ち前の身体能力の高さを生かした芝居から、“普通っぽさ”まで演じ分け、技術を磨き、成熟度も高めたうえで、戻ってきたのが『半分、青い。』だったわけだ。

 しかも、『半分、青い。』終盤に重なるかたちで、ドラマ『義母と娘のブルース』('18年・TBS系)で、彼の持ち味である繊細さや聡明さとはかけ離れた、綾瀬はるか演じる主人公・岩木亜希子に好意を抱くおバカ可愛い麦田章役を好演。

 役者としての幅の広さを強く印象付けた上での、これ以上ないほどベタベタな王道ラブコメ『恋つづ』へつなげる、見事な快進撃を見せたのである。

『仮面ライダー電王』出演時は、可愛らしいルックスで注目を集めた

 そういった意味では、9月4日に惜しまれつつ最終回が放送された『MIU404』(TBS系・'20年)で綾野剛(38)とW主演となった星野源(39)も、民放連ドラの出演は、同作と同じ野木亜紀子脚本の『逃げるは恥だが役に立つ』('16年・TBS系)以来、約4年ぶりの主演となる。

 また、「相棒役」の綾野剛もまた、『ハゲタカ』('18年・テレビ朝日系)以来、2年ぶりの出演であった。

 他にも『きのう何食べた?』('19年・テレビ東京)で、これまでのインテリ系や、男臭いイメージと大きく異なる役、やきもち焼きで細やかで優しくて可愛いゲイの美容師・ケンジを演じた内野聖陽(51)も、民放連ドラからはしばらく遠ざかっており、久しぶりに出演したのは『ブラックペアン』('18年・TBS系)から。これは、『とんび』('13年・TBS系)以来、なんと5年ぶりの連ドラ出演となった。

 さらに、テレビドラマはゲストか、スペシャルドラマへの出演くらいで、基本的に映画を主軸に活躍してきた“映画人”の浅野忠信(46)が、民放連ドラに出るようになったのは、『A LIFE~愛しき人~』('17年・TBS系)、『刑事ゆがみ』('17年・フジテレビ系)から。

 前クールの『ハケンの品格』(日本テレビ系)主演の篠原涼子(47)や、『SUITS』(フジテレビ系)シリーズの鈴木保奈美(54)など、結婚・出産などで連ドラから遠ざかっていた女優と違い、プライベートの影響をあまり受けにくい男性役者たちの場合、何を機に連ドラという舞台から遠ざかり、また、戻ってくるのか。

ドラマに戻ってきた理由

 ひとつには、筒井道隆や佐藤健のように、「人気俳優」「アイドル俳優」になりかねない場所から脱却するために、活動の主軸を映画などに移し、着実に力をつけ、役者としての幅を広げてから連ドラに戻ってくるというパターンがあるだろう。

 また、綾野剛や星野源など、信頼している脚本家や制作スタッフの座組に呼ばれるかたちで、久しぶりの連ドラ出演を果たすパターンもある。

 内野聖陽や浅野忠信など、作品性や役柄・企画のチャレンジ性によって出演を決定していると思われるパターンもある。

 実際のところ、かつてドラマに多数出演していたものの、映画メインになった役者にその理由を尋ねると、非常に大まかで幅をもたせた映画特有のスケジュールのおさえ方がドラマから遠のいた原因でもあるという。

 もちろん1週間程度で撮り切る映画もあるが、以下のような理由がある。

・短期間で撮り切る作品もあるが、ロケ先でその役柄に入りこむ場合、合間にドラマの仕事は入れにくい。

・映画は撮影から公開までの進行が予定どおりにいかないことも多々あり、スケジュールが読めず、ほかの仕事を入れにくい。

・スケジュールの都合で一度断ると、「ドラマを受けない人」という印象を持たれ、以後、あまりオファーが来なくなる。

 当然ながら、本人の意向に関わらず、事務所の売り方・方針によって、連ドラから遠ざかるケースも多々ある。

 おそらく妻夫木の場合は、佐藤健や筒井道隆のケースに近いのだろうが、彼の場合、アイドル的人気があったうえに、大河ドラマ主演まで果たしているだけに、作品選びが難しい面はあるだろう。主演以外の仕事が入りにくいうえ、「失敗できない・させられない」プレッシャーは相当なものだと思う

 とはいえ、今はコロナ禍で映画の撮影・公開が見送られる作品も多いため、通常よりも役者のスケジュールにすき間ができやすい。なおかつ視聴者たちの在宅率が上昇していることで、数字も稼ぎやすくなっている現状は、連ドラにとって追い風となっている面もある。

 映画館でしか観られなくなっていた役者を、連ドラで観られるのは、やはり嬉しいもの。『危険なビーナス』の妻夫木聡を筆頭に、“久しぶりの連ドラ出演”の役者たちが見せてくれる芝居を、存分に楽しみたい。

PROFILE●田幸和歌子(たこう・わかこ)●1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)など。