トレーニングやランニングも、「代謝の知識」があるかないかで、その効果が変わってきます。「代謝」という観点から、体を動かすときに気をつけたいポイントを解説します

 せっかく頑張っているトレーニングやランニングも、「代謝の知識」があるかないかで、その効果が変わってきます。内科・循環器科の専門医である池谷敏郎氏(近著に『代謝がすべて やせる・老いない・免疫力を上げる』がある)に、体を動かすときに気をつけたいポイントを、「代謝」という観点から解説してもらいます。

 せっかく運動を行うなら効率のいい方法で行いたいですよね。でも、皆さんも日頃から感じているかもしれませんが、食事でエネルギーを摂取するのは簡単なのに、運動でエネルギーを消費するのは大変です。

当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です

 例えば、おにぎり1個はほんの数分、下手をすれば数十秒で食べ終わりますが、おにぎり1個分のエネルギー(200キロカロリー前後)をジョギングで消費しようと思ったら、体重80キログラムの人なら20分ほど走り続けなければいけません。

目先の消費エネルギーに
一喜一憂しなくていい

 トレッドミル(ランニングマシン)やフィットネスバイクには、運動を終了すると消費したエネルギー量(カロリー)とともに、そのエネルギー量を食品に換算したときの目安を表示してくれるものがあります。

 スポーツジムのランニングマシンで頑張って走って、いい汗をかいたなと思っていたら、「バナナ1本分」などと表示されて、「え? たったそれだけ?」とがっかりした経験はありませんか。脂肪燃焼効率の高い運動を行っても、1回の運動で消費できるエネルギー量には限りがあるのです。

 ですから、目先の消費エネルギーに一喜一憂する必要はありません。

 たとえ、頑張って運動をして「バナナ1本分」や「おにぎり1個分」のエネルギーしか消費できなかったとしても、それが基礎代謝を高めることにつながれば、普段からエネルギーを消費しやすくなります。

 運動は、エネルギーを効率よく消費すると同時に、必ず基礎代謝の向上にもつながる可能性があることを意識する必要があるわけです。つまりは、筋肉がつく(=基礎代謝が向上する)ような運動を選ぶこと。それが、活動代謝を増やすうえで大切な考え方です。

「やせるには有酸素運動が不可欠」ではない理由

 エネルギーを消費することよりも、筋肉を増やして基礎代謝を上げることに注目したトレーニングをまさに実践しているのが、「結果にコミットする」でおなじみの、あのパーソナルトレーニングジムです。基本的に有酸素運動は行わず、筋力トレーニングと糖質制限を中心とした食事改善で、エネルギー供給を減らしながらも筋肉は落とさずに基礎代謝を上げることで結果を出しています。

 ダイエットといえば「走る運動」が定番ですが、走るって結構大変ですよね。しんどいうえに、まとまった時間をつくらなければいけません。その点、「走らなくてもやせる」「有酸素運動をしなくてもやせる」ことを実践した画期的なダイエット方法だったからこそ、こんなにもブームになったのでしょう。

 ジョギングやランニングのような有酸素運動と、無酸素運動の筋トレを比べると、エネルギー消費量は有酸素運動のほうが上です。だから、体脂肪を落とすには有酸素運動が効果的と言われます。

 ただ、覚えておいてほしいのは、「運動でエネルギーを消費して体脂肪を落とすこと」と、「運動で代謝を高めること」は別であるということ。繰り返しになりますが、これは分けて考えなければいけません。

 意外にも、多くのエネルギーを消費する有酸素運動は、基礎代謝の高い体づくり(=燃費の悪い体づくり)にはちょっと不十分なのです。一方で、筋トレは、エネルギー消費量を比べると有酸素運動に劣りますが、燃費の悪い体づくりにつながり、長い目で見ると代謝を上げてくれます。

「やせるには有酸素運動を」というのは、前述の2つのうちの「エネルギーを消費すること」のほうしか見ていない不完全なアプローチなのです。

有酸素運動も筋トレも組み合わせることが大事

 私は、食事に気をつけることと筋力トレーニングを基本にしつつ、暖かくなってきて薄着のシーズンにさしかかってきたら、追い込みで、冬の間についた脂肪を落とすために走るようにしています。

 走り込み前の筋肉を増やす時期には、食べ方には気を配りますが、食べる量(エネルギー摂取量)は減らしません。なぜなら、エネルギーが不足するとタンパク質までエネルギー源にまわってしまい、タンパク質が筋肉の合成に使われなくなってしまうからです。ですから、筋力トレーニングを頑張る時期は、少し脂肪もつけつつ筋肉を増やし、その後の追い込み期に、食事ではタンパク質はしっかり摂って糖質と脂質を少し減らし、ランニングで脂肪を燃焼するようにしています。そうすると、筋肉だけが残って理想的な体になりやすいのです。

「走るだけ」「食事制限だけ」のダイエットでは、やせはするものの筋肉も脂肪も両方落ちていき、残念な体になってしまいます。しかも、過度な食事制限は続きませんし、基礎代謝を下げるので、最終的にはリバウンドしやすく、リバウンドしたあとにやせにくい体になってしまう。その失敗は私はすでに経験済みなので、今は、代謝のいい体づくりと脂肪を落とすことを必ずセットで行うようにしているのです。

 ちなみに、燃費の悪い体の筆頭のようなボディビルダーの人たちは、オフシーズンの冬場は食べる量を増やして、あえて一度太るケースが多いようです。この時期は筋肉も脂肪も同時に増やすことにしているというのです。その後、脂肪の材料になりやすい糖質や脂質は減らして、筋肉の材料となるタンパク質と、食物繊維やビタミン、ミネラルが豊富な野菜を中心とした食事に替えていくことで、筋肉だけを残し、大会などの本番に合わせてあの肉体をつくり上げています。

 ただ、あれだけムキムキの筋肉を維持するには相当なエネルギーが必要なので、しばらくするとエネルギーが不足して筋肉も落ちていきます。だから、もう一度あえて太ったあとで脂肪だけ落としていくということを繰り返すのです。ずっと保つことはできないからこそ、ボディビルダーの世界にはオンとオフがあるのでしょう。

 では、いわゆる中年太りと言われるような、若い頃に比べて筋肉は減り、脂肪がたまった状態になっている人は、エネルギーを消費して体脂肪を落とすことと、筋肉を増やして代謝を高めることのどちらから取り組んだほうがいいのでしょうか。

 答えは、「両方同時に行うべき」です。

 重たい体で運動をすればひざなどに負担がかかりそうだから、脂肪を落としてから運動に取り組んだほうがいいのではないか、と心配する人もいるかもしれません。実際、太っている人は、重たい荷物を抱え続けているのと同じなので、ひざや股関節を悪くしやすいものです。だからこそ、とくに下半身の筋肉を使う運動を上手に取り入れることが大事です。

ジムでいちばん活動代謝が上がるのは

 スポーツジムに行ってランニングマシンで運動をするなら、心拍数を意識して脂肪燃焼効率を高めるとともに、傾斜をつけて少し負荷をかけること。負荷がかかることで、より筋肉がつきやすくなります。そうすると、脂肪を落とす有酸素運動と、筋肉をつける運動を同時に行えて一石二鳥ですね。

 水泳も、水圧で自然に負荷がかかるので、有酸素運動だけではなく筋トレ効果もあり、よいと思います。もちろん、マシントレーニングで筋トレを行って、ランニングマシンで有酸素運動を行うなど、両方をそれぞれ行うこともおすすめです。

 その際、筋トレから行ったほうがいいのか、有酸素運動から行ったほうがいいのか、順番を気にする人もいるかもしれません。「筋トレをしてから有酸素運動を行ったほうが、成長ホルモンが分泌されて、有酸素運動時の脂肪燃焼効率が高まる」といった話も耳にしますが、科学的根拠は不十分です。

 筋トレが先でも有酸素運動が先でも順番はどちらでも構いません。それよりも、両方の要素を取り入れることが大事と考えてください。

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 ついでにいえば、「1日のうちでどの時間帯に行うべきか」も、とくにこだわる必要はありません。いつでも、できる時間帯でかまいません。ただし、おすすめできない時間帯はあります。自律神経がリラックスモードの副交感神経優位からアクティブモードの交感神経優位へと切り替わる早朝は、体がギアを上げて血圧が上がり、心拍数も増加しているタイミングなので、激しい運動はおすすめできません。また、寝る前も、運動で交感神経を刺激すると眠れなくなってしまうので避けたほうがいいでしょう。

 私の場合、ある程度まとまった時間が取れるのは診療後なので、運動は仕事終わりに行っています。ただ、なかなかまとまった時間が取れる日ばかりではありませんよね。ですから、日中の生活のなかで小まめに筋肉を動かす機会を増やすことも大切です。


池谷 敏郎(いけたに としろう)医学博士/池谷医院院長
1962年、東京都生まれ。東京医科大学医学部卒業後、同大学病院第二内科に入局。1997年、医療法人社団池谷医院理事長兼院長に就任。専門は内科、循環器科。現在も臨床現場に立つ。生活習慣病、血管・心臓などの循環器系のエキスパートとして、数々のテレビ出演、雑誌・新聞への寄稿、講演など多方面で活躍中。東京医科大学循環器内科客員講師、日本内科学会認定総合内科専門医、日本循環器学会循環器専門医。著書に『体内の「炎症」を抑えると、病気にならない!』(三笠書房)、『「血管を鍛える」と超健康になる!』『血管の名医が教える15歳若返る習慣』(ともに知的生きかた文庫)などがある。