『半沢直樹』ロケに臨む堺雅人

剣道の鍛錬で身についてきたもの。そして銀行員という厳しい仕事をする中で培われてきた強さでもあると思います

 そう話すのは剣道歴30年以上の腕前を持つ千葉銀行のバンカー、岩崎由紀子(仮名)さん。現役剣士の視点から同業の剣士・半沢直樹を語ってもらった。

劇中で難局や壁にぶち当たったとき、部下や仕事仲間と剣を交える場面がありましたよね。剣士は剣を交えることで気持ちの切り替え、抱えているモヤモヤを吹っ切るんです。稽古に打ち込み、集中力を高めているのだと思いました

半沢たちのチームワークは……

 さらに打ち合うことは信頼を深めることにも関係がある。

 3話で尾上松也演じるIT企業『スパイラル』の瀬名社長と打ち合いをしていたシーンでも、

剣道では内面の感情を隠して戦うことはできません。相手が強ければ強いほど自分をぶつけ、すべての感情を出し切って戦います。そこでその人の本心が出てくるんです。瀬名さんとは前からのつながりもありますが、打ち合うことでお互いに“こいつとだったら大丈夫”だと信頼を深めたのではないかと

 この打ち合いの後、瀬名は半沢の協力者の一人としてその絆は確かなものとなった。

 余計な言葉はいらない。相手の目を見据え、感情を読み取り、気合を出し、身体も心もぶつけていく――。相手を打ち負かすための気迫、集中力、忍耐、間合いの取り方、半沢や岩崎さんらが剣道を通して培ってきたものだ。

 そして剣道に欠かせないのが「チームワーク」だ。

「剣道は1対1で戦うので個人競技に見えますが、実は団体競技でもあります。団体戦では先鋒や次鋒、大将などポジションがあり、それぞれの役割を果たし、次につなげていくんです」

 試合の流れが悪ければ、次のポジションの選手が切り替えて新たな流れを作る。

『進政党』の箕部幹事長(柄本明)の不正を暴くため、半沢の同期・渡真利(及川光博)や『東京セントラル証券』の森山(賀来賢人)らが共に奔走していたが、これはまさに大将・半沢直樹を支える団体戦だ。

 だが、福山(山田純大)が大和田取締役(香川照之)に情報を流し、あと一歩のところで決定的証拠が箕部の手に渡ってしまう。

流れが続かなければ負けにつながってしまいます。業務でも、一つでも歯車が狂うと目標に掲げていることがうまくいかなくなってしまう。剣道も仕事もチーム力が大事なんです

 半沢の妻・花(上戸彩)や小料理屋の女将・智美(井川遥)のように半沢直樹を支える仲間たちの存在も重要だ。剣道でも試合の時には、控え選手はじめチームに関わる全員がレギュラー選手をサポート。全力で応援し、支え、試合に臨むことで選手も万全の力を発揮できるという。

堺雅人・賀来賢人の腕前は?

 岩崎さんは現在7段。いつかは女性でまだ誰も到達していない8段を目指すことが目標。そんな岩崎さんから見た半沢直樹の腕前は?

半沢さんが大学まで剣道をしていたなら3~4段は持っていると思いますし、ちゃんと稽古をしてきた方だと思います。ぜひ一緒に稽古をし、剣を交えてみたいですね

銀行の仲間たちと稽古する岩﨑さん(右)。バンカーの剣道人口は少なくはないという(岩﨑さん提供)

 堺雅人や賀来賢人ら、剣道の場面に登場する俳優は初心者だというが、

腰の入り具合、踏み込み、かまえ、素振りもまるで初心者には見えません。よほど稽古もしたと思いますし、指導者もいい方がついていたと思います

 と7段も絶賛する腕前。

「私自身、一生修行だと思い、心と身体のために稽古をしています。剣道は心が鍛えられますからやっていなかったら仕事を続けてられていなかったかもしれません」

 バンカーの重圧、人間関係、プレッシャーのある生活の中で剣道を通し、己と向き合い、剣を打ち合うことで救われたという岩崎さん。

実際のバンカーでしたら紀本常務(段田安則)や大和田取締役のような方々を叱責するのは、かなり難しいことです。しかし、それもお客様を第一に思う信念をもっているからこそ。半沢さんの部下やお客様に対する思いは同業者として学ぶところがたくさんあります。少々オーバーなシーンはありますが、あの気持ちは自分も見習いたいと思っています

 剣道には「気剣体一致」という言葉がある。

これがすべて一致しないと技を打った時に一本にならないんです

 己の正義と銀行の未来をかけた大将・半沢直樹は箕部の錬金術を破り、腐りきった政治家とバンカーに「倍返し」の一本を決めることができるのだろうか。