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 コンビニよりも数が多いといわれている歯科医院に注目。カモられないためのポイントを専門家に聞いた。

「歯科医院は全国で約6万8000軒あり、大都市では特に密集しています」

 と話すのは、歯科医師の毛利啓銘さん。医療経済ジャーナリストの室井一辰さんは、

「虫歯治療をする人も減少傾向にあり、ひと昔前に比べて、“歯医者は儲かる”とは言えなくなってきていますね」

 それゆえ歯科医師は治療の腕だけでなく、経営手腕も必要に。より高い収益を求めるがゆえに、無駄な医療を手がけ、結果として患者にとって不利益な治療を行う『ブラック歯科』が存在するのだ。

カモられやすいインプラント治療

 カモられやすい治療のひとつに、欠損した歯のかわりに人工の歯を埋め込むインプラント治療がある。

「必要がない歯まで『インプラントにしましょう』と提案する歯科や1本10万円という低価格をうたっている歯科でほかの歯のインプラント治療もすすめられ、最終的には数十万円かかってしまった、というケースも」(毛利医師)

 価格が相場からはずれている場合は、なぜ安いのか、また高いのかを歯科医師に聞き、まず、トータルでいくらかかるのか、という見積もりを書面にしてもらうといい。

説明をめんどくさがる歯科医は要注意。患者の立場を思えばしっかりと説明する義務があるからです」(同)

 ちなみにインプラントの相場は、全国平均で1本30万円前後といわれている。

 インプラント治療でトラブルにあったA子さんはホテルで大々的に行われた説明会に参加し、治療を決めた。

「最新技術で腕がいいというイメージを与えられ、いざ治療をしてみたら、数か月後にはグラグラしてきたんです」

 という惨事に。このとき、A子さんは70万円ほどをクリニックに支払っていた。

「インプラントは自由診療のため、値段は歯科によってまちまち。高額で高度な治療なので、どこの歯科で治療をするかは、しっかりと吟味する手間を惜しまないでほしいです」(毛利医師)

 “ホテルで説明会をしているから安心”というようなイメージで選択するのではなく、ほかの歯科と“値段”や“治療法”“過去の症例”などを比較してから決めるのが理想。

何度も通院させられるのはなぜ?

 多くの患者の受診目的は虫歯や歯の根元の治療。それらで何度も通院させられるケースがある。故意に治療費を稼ごうとしているのだろうか。

「健康保険制度との関係があります」(同)

 保険治療の点数は、歯科ごとに公定価格として割り当てられており、1日あたりの診療には上限がある。

「数本の虫歯を1日で一気に治すことは技術的に可能ですが、それだと保険治療の中で得られる治療費が限られます。ゆっくり治療したり、翌週や翌年に持ち越す……ということが起きるのです。とはいえ、治療期間があまりにも長いときは、故意にしているのではと疑ってかかったほうがいいでしょう」(同)

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 保険治療は“虫歯があれば削って埋める”というのが基本。しかし最新治療なら削らずにすんだり神経を抜くなども回避できるようになってきている。だが虫歯が進行している場合、有無を言わさずに「抜きましょう」と提案してくる歯科医もいるが……。

「まず抜かない治療を提案しても、治療には時間もコストもかかり、その歯科ではできない過疎地の医院の場合。専門性の高い治療が必要であれば、大都市の病院を紹介しなければならないなどの理由から、抜かない治療法には触れない。もうひとつは、医師自身が勉強不足で、治療法を知らないことです」(同)

 また歯科医師は歯の治療にあたり、美容的な部分で利益を出す場合が多いと、室井さんは指摘する。

「セラミックやホワイトニングなど、見た目をよくする部分は自由診療という形で提案してきます。治療の根幹ではないので余計な治療費を取ろうとしているという印象を持つ人もいるかもしれません」

自由診療は事前の値段チェックを

 自由診療は歯科判断で値段が大きく変わるため、すべてがブラックとは言い切れない。

「原料費の違いや、病院の立地、医師のブランドなどで、歯科医が自由に決めているため、経営判断ということもあります」(同)

 そもそも歯科医院で美容目的の審美医療を受ける意思があるかが判断のポイント。

 美容目的の医療を受ける意思があり、自由診療で治療を受ける場合は「法外な値段を取られた」と感じるトラブルを避けるためにも、事前の値段チェックがおすすめ。

「“悪い歯医者に当たりたくない”と考えるより“いい歯医者に当たりたい”と考えて行動するのがいいと思います」

 と前出・毛利医師は訴える。

 “近い、安い、早い、痛くない”で歯科医を選ぶ人は多いが、いい歯科医に出会いたいなら“患者の要望を叶えてくれる歯科医”を探すことだ。

「自分の歯をどうしたいのか、通院回数はどのくらいか、治療費はいくらで考えているか、保険治療の範囲で収めたいのか事前に医師と話すことが大切。その質問に対して、丁寧に答えて、治療方針を説明してくれる歯科医がいいでしょう」(同)

ブラックな歯科の余計な治療でお金がかかることも……(写真はイメージ)

 最初は歯石を取りにいって質問をぶつけたり、事前にメールで問い合わせをしたり、歯科医の出方を見よう。

「治療の見込みと根拠を説明してこない場合には、積極的に質問することが重要です」(室井さん)

 さらに不安をあおるような説明や、その場で治療を決めさせようとする歯科医も安易な治療を進める選択肢を患者に強いているといえるので、患者の立場を置き去りにしており、患者に寄り添ってくれる専門家とは言いがたい。

歯科の雰囲気や医師の態度も判断基準に

 また、歯科の雰囲気や医師の態度もブラックかどうかの判断基準になりうる。

「器具の取り扱いが雑だったり、スタッフの対応が全体的に不親切なところも要注意です。医師が説明を渋るだけでなく、態度が横柄だったり、治療が雑な場合も気をつけたほうがいいかもしれません」(毛利医師)

 評判は歯科医院の口コミサイトでも参考になる。

「歯科医院の多くを網羅している『デンターネット』というサイトがあります。口コミなので真偽が怪しい部分もありますが、初めて行く歯科医院なら、参考にしてもいいでしょう。医療機関のHPもその医院の情報発信への姿勢を示す鏡。医院の治療方針やスタッフの考え方、価格帯などをよく理解できます。治療の取り組み方を知るため参考にできます」(同)。

 自分の歯について考え、納得のいかない治療はしない─ブラック歯科を避けるためには、患者サイドも努力が必要といえそうだ。

ブラック歯科チェックリスト

□歯科医師の治療の説明が不十分だったり、患者の話を聞かない

□クリニック内が不潔だったり、掃除も行き届いていない

□スタッフに対する歯科医師の態度が横柄

□スタッフの対応が全体的に不親切

□治療内容よりも費用についての話が長い

□高額な治療をすすめてくる

□歯科医師が自分のことをやたらに豪語したり、やりたい治療しか説明しない

□治療の手つき(唇や口角の扱い)が雑。器具の取り扱いが雑で、ガチャガチャうるさい

※1つでもチェックがあれば要注意!


お話を伺ったのは

室井一辰さん 医療経済ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程卒業。医療専門メディアなどを中心に記事を執筆、業界を広く取材する。『絶対に受けたくない無駄な医療』(日経BP)など著書多数。https://isshinmuroi.com/

毛利啓銘さん 東京・広尾にある『モウリデンタルクリニック』院長。東京歯科大学卒業。日本口腔インプラント学会所属。患者と二人三脚で考える、歯科医療の提案と丁寧な治療法が評判。https://mouridental.jp/

(取材・文/樫野早苗)