日々、発生する事件や事故。そこには当然、被害者と加害者が存在する。そして彼らには当然「家族」がいる。加害者家族といえば、マスコミが集まる自宅前で泣き崩れ、謝罪する姿が思い浮かぶが、報道されるのはそこまで。そのあと、どんな苦しみが待ち受けているのだろうかーー。凶悪事件も含め、200件以上の殺人事件の家族を支援してきたNPO法人World Open Heartの理事長・阿部恭子さんが、レポートする。

※画像はイメージです

 仁美(仮名・30代)は、いつものように慌ただしい朝を迎えていた。小学生のふたりの子どもたちを学校に送り出すと、自宅の前に車が止まっていることに気が付いた。すると、中からふたりの男性が現れた。

「警察です。ご主人はいらっしゃいますか?」

 仁美は、慌てて身支度を整えている夫を呼びに行くと、特別驚いた様子もなく、

「ああ、ちょっと仕事でトラブルがあって……。夕飯までには戻るから」

 そう言うなり、夫は鞄さえ持たずに止まっている車に乗り込んでいった。これが、仁美が夫を見た最後の姿になった。

気が付かなかった夫の裏切り

「強制わいせつ3件、住居侵入も……。まだ、余罪はあるとみています。常習犯ですね」

 翌日、夫が逮捕されたという連絡を受け、仁美は警察署にいた。夫は早朝や夜間に、ひとりで歩いている女性の後をつけ、抱き着いたり、身体を触って逃げるといった痴漢行為を繰り返していたのだった。
 
 まさか、あの人が……。伝えられる事実のすべてが、仁美には想像もできないことだった。

「セックスレスでしたか?」

 男性の警察官から唐突に立ち入った質問をされ、仁美は恥ずかしさで顔を上げることができなかった。

「子どもが生まれてからはずっと、夫婦生活はありませんでした」

 仁美と夫は職場で知り合い結婚。仁美は結婚を機に退職し、二人の子どもが生まれた。夫は穏やかで真面目な性格。交際していたころから浮気の心配などしたことがなかった。夫婦生活が途絶えていたからといって、仲が悪かったわけではない。

 子どもが生まれ、自然と求め合うことがなくなっていた。平凡だが幸せな日々を送ってきたはずなのに、夫はなぜ破廉恥な行為に手を染めてしまったのか……。

義母からは謝罪どころか
「すべてあなたのせい!」

 仁美は、いつものように生活費を下すため銀行に行くと「残高不足」という表示が出て現金を引き出すことができなかった。仁美はまさかと思い、夫の弁護人に相談すると、夫は4人の被害者にそれぞれ100万円以上の示談金を支払う予定で、既に弁護士報酬も発生している。

 口座にはもうお金がないのだ。夫は実刑判決は免れず、長期の刑に服することも覚悟しなければならない状況だという。ローンが残っている自宅の処分も進めており、弁護人は仁美にすぐ転居先を探すべきだと促した

 仁美は万が一、夫がけがや病気で働けなくなった場合に備えて、きちんと保険をかけてきた。しかし、まさか夫が犯罪を犯して生活に困ることなど考えもしなかった。

 弁護人は、仁美に生活保護を申請することを勧めたが、仁美は現実が受け止められず親族に援助を求めた。仁美の実家の両親はすでに退職しており経済的余裕はないことから、夫の実家に連絡を入れてみると

「こうなったのはすべてあなたのせいです! 早く離婚してください」

 夫の母親はヒステリックに仁美を責め立て電話を切った。夫は両親に、事件を起こした原因は仁美から性行為を拒まれ続けたことだと手紙で伝えていた。ふたりの娘も母親にばかりなついて可愛いと思えなくなっていたという。

 仁美はひどく傷ついた。事情聴取を受けたとき、警察官から同じ話を聞かされていた。しかし、夫がそんなことを言うはずがないと今まで信じていたのだ。

 数日後、弁護人から仁美のもとに、夫の署名押印が済んだ離婚届が送られてきた。夫は実家の家族とは面会や文通をしているにもかかわらず、仁美に伝えられる連絡はすべて弁護人を通した事務手続きだけで、謝罪のひと言もない。

 裏切られ、加害者家族として屈辱的な体験まで味合わせた夫を許すことはできない。しかし、刑務所行きになる夫には借金しか残らず、民事裁判を起こしても得られるものは何もないのだ。

 仁美と二人の子どもはその後、生活保護を受けて暮らしている。 

ママ友からハブられ、
ついには子どもまで……

 夫が性犯罪を起こした妻たちは、自分が性的満足感を与えられなかったことが原因で夫が犯罪に走ったのだと自らを責める。しかし、必ずしもセックスレスが原因で事件が起きるわけではなく、夫婦が良好な家庭からも性犯罪は生まれている。

 元子(仮名・30代)は、会社員の夫との間に男の子が生まれ、夫婦はそろそろ2人目が欲しいと考えていた。ところがある日突然、弁護士を名乗る人物から元子の携帯に連絡があり、夫が痴漢で逮捕され警察署にいるという。

 冤罪に違いない。とにかくすぐさま警察署に向かうと、申し訳なさそうに項垂れている夫と弁護人が待っていた。
 
 「本当にごめん……。つい魔が差して……」
 
 夫は、通勤電車の中で、前に立っていた女子高生の身体を触ってしまったのだという。元子は気絶してしまいそうなほどショックだった。夫が痴漢をしたなんて……。元子はこれでもう一巻の終わりだと思ったが、事件は会社に知られることなく解決し、これまでと同じ日常が続いた。
 
 夫は気を使って早めに帰宅するようになったが、元子はどうしても夫を受け入れられずにいた。食事が喉を通らず、一気に体重が落ちてしまい、久しぶりに会った「ママ友」に驚かれるほどだった。
 
 元子の様子を心配するママ友のひとりに、元子は思わず事件のことを打ち明けてしまった。

 そして元子の体調が回復し始めたころ、周囲でおかしなことが立て続けに起こるようになった。自宅に無言電話が来るようになり、郵便受けには卑猥な宣伝のチラシが何枚も詰め込まれていることがあった。

 久しぶりにママ友同士の交流会に参加しようと連絡をしても、誰からも返信が来ない。例年なら、ハロウィンパーティーの連絡があってもいい時期だが全く音沙汰がないのだ。

「性犯罪者の家族とは付き合いたくない」

 息子の様子がおかしいことにも気が付いた。いつも友達と遊んで帰ってくるはずなのに帰りが早く、最近は友達の話もしない。

「○○君たちと遊ばないの?」

 息子に尋ねると、

「僕と遊んじゃダメって言われてるんだって」

「どうして?」

 息子はわからないというように首を横に振った。元子は、事件のことを打ち明けたママ友の自宅を訪ねると、やはり、彼女が事件のことを周囲に漏らしていたのだった。

「なんだか、黙っているのが心苦しくなって……。ご主人、犯罪を犯したのに普通の生活をしてるって納得がいかない」

 夫が起こした事件であって、家族は関係ないのにーー。元子はそう言い返したかったが、自責の念からとても言葉にできなかった。

「元子にはわからないと思うけど、私たち女の子を持つ母親として、性犯罪者の家族とは付き合いたくない」

 元子はもうこの地域で生きていくことはできないと覚悟した。事件後、定期的に精神科に通院していた夫がうつ病と診断され、しばらく休職することになった。事件を起こす前から職場でストレスを抱えており精神的に不安定だったという。
 
 一家は都市部に転居し、専業主婦だった元子も仕事を始めた。元子は仕事を始めるようになって、夫がひとりで抱えてきたプレッシャーが理解できるようになったという。夫の回復を信じ、家族で支えていきたいと見守っている。

 性犯罪の中でも痴漢や盗撮は、重い罪にはならず、事件以前と変わらない生活をしているように見える家族もいる。しかし、身近な男性が性犯罪に手を染めたという事実は、「妻」や「娘」といった加害者家族の女性たちを精神的にも苦しめ、社会的に追い詰めている。

 性犯罪は再犯するケースも多く、加害者の更生には長期的な治療が求められ、加害者となった家族を支えたいと思う反面、再犯に怯えながら生活をしている家族もいる。被害者のケアが重要であることは言うまでもない。一方で、女性や子どもである加害者家族のケアも忘れてはならない。

阿部恭子(あべ・きょうこ)
NPO法人World Open Heart理事長。日本で初めて犯罪加害者家族を対象とした支援組織を設立。全国の加害者家族からの相談に対応しながら講演や執筆活動を展開。著書『家族という呪い―加害者と暮らし続けるということ』(幻冬舎新書、2019)、『息子が人を殺しました―加害者家族の真実』(幻冬舎新書、2017)など。