(写真左から)石田ゆり子、新垣結衣、野木亜紀子さん、星野源、石原さとみ

 春夏ドラマ満足度ナンバーワンといわれた『MIU404』(TBS系)。台本を書いたのは脚本家の野木亜紀子さん。野木さんの名を世に知らしめたのは『逃げるは恥だが役に立つ』(’16年)だろう。同作は来年の1月にスペシャルドラマが決定し、ファンたちを喜ばせている。

 そこで、脚本家・野木亜紀子の心に残る名ゼリフを週刊女性編集部とドラマ座談会メンバーの成田全さん、エスムラルダさん、神奈月ららさんが独断で選んでみました!(※ネタバレ含みます)

誰もが気づかずに抱える「呪い」

《その1》
自分に呪いをかけないで。そんな恐ろしい呪いからはさっさと逃げてしまいなさい
(『逃げるは恥だが役に立つ』最終回より ※セリフは海野つなみ先生の原作によるものです)

 多くの女性に勇気を与えたこの言葉。石田ゆり子演じるアラフィフの百合ちゃんが、17歳年下の男性(大谷亮平)から好意を抱かれるが、それを知った若さだけがすべての女性(内田理央)に「50にもなって若い男に色目を使うってむなしくなりませんか」と言われる。その返しがコレ!

《あなたはずいぶんと自分の若さに価値を見いだしているのね。私がむなしさを感じるとしたら、あなたと同じように考えている人がいっぱいいるということ。今あなたが価値がないと言い捨てたものは自分が向かっていることなのよ。私たちの周りにはたくさんの呪いがあるの》

 そして冒頭のセリフに続くのだ。

 女性の賞味期限についてズバリと斬ってくれた。ドラマウォッチャーの神無月ららさんは、

「誰もが気づかずに抱えていた“若さを失えば自分には価値がない”という思い込みをきちんと“呪い”だと気づかせてくれて、同時にその呪いから強く解放してくれた。このセリフを味わうためだけでもこのドラマを見る価値はあります」

《その2》
昔っからどんなにまじめにやっても何か抜けてんの。だから、もうやめたの。期待されなきゃ、がっかりされることないもん
(『獣になれない私たち』第4話より)

伊藤沙莉

 なかなか報われない主人公・晶(新垣結衣)の同僚でちゃっかり者の松任谷(伊藤沙莉)が放ったセリフ。ライターの成田全さんは、

普段は明るくふるまっているのに、諦めから出た処世術をぽろっと吐露するなど、脇役のキャラクターにも人生があることを思わせるセリフ。

 話を動かすためだけの登場人物がいないので、脇役まで含めて行く末が気になってドラマに引き込まれ、私たちの世界と地続きの話なんだと感じられる。これが野木作品を毎作、毎週見続ける秘密だと思います」

“ひとごと”で終わらせない野木イズム

《その3》
生きて、俺たちとここで苦しめ
(『MIU404』最終回より)

 逮捕された久住(菅田将暉)に志摩(星野源)が放ったセリフ。脚本家のエスムラルダさんは、

「“俺たちと”が入っているところがポイント。決して“ひとごと”で終わらせない、自分を棚上げさせないという、野木イズムを感じます」

《その4》
俺はお前たちの物語にはならない
(『MIU404』最終回より)

菅田将暉

 久住が逮捕後、自分の過去について志摩や伊吹(綾野剛)に聞かれた際に答えたセリフ。顔を覆いながら語る菅田の演技に唸った視聴者も多い。

あの日から菅田将暉に心を持っていかれたままです(笑)。野木さんは他人の行動に対して決めつけをしません。『アンナチュラル』でも連続殺人犯の殺人動機を成育歴と決めつける検事に対して“テンプレですね、何もわかっちゃいない”と返すシーンがあります。野木さんは決して一方的な見方をしない。久住に関してもそう。誰もが納得する理由なんて語れないし、その必要もないと教えられた気がします」(編集者)

《その5》
あなたの孤独に心から同情します
(『アンナチュラル』最終話より)

 石原さとみ演じるミコトが連続殺人犯の高瀬(尾上寛之)に言ったセリフ。その前に《あなたの気持ちなんてわかりはしないし、あなたのことを理解する必要なんてない。不幸な生い立ちなんて興味がないし、動機だってどうだっていい》とミコトが突き放す。

「誰かが事件や問題を起こすと、私たちはその原因や背景を勝手に想像し、決めつけてしまいがちです。しかしそれは、いたずらに他人の人生を消費することであり、本当のことなど結局、誰にもわからない」(エスムラルダさん)

未来の出来事を予言するかのようなセリフも

 なぜ野木ドラマは私たちの感情を揺さぶるのか。

多くの人が感じていながら言葉にできず、もやもやとしている気持ちや、今の社会のおかしなところを抉り、セリフとして提示してくる。これも野木脚本が支持される理由のひとつでしょう」

 と成田さん。加えて、

未来の出来事を予言するかのようなセリフがあるのは、やはり普段から社会で何が起きているのかをしっかりと見据え、その先を描こうとしていることの証拠で、男尊女卑社会を鋭く斬るセリフも野木脚本の醍醐味。

 そして、これらをエンタメ作品へと昇華できるのがすごいところですね

 また野木さんが脚本を担当した、小栗旬と星野源が映画で初共演する『罪の声』も10月30日から公開を控えている。

 秋の夜長、野木作品にどっぷり浸かってみてはいかが?

編集部おすすめ野木ドラマ4選!

■『逃げるは恥だが役に立つ』(’16年10月~TBS系)

出演/新垣結衣、星野源、石田ゆり子ほか

海野つなみ氏による漫画原作。職なし彼氏なしの主人公・森山みくり(新垣)が、恋愛経験のないサラリーマン津崎平匡(星野)と、あることがきっかけで仕事としての結婚をすることに。エンディングで流れる“恋ダンス”が大ヒットした。

■『アンナチュラル』(’18年1月~TBS系)

出演/石原さとみ、井浦新、窪田正孝、市川実日子、薬師丸ひろ子、松重豊ほか

完全オリジナル脚本。舞台は設立して2年弱の不自然死研究所(通称UDIラボ)を舞台に展開。毎回さまざまな死を扱いながら、その裏側にある謎や事件を解明。1話はまるでコロナを予言していたかのようなストーリー。

■『MIU404』(’20年6月~TBS系)

出演/綾野剛、星野源、岡田健史、橋本じゅん、麻生久美子、菅田将暉ほか

警視庁“機動捜査隊”(通称・機捜)で、綾野・星野がバディを組み24時間というタイムリミットの中で犯人逮捕にすべてをかける。毎回事件を扱いながら、それぞれの心の奥にある問題に鋭く迫る。菅田将暉のぜいたくな使い方にも注目!

■『獣になれない私たち』(’18年10月~日本テレビ系)

出演/新垣結衣、松田龍平、田中圭、黒木華、田中美佐子ほか

完全オリジナル脚本。人生うまくいっているようで、ままならない2人(新垣、松田)が仕事終わりのクラフトビールバーで偶然出会い、それぞれの問題を描いていく。ガッキーがパワハラで壊れていく演出が「怖いっ」と話題に。


<選んでくれたのは>

成田全 昭和生まれのライター。ドラマの現場取材や記事を数多く担当。最近『北の国から』『前略おふくろ様』『澪つくし』にハマり中。

エスムラルダ 昭和生まれのドラァグ・クイーン、ライター、脚本家。小学生のとき、大河ドラマ『おんな太閤記』(橋田壽賀子脚本)にハマり、以後、ドラマフリークに。

神奈月らら 昭和生まれの地方在住ドラマウォッチャー。ネット上でエスムラルダによって発掘された期待の新人。