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「炭水化物が美容と健康の天敵というのは大間違い。実は炭水化物には、『腸活』に非常に有効な成分がたっぷり含まれているんです」

 と、衝撃の事実を教えてくれたのは、文教大学健康栄養学部教授の笠岡誠一先生。

「日本人の炭水化物の摂取量は年々減少しています。それに反比例するように、日本人のがんや心疾患、糖尿病などの生活習慣病の罹患(りかん)率は、年々増加の傾向にあります」

健全な腸内環境で太りにくい身体に

 その原因のひとつが、食習慣の変化による腸内環境の乱れにあると、警鐘を鳴らす。

「腸内細菌のバランスが乱れると有害物質が発生。血液とともに全身に運ばれ、病気のリスクが高まります。また、身体の免疫力を司(つかさど)っているのも腸。全身の免疫細胞の約6割は腸に存在しており、腸内の環境を整えることで身体の免疫は正常に機能します」

 さらに、腸内環境のよしあしは美容やダイエットにも影響を及ぼす。

「腸内の善玉菌は、食物繊維などのエサを食べることで短鎖脂肪酸という物質を作り出します。この物質には脂肪の蓄積を防ぐといううれしい働きが。健全な腸内環境は、太りにくい身体を作ることにもつながります」

 このように、腸は美容と健康維持に欠かせない存在。そして良好な腸内環境維持=腸活に欠かせない栄養素のひとつが、食物繊維だ。ところが現代日本人は、食物繊維の摂取量が慢性的に不足している。

「実は炭水化物は、食物繊維がとても豊富。炭水化物をしっかりとることで、不足しがちな食物繊維を容易に補えます」

 さらにもうひとつ「炭水化物には腸活に役立つ注目成分が含まれている」と笠岡先生。

「炭水化物を加熱調理後に冷ますと、でんぷんの性質が変わって消化されにくくなり、『レジスタントスターチ(難消化性でんぷん)』と呼ばれる成分に変化します」

 聞き慣れない名だが、実はこれが『ハイパー食物繊維』ともいえるすごい腸活成分。

「食物繊維は、水に溶けない不溶性食物繊維と水に溶ける水溶性食物繊維の、役割の違う2種類があります。レジスタントスターチは、この2つの食物繊維の両方の役割を果たしてくれる成分なのです」

 腸内環境を整えるためには両方の食物繊維の摂取が不可欠。しかし多く含まれる食材がそれぞれ異なるためバランスよく摂取するのはけっこう大変。でも、冷めた炭水化物を食べれば、このレジスタントスターチが不溶性と水溶性の両方の食物繊維の働きをカバーしてくれるという。

カロリーがでんぷんの約半分!

 レジスタントスターチによる腸活パワーはそれだけではない。

「腸活で大切なのが、大腸のいちばん肛門側に位置する直腸まで働きかけること。ところが食物繊維は直腸にたどり着く前に、細菌に食べられるなどして早々になくなったり、そのまま排出される。でもレジスタントスターチは違います。大腸で少しずつ善玉菌のエサとなりながら、有害物質を回収しつつ直腸までたどり着き、善玉菌や短鎖脂肪酸をしっかり直腸へ運び込んでくれます

 直腸は大腸の中でも老廃物や毒素がたまりやすい部位。レジスタントスターチで直腸の環境を良好にできれば、大腸がんや潰瘍(かいよう)性大腸炎などの予防にもなる。

 レジスタントスターチはダイエットにも大きなメリットが。レジスタントスターチを多く含む炭水化物を食べると、大腸内で作り出された短鎖脂肪酸が時間差でエネルギーになるため、満腹感が持続。そのうえ、普通のでんぷんは1グラム4キロカロリーなのに対して、レジスタントスターチは2キロカロリーと、およそ半分! 空腹感を感じることなく、総カロリー量を減らすことができる。

 では、レジスタントスターチを摂取するにはどんな食材を選べばいいのだろうか。

「特に豊富なのは、小豆やひよこ豆、インゲン豆などの豆類。でんぷんの量が少ない大豆は、レジスタントスターチ含有量が少なめです」

 しかし、毎日の食卓に並べるのはけっこう大変。そこでおすすめなのが炭水化物が豊富な主食を「冷まして食べる」方法。

 次のページでは、笠岡先生直伝の効率的なレジスタントスターチ摂取方法をご紹介!

【ダルビッシュ選手が唯一食べる炭水化物は「冷凍焼きおにぎり」】

 メジャーリーガーのダルビッシュ有選手が、自身のユーチューブチャンネルで「炭水化物は冷凍の焼きおにぎりしか食べられない」と発言。通常の精白米やうどんを食べると腕から首にかけて違和感が出るが、冷凍の焼きおにぎりだと、その不調はあらわれないのだそう。炊きたてより冷凍ごはんを再加熱したほうがレジスタントスターチが多く理にかなっている。一流アスリートであるダルビッシュ選手は、炭水化物を冷まして食べることによる身体への健康効果を敏感に感じ取ったのだろう。

ごはんは常温で1時間冷ます

 先に述べたとおり、レジスタントスターチは加熱した炭水化物を冷ますことで増える成分なのだが、冷ます方法によっても、その含有量に違いが出る。

「例えば白米の場合、炊きたてごはんのレジスタントスターチ含有量が100とすると、常温で1時間冷ますと157まで含有量がアップ。冷蔵だと6時間冷ましても140程度、冷凍の場合は124程度しか上がりません」

 つまり、ごはんのレジスタントスターチ含有量を最も効率的に上げるには、常温で1時間ほど冷ますのがベスト。また、1度冷めたごはんを電子レンジで再加熱すると、その含有量は減少するが炊きたてごはんよりは含有量が多い。

 うどんやパスタなどの麺類も、冷製メニューを選んだほうがレジスタントスターチをたっぷりとれる。

「特にパスタの場合、乾麺をアルデンテにゆでるとたくさんのレジスタントスターチが摂取できます。うどんや中華麺も、ゆですぎるとその含有量が減りますから、かためにゆでてから冷水でしめて、つけ麺やざるうどんなどにするのがおすすめです」

 パンにもレジスタントスターチは豊富。ただし、腸内環境のことを考えると主食はごはんに軍配が上がる。パン食なら全粒粉のパンを焼かずに食べるのがおすすめだそう。

 レジスタントスターチには腸活効果だけでなく、ミネラルの吸収を高めて骨粗鬆症を防いだり、血糖値の上昇を抑えて糖尿病を防ぐなどの健康効果も認められているそう。毎日のごはんをちょっと冷まして、健康長寿を目指そう!

■炭水化物の食べ方Q&A

Q. 1日にどれくらい摂取すればよい?
A. まずは1日1食から!

 冷ましたごはん1人前には約1gのレジスタントスターチが含まれる。日本人の食物繊維不足量は、女性で1日4g、男性で7g。それを補うだけ摂取できれば理想的だけれど、いきなりだと大変。まずは1日1食から始め、健康を実感できたら少しずつ量を増やしてみては。

Q. 主食以外で手軽なレジスタントスターチメニューは?
A. ポテトサラダがおすすめ

 ジャガイモはもともとレジスタントスターチを豊富に含む食材なうえに、冷まして食べると含有量が格段にアップ。小鉢に軽く1杯くらいのポテトサラダで、ごはん茶碗1杯分と同量のレジスタントスターチがとれる。

Q. 常温で冷ますのは衛生的に大丈夫?
A. 1時間の放置なら問題なし

 季節を問わず、1時間程度の放冷であれば食中毒などの心配はないと考えて大丈夫。ただし、気温にもよりますが常温で長時間保存するのは危険。ごはん以外のおかずなどは、傷みやすいものも多いので注意してください。

【健康長寿県の県民はレジスタントスターチをたっぷりとっている!?】

 厚生労働省の調査による「健康長寿県」第1位の山梨県は、寿司店店舗数が全国第1位、そば・うどん店店舗数が全国第4位であるというデータがある。また第2位の静岡県の場合は、米の消費量が全国1位で、ジャガイモ消費量が全国3位。「これらのデータを見ると、健康長寿県ではレジスタントスターチをたっぷり含んだ炭水化物を他県より摂取している可能性が高いことが予測できます」(笠岡先生)

(構成・文/中村明子)


《PROFILE》
笠岡誠一先生 ◎文教大学健康栄養学部教授、管理栄養士。専門分野は栄養学、食品化学。レジスタントスターチに早くから注目し、レジスタントスターチを増やした「ハイレジ食」の開発も行う。
 

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