槇原敬之

 平日昼のバラエティー『ヒルナンデス!』(日本テレビ系)のテーマ曲が変わった。9年前のスタート時から槇原敬之の『LUNCH TIME WARS』が使われてきたが、今年2月、彼が不祥事(覚せい剤取締法違反による2度目の逮捕)を起こしたことから、流れなくなってしまう。その後、7か月半の空白期間をおいて、くしくもデビュー30周年を迎える10月から、公募で選ばれた別の曲が使われるようになった。

マッキーが残した“迷言”

 槇原によるテーマ曲としては『じゅん散歩』(テレビ朝日系)の『一歩一会』もお役御免となり、彼自身、活動休止中だ。

 しかし、彼は1度、奇跡を起こした男である。1999年の最初の逮捕のあと、SMAPに提供した『世界に一つだけの花』が平成最大の国民的ヒット曲になったことで、以前にも勝る名声を得た。彼の作品はますます大衆に親しまれるようになっていたのだ。タイアップを依頼する側も、再犯のリスクはあまり想定していなかったのだろう。

 とはいえ、予兆はあった。最初の逮捕のあと、インタビューで、「過ちを繰り返す」可能性について聞かれたとき、彼は、いきなりこう切り返した。

万引きって、可愛い万引きなら、実は誰でも経験あったりするじゃないですか。人間て、見てないと思ったら、やるんだと思うんですよ」(2002年『うたう槇原敬之』小貫信昭)

 そして、自身の「可愛い万引き」経験について告白したあと、

「でも、僕はもうやんないです。万引きするかしないかは、その本人のモラルだったりする」

 と、語ったのである。

 クスリについて聞かれたのに、万引きの話になぞらえたうえで、それをやめられたのだから、クスリについても大丈夫、という論理だろうか。ただ、万引きもまた、まぎれもない犯罪だ。そこに“可愛い”という形容詞をつける感覚には正直、違和感を覚えたし、犯罪について軽く考えているのではという気がしたものだ。

 また当時、別のインタビューでの「子どものころの自分に言ってあげたいこと」という質問には「早いうちに悪いことはすませとけヨ」と答えていた。30歳での初犯も「早いうち」ではなかったわけだが、さらに50歳での再犯となるとさすがにきつい。

 そのうえ、初犯のあと、槇原がレコード会社などへのお詫び行脚をした際には「いや~運が悪かったよって軽い感じ」だったとする関係者証言も報じられている。やはり、犯罪について軽く考えていたのだろうか。

 もっとも、軽く考えるだけで、実行しなければ犯罪ではない。そもそも、彼は29年前『どんなときも。』のなかで、正直に見られたい、好きなものは好きと言いたいと歌って世に出た男だ。考えたことは口にしたいし、歌にもしたいのである。

 問題は、フィクションと現実との境界が曖昧になりやすいという、アーティストが陥りがちな落とし穴だろう。

 例えば、彼にはストーカーや監禁をテーマにした『SPY』『Hungry Spider』といった曲もある。ともにドラマのタイアップつきでヒットした。フィクションなら何らかまわないわけだ。

 それこそ、「可愛い万引き」というパワーワードも、曲のタイトルやテーマならありなのではないか。善人的な白マッキーより、ちょっとダーティーな黒マッキーのほうが好きな筆者としては、むしろ聴いてみたい気もする。ただし、もうタイアップはつかないかもしれないが……。

PROFILE●宝泉 薫(ほうせん・かおる)●作家・芸能評論家。テレビ、映画、ダイエットなどをテーマに執筆。近著に『平成の死』(ベストセラーズ)、『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、『あのアイドルがなぜヌードに』(文藝春秋)などがある。