「ヤバい女になりたくない」そうおっしゃるあなた。有名人の言動を鋭く分析するライターの仁科友里さんによれば、すべてのオンナはヤバいもの。問題は「よいヤバさ」か「悪いヤバさ」か。この連載では、仁科さんがさまざまなタイプの「ヤバい女=ヤバ女(ヤバジョ)」を分析していきます。
夫の不倫が報じられる以前の8月、『ミント!』に初出演した際の投稿(優佳さんのインスタグラムより)

第47回 馬淵優佳

『週刊新潮』が競泳男子・東京五輪代表の瀬戸大也選手の不倫を報じたとき、妻である馬淵優佳さんが気の毒だなぁと思ったのは、私だけではないはずです。

 若く、幼子を抱えている女性が、夫の不倫を知らされる。それだけでも十分すぎるほどショックですが、不倫のせいで、瀬戸選手はスポンサーであるANAから契約解除、味の素の広告契約も打ち切られてしまいました。瀬戸家の経済的損失は計り知れないでしょう。

「トップアスリートかつイクメン夫に愛される妻」として活動していた優佳さんですが、2020年9月25日配信の『文春オンライン』によると、瀬戸選手は昨年の秋から「オリンピックに集中したい」ということで、マンションでひとり暮らしをしていたとのこと。瀬戸夫妻と言えば、味の素のCM「勝ち飯」が思い浮かびますが、別に住んでいたということは、食事もともにしていなかったのかもしれません。しかし、優佳さんはそんなことはおくびにも出さず、「#勝ち飯」のハッシュタグをつけて、食事をインスタグラムにアップしていました。

「なんだ、勝ち飯なんてウソじゃないか」と思う人もいるでしょう。確かに真実でないという意味では、ウソでしょう。しかし、SNSは本当のことしかアップしてはいけないという規則はないはずですし、勝ち飯をアピールするのが“お仕事”だと考えるのなら、優佳さんの行動は正しいはずです。ただ、“愛され妻”の地位からは、すべり落ちてしまったと思います。

あまりにも「できた妻」のコメント

 世帯収入は減り、女性としてのプライドは傷つけられ、自分の仕事にも差し障りがあり、子どものころから打ち込んでいた飛込も結婚を機にやめてしまった。まさに踏んだり蹴ったりですが、その優佳さんが10月19日配信の『FRaU』のインタビューに応じたと聞いて、驚きました。不倫をした当事者の瀬戸選手が沈黙を守っているのに、なぜ一番の痛手をこうむっているであろう優佳さんが話さなくてはいけないのかと思ったのです。

 インタビューでは、優佳さんは夫をなじることなく、《彼にはプレッシャーもあった》《当時私は2人目の子を妊娠中。自分と子どものことでいっぱいいっぱいで、夫の心の内を聞いてあげられる余裕がなかった》と反省しています。あまりにもできたコメントで、私は逆にヤバさを感じましたが、一般的にこういう女性は「控えめな妻」「できた妻」として高く評価されることが多いものです。

 しかし、それから3日後の10月22日、スマートバンドのアンバサダーに優佳さんが就任したと発表されたとき、ネットでは「本当は出たがりだったんだ」「不倫をきっかけに自分を売り込もうとしている」と否定的な意見も出てきたのでした。

 商品をアピールするアンバサダーという立場の人にスキャンダルはご法度でしょう。ですから、その前に「いろいろあったけど、頑張ります」と前向きな発言をするのは、“当たり前”のことではないでしょうか。ANAと味の素という大手企業とのスポンサー契約を失った今、お子さんもいるわけですから、優佳さんが仕事をするのも当然だと私は思います。

励ましコメントへのお礼とともにアンバサダー就任を報告(馬淵優佳さんのインスタグラムより)

 実際、優佳さんは仕事に関して、強い責任感を持っているようです。10月27日、情報番組の『ミント!』(MBSテレビ)に出演した優佳さんは「今回の出演は2か月くらい前から決まっていたので、プライベートなことでお仕事をやめることは、私の中にはまったくありませんでした」と発言しています。夫の裏切りを週刊誌に暴かれ、ネットで叩かれたら、倒れてしまってもおかしくないのに、優佳さんは騒動前と変わらぬ美しさでテレビカメラの前に現れたのでした。

優佳さんは“プロ妻”

 さて、優佳さんははたして「可哀想な控えめ妻」なのか、それとも「前に出ようとしているヤバい妻」なのか。私にはそのどちらでもなく、プロフェッショナルな妻のように見えるのです。

 不倫に関しては気味が悪いくらいに理解力がありながら、仕事に関しては、頑としてプロフェッショナルを貫き、相変わらず美しい。そんな優佳さんは妻のプロフェッショナル、略して“プロ妻”ではないでしょうか。ここで言う“プロ妻”とは、自分の希望よりも、世間やスポンサーなどが求めるあるべき姿を見せ、そんな自分の姿を称賛されることに喜びを感じる女性を指します。

 見せることに長けたプロ妻に必要不可欠なもの、それは“バエ(映え)る夫”だと思います。プロ妻の仕事は「外にアピールすること」ですから、まじめで家事育児を熱心にしてくれるような、外部の人に証明しにくい幸せや喜びを与えてくれる男性は、プロ妻の夫としては不向きです。日本人なら誰でも知っている有名大学や会社、もしくはイケメンなど、水戸黄門の印籠のような、世間サマが「ははぁ」とひれ伏すものを持っている人が望ましい。なぜなら、日本では「夫の出来は、妻の献身のおかげ」という考え方がいまだに根強いので、「こんなすごい夫を陰で支えた妻は、さぞできた人に違いない、すばらしい人だろう」と見上げられるからです。

 プロ妻も相手の期待に応えるのが好きな人たちですから、謙虚に振る舞い、ますます自身の株を上げるでしょう。プロ妻が夫とうまくいっているかどうかは、はっきり言うと、どうでもいいのです。だって、家庭内のことなんて、誰にもわかりっこないのですから。

「金メダルに最も近いオトコ」と言われていた瀬戸選手はもちろん“バエ夫”と言っていいでしょう。新型コロナウイルスの影響でオリンピックは延期になってしまいましたが、神さまはプロ妻である優佳さんに「不倫されて注目される悲劇の妻」という最大の見せ場を用意した。そして、優佳さんはプロ妻として、スポンサーや世間サマ、それぞれの期待に応えた振る舞いをしているのではないでしょうか。

不倫報道前に投稿された瀬戸夫婦の幸せそうなショット(瀬戸大也選手のインスタグラムより)

離婚するかは夫の成績次第では

 さて、それではプロ妻はヤバいのか、ヤバくないのか。それは夫の成績次第です。もし瀬戸選手が金メダルを取れば「夫を見捨てなかった賢妻」「不倫を乗り越えた夫婦愛」と言われて、優佳さんの好感度は再び爆上がり、瀬戸選手も「いろいろあったけど、頑張った」と言ってもらえるはずです。反対にメダルが取れなければ、瀬戸選手は「不倫なんかしてるからだ」と言われるでしょうし、優佳さんも世間の予想どおり、離婚するのではないでしょうか。

 先述のインタビューで、《離婚をするのは、事の顛末を見極めてからでも遅くはないと思うようになった》と話していた優佳さん。「事の顛末」が具体的に何を指すのかはわかりませんが、瀬戸選手はもし妻子と別れたくないのなら、金メダルを取る以外、道はないのかもしれません。


<プロフィール>
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に応えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」