小泉進次郎環境相

 虎の威を借る狐――力のない者は力のある者に憧れ、ときに小人(しょうじん)はそれを利用する。

 現在、ネットでは“Google出身”を全面に出し、Googleという“虎”を使って経歴を詐称し、経営サロンで多額の金を稼いでいる経営者が話題だが、それは中国の故事どおり政治の世界でも……。

 新潟県のほぼ中央部に位置する新潟県三条市。人口約10万人の工業都市で、古くから金物産業が盛ん。現在のキャンプブームを牽引すると言っていい、アウトドアメーカー『スノーピーク』や、日本にアウトドアを根付かせた老舗メーカー『キャプテンスタッグ』が本社を構えている。

 そんな三条市の市長選挙が11月1日に告示され、8日に投開票を迎える。候補者の1人に名を連ねるのが名古屋豊氏だ。1973年生まれの47歳で、市長選までは市議会議員を3期務めた(今回の市長選出馬のため辞任)。大学卒業後、教育関係の仕事に就いた後、国会議員秘書を8年務め、市議選に出馬したという。

「前職の国定勇人前市長が次期衆議院選に出馬するため辞職。今回の三条市長選は、それに伴った選挙です。名古屋さんは国定路線を継承する本命とされており、彼の街頭演説の際には、応援で国定前市長が隣にいたこともありました」(県内の地方紙政治部記者)

 次の市長候補として有権者からの信頼を集めているようだが、過去にはちょっと“怪しい”選挙活動をしていたことも。

「名古屋さんが以前、三条市の市議会議員選に出馬した際、小泉進次郎さんと対談している姿を自身の“チラシ”に使っていたんです。こんなど田舎のいち地方議員が、国会議員のスターと対談なんてできるなんてすごいなって。でも、自民党の公認でも推薦でもない人なのに、おかしいなと思いました」(三条市在住の男性)

不自然な切り抜き写真が使われて

 市議選の際、名古屋氏が配布したチラシの表ページは以下の文面と2人の全身写真が入る。全身写真は不自然な切り抜きで、ツーショットでもなく、どういった写真なのか小泉氏は手を振っている。

《三条市議会議員 名古屋豊×衆議院議員 小泉進次郎》
《特別対談》
《今、僕たちがやるべきこと》

 裏面には2人が向き合い、話しているような構図。しかし、こちらも向き合っているが切り抜き写真だ。裏面は小泉・名古屋両氏が交互に話しているような文章が載る。

《小泉氏 今関心を持たない人々の生活にもいずれは反映していくのが政治の魅力であり怖さです。》

《名古屋氏 一人の市民に大きな負担をかけるのではなく、市民全体で小さな義務を負うことが必要です。》

 以上が大きく見出しとして入り、本文としてやや小さい文字が入る。2人は高齢者問題について話しているが、見出しからもわかるように、なんだか話が噛み合っていない。また、三条市の名古屋氏と話すのであれば、普通なら “三条市”の話題が出るであろうが、小泉氏はいっさい触れていない。さらに、対談した日時についてもどこにも書いていない。

 事情を知る三条市議会の関係者は、

このチラシの“対談”は、実際にはまったく対談ではありません。確かに名古屋さんは、小泉さんと面会しています。それは当時、衆議院議員だった新潟県出身の金子恵美さんの紹介で実現しました。金子さんの口添えで名古屋さんが『国会議員会議』に特別に参加させてもらい、そのときに小泉さんと少し意見交換、お話をした程度。そのときに撮った写真を“特別対談”としてチラシを作成。2014年4月に行われた三条市議会議員選挙のときに名古屋さん陣営が配布したんです。

 こんな小さい市に小泉さんと繋がりのある人なんていませんから、小泉さんの人気を利用したというところでしょう。あの小泉進次郎が応援していると“見える”ように。またチラシの写真は切り抜きばかりで、当時同じ場所にいて、小泉さんを紹介してくれた金子さんがいっさい出てきていません。小泉さんだけでなく、紹介者である金子さんに対しても非常に不義理と言わざるを得ないですね」

 もし、これが小泉側の許可なく使用していたのであれば、パブリシティ権の侵害となる可能性もある。ここ最近は、“ポエム答弁”“発言の中身がない”という声も多く、7月1日から始まったレジ袋の有料化で批判を食らうなど、評判はダダ下がりの小泉環境相。現在の彼が“虎”となるかわからないが、当時は“次期総理”の呼び声も高く、紛れもない虎であっただろう。

金子氏「掲載をやめるよう伝えた」

 どのような経緯で2人は面会することになったのか。紹介者である金子に話を聞くと、

金子恵美氏

「地元の議員や支援者からの要望があれば、議員会館で他の国会議員の方と面談する場を、 小泉さんに限らず設けておりました。当時、名古屋さんも同じ自民党の議員で面会の要望があったため、こうした場を設けさせていただいたという経緯です」

 あのチラシの存在については把握していたのか。

「当時、周辺で話題になっていたため、チラシの存在については把握しておりました。掲載をやめるよう当時の衆議院事務局経由でお伝えしたと記憶しております。写真が撮影されたときは一緒におりました」(金子)

 当の本人である名古屋氏に問い合わせると、メールで返答があった。

名古屋氏から“言い訳”メールが

【2013年、金子氏からのお声がけで自民党青年局の会合に参加したところ、当時の青年局長は小泉進次郎代議士に特別に時間を取っていただけることになり、私は小泉代議士と話をさせていただき、写真も撮りました。

 2014年、私の2期目の選挙がありました。問い合わせの際に「選挙用チラシ」という言葉がありましたが、私は年に数回、市民の皆様への市政報告のためにリーフレットを作成・配布しており第15号は日常の政治活動となります(現在第38号まで発刊)。
 
 第15号に小泉代議士との対談の様子の掲載許可をお願いしました。その後、この件についての金子氏からの連絡を「小泉代議士サイドから掲載許可を得た」と捉えて作成・配布を進めていたところ、「正式な許可は出していない」ことが判明し、即時配布を取りやめた次第です。
 
 作成・配布を判断したのは私であり、小泉代議士に大変なご迷惑をおかけする結果となりました。当時、小泉事務所及び自民党本部に経緯説明と謝罪にお伺いし、双方より厳重なる注意を賜りました】

 小泉氏にもことの経緯について問い合わせたが、期日までに返答はなかった。

 名古屋氏はチラシの配布について即時配布を取りやめたと話すが、こちらの手元にあるように、相当数が配布されたことが予想され、「選挙に出るあの人、進次郎と仲がいいんだ」と思った三条市の有権者も少なくないだろう。今回の三条市長選において名古屋氏は“八の策、六十四の手”の提言があるとし、そのうちの大きな1つに「危機管理室の設置」を上げている。彼の“危機管理”は当時から変化はあるのだろうか。

  もし今も虎の威を借りているのであれば、いつまでも虎になれず、狐は狐のままだろう。