事件現場となったTの自宅。最近は両親と3きょうだいの5人暮らしだった

「長男坊のTくんは頭がよくて、おとなしくて、優しい子。幼いころから仲のいいきょうだいだったのに……」

 そう近所の住民が首をかしげたのは、その長男が住む家で起きた悲劇だった。

妹が死んだふりをすると、部屋を出ていった

 10月23日の朝6時50分ごろ、東京・東村山市の閑静な住宅街にあるTの自宅から、

「兄に刺された。兄はもういない」と妹の切迫した119番通報が──。

 救急車と東村山署が駆けつけると、妹は背中と左脇腹、弟は全身10数か所を包丁で刺され血まみれで倒れていたが、命に別状はなかった。

 刺した兄のTは両親が仕事に出かけたあとを狙い、2人の就寝中を襲ったようだ。

 まず、「ごめんね、ごめんね」とつぶやきながら弟を刺したあと、妹の部屋へ移動して再び刺した。だが、妹が死んだふりをすると、部屋を出ていったという。

 その後、Tは自宅からおよそ2キロ離れた都営住宅の12階から飛び降り自殺を図ったとみられ、搬送先の病院で死亡が確認された。

 遺書もなく、妹弟を殺そうとして、みずから命を絶つとは、家族でいったい何があったのか──。

 約45年前から現在の場所に居を構えたTの一家は、父は大手自動車メーカーで働き、母は幼稚園か保育園の先生をしているという。

 長男のTについて、近所の主婦はこう証言する。

小学校のころから、バスと電車を乗り継いで、国立市方面の私立小に通っていました。現在は入院しているおばあちゃんが、バス停まで送っている姿をよく見かけましたね」

 中学・高校は難関私大の系列校に入り、陸上部に所属していたようだ。

 現在、妹は会社員で、弟は有名私立高校の3年生。

「あのお宅は祖父母のときから頭のいい人ばかりでね。亡くなった祖父は製薬会社勤務だったし、祖母も定年まで科学関連会社で働いていた。父親の妹は薬剤師のようで、堅実なご家庭だと思っていました」(近所の主婦)

Tは大学院を中退し無職だった

 家の所有者となっている入院中の祖母は、10年ほど前から、気功や太極拳をしていた時期があったそう。

「もともと身体は強くなかったのですが、さらに精神も患っていたようです。

 その後、健康のために犬を飼って朝、昼、夜と3回の散歩をしていました」(前出・近所の主婦)

 祖母の入院後、Tは一生懸命に尽くしていたと周囲には映っていた。

Tが飛び降りた都営住宅。落下地点には、血のりらしきものが残っていた

 別の近所の主婦は、

「毎朝7時30分ごろ、祖母の犬を連れて散歩させているの。それで、ご近所と挨拶をするだけではなくて、きちんと世間話もできる、最近の若い人には珍しい、いい子でね。

 “いま僕は大学院に行っていますが、最近はリモート(授業)で大変。高3の弟はこれから大学受験で、妹はこの時期に就職だからボクより大変で、かわいそう”と妹や弟を気遣っていましたよ」

 この会話の後に大学院を去ったのかもしれないが、Tは大学院中退で事件時の職業は無職。

 コロナ禍の中、きょうだいを気遣っていたからこそ、不憫に思って事件に巻き込んだのだろうか。

 近所の人への話が、本音だったのか格好をつけたのかは不明だが、残された父母や入院中の祖母は今、どん底の状態のはずだ。