茶色の汚れは体液、周囲にはゴミが散らばっている(小島美羽さん作)撮影/齋藤周造

 2年前に取材し、反響を呼んだ遺品整理クリーンサービス所属・小島美羽さんによる「孤独死」「ゴミ屋敷」をテーマにしたミニチュア作品。『週刊女性PRIME』では改めて小島さんを取材し、そこに込められた思いを、これから作品ごとに分けて伝えていきたい。今回、紹介するのは初期の頃の作品で、テーマは「50-60代男性の孤独死の現場」という。

現物は見せられない
でも、ミニチュアなら

「孤独死の現場は、死臭というか、やっぱりニオイはすごいです。嗅いだことのない……例えようのない強烈なニオイ。脂肪とか水分量の違いからか、若い人のほうがニオイはきつい気がします」

 孤独死の壮絶な現場の状況を話すのは、遺品整理クリーンサービスで働く小島美羽さん(28)。小柄でかわいらしい印象の女性だが、そんな彼女の職業は、孤独死や自殺の現場、ゴミ屋敷に足を運び、片付け、消毒、原状回復を行う特殊清掃員だ。

「この仕事をしている女性スタッフは少ないと思います。体力勝負なところもあるので。私の会社では、女性は私一人だけです」

 ほぼ毎日、現場に出向くという小島さん。数年前から、仕事の合間を縫っては事務所の空いたスペースでミニチュアを作り続けている。

実は小島さん、ミニチュア製作は全て独学というから驚きだ 撮影/齋藤周造

 今や、国内のみならず、海外メディアからの取材オファーも。多くの人に知られるようになったのは、2016年の『エンディング産業展』で会社のブースに展示したミニチュアがSNSで話題となったのがきっかけだった。

「実際の写真は見せられない、けどこうやってミニチュアにすることで、多くの人にこの現実を見て、知ってもらえると思ったんです」

 そう言いながら、見せてくれた作品は、古い一軒家のもの。上からのぞいてみると、そこには思わず目を背けたくなるような光景が。隅から隅までリアル。見ているだけで、その場所にいるような感覚に陥ってくる。

散らかった部屋の横に
「整えられた新聞紙」

「布団周りの茶色いものは、体液ですね。その体液の中に剥がれ落ちた皮膚が混ざっていることもあります。死後、数か月が経つと、身体が溶けたような状態になって、皮膚も髪も爪も耳もズルッと落ちちゃうんです。警察は骨しか持っていきません

汚れた部屋の一方で、手前にはきちんと整理された新聞が(小島美羽さん作)撮影/齋藤周造

 畳の上にはベッタリと汚れのついた布団、そしてパジャマが置かれ、周りには弁当や酒のカップ、新聞などが散乱している。この作品は「50-60代男性の孤独死の現場」をイメージして作られた。

 小島さんが複数の現場で実際に見てきたものやエピソードが、1つの作品に凝縮されているという。

布団が中心の生活をしている人が多いので、手の届く範囲に物やゴミが散らかっているんです。孤独死ってアパートとかのイメージが強いかもしれませんが、このミニチュアのように実家暮らしで立派な家に住んでる場合も。ただ、親が他界していたりすると、ごはんも作らない人が多いので。それがわかるようにコンビニ弁当のゴミを散乱させました」

 弁当の中身は緑色。カビだろうか、発見されるまでの時間を物語る。

「発見されるまでの間にお弁当も腐るので。この作品にもある、競馬のハズレ券や新聞、アダルト本なんかも現場でよく見かけます」

 だが、その一方で廊下にはきちんと紐で結ばれた新聞も。

「最初は部屋をきれいにしていたけど、何かをきっかけに引きこもりがちになってしまった人って少なくないんです。ご家族の話を聞いていると、もともと真面目な方が多い印象があります。ただ、周りにSOSが出せない。生活が荒れていく様子を表現するのに、汚い部屋がある一方で、一部はあえて整理されている箇所を作りました

 近所とのコミュニケーションがないことから、悲しいことに、第一発見者や通報者は、近隣の人というよりは、たまたま通りかかった新聞配達員など“他人”が多いという。

「みんな見て見ぬふりなんですよね。なんか違和感を持ちつつも、関わりたくない気持ちがあるんだと思います」

 小島さん自身は、初めて現場に足を踏み入れたとき、“怖い”という感覚はなかったのだろうか。

第一に、一刻も早く片付けてあげたいって思いました。そういう気持ちが先走っていたので、怖いという感覚はなかったですね。あらかじめ本や写真も見ていたし、きついと言われるニオイも覚悟していたので。ただ虫が多いなって……。それらは写真だと伝わってこないので」

床にキレイに並べられたお金

 部屋の片付けは、依頼者の家族(家族でない場合も)と一緒に行うこともあるというが、ほとんどの人は部屋に入ってくることはないという。

「一応、確認するんです。お部屋に入りますか? って。でも多くの人が入ろうとはしません。大切な人が亡くなってその部屋に入るのがつらいって方もいれば、やっぱりニオイや“見ることができない”って方ももちろんいらっしゃいます」

 だが、一緒に部屋に入らなくとも、小島さんは「話を聞くのも、私の務め」と、依頼者たちの思い出話や、ここで亡くなった人についての話にも耳を傾けるという。そうして聞いたエピソードが作品に反映されることも。

小島美羽さん 撮影/齋藤周造

 22歳からこの仕事を始め、たくさんの現場を経験してきた小島さん。仕事を始めて間もないころに見た、“忘れられない光景”があると言う。

「床にお金がきれいに並べてあったんです。当時、私は何も知らなかったので、これがどういう意味なのか社長に聞いたところ、ここに住んでいた人の“今日も生きた証だ”と。自分が1日生きたことを、1日ごとにお金を並べていくことで、確かめていたんでしょう。不思議ですが、たまにほかの現場でも見かける光景です」

 数か月間、誰にも発見されずに時間だけが過ぎていたことを思うと、胸が痛む。ここの住人は、どういう思いを抱えながら、最期を迎えたのだろう。

「孤独死とかゴミ屋敷って、他人事に捉えている方が多い。どうしたら自分のこととして考えてもらえるかなって思ったときに、思いついたのがミニチュアでした。この作品では、孤独死は誰にでも起こりうることで、他人事ではないですよっていうことを伝えたかったんです

 作品ひとつひとつに、それぞれのメッセージが込められているのも特徴だ。

「例えば、周りに人がいても、ゴミ捨てのときに誰とも挨拶をしなかったりすると、周りの人も “なんだあの人”っていう感じで次第に距離が生まれてくる。だから、しばらく姿を見かけなくなっても気にならないし、明らかな違和感があっても、関わろうともしない。

 周りと喋りたくない人もいると思いますが、普段からちょっと挨拶するだけでも、避けられることもある。孤独死も避けられるかもしれない。だから日ごろから、少しでもコミュニケーションを取りましょうって、そんな思いも込めました

 ミニチュアで小島さんが伝えたいこと、そして受け取る側は何を思うかーー。今後も、小島さんの作品を通して、その目に見えぬ“何か”を伝えていきたい。

ミニチュアの中には、自身の思い出の品も

「私は高校生のころに父親を亡くしています。当時、別々に住んでいて、たまたま家を訪ねたときに、父親が倒れていたんです。その後、病院で亡くなってしまったのですが、今思えば父親も孤独死寸前だったなと。そんなこともあり、孤独死は他人事じゃないと思っています。ちなみにミニチュアの中にカップ酒が出てきますが、実は父親が飲んでいたもの。自分の思い出を重ねて、作品に取り入れてみたりもしています