映画『タイタニック』でレオ様の吹き替えをした妻夫木聡

 11月公開のアニメ映画『STAND BY MEドラえもん2』で“大人のび太”役を演じる妻夫木聡(39)。今や演技派で知られる彼にも、過去には声優でイタ~イ経験が……。本人たちはきっと忘れてほしい「芸能人」声優の“しくじり”をどうぞ。

芸能人の声優にガッカリ!?

「芸能人が声優をしていると、話題作りになってメディアに取り上げられやすくPRしやすいんです。今月公開されるアニメ映画『STAND BY MEドラえもん2』がまさにそう」(映画関係者)

 バカリズムや羽鳥慎一などが声優として参加する中、前作に引き続き主人公の“大人のび太”を演じるのは妻夫木聡。そんな彼にも、声優で苦い経験があった。

映画『タイタニック』でレオナルド・ディカプリオ演じる主人公の吹き替えを担当したんです。ヒロインは竹内結子さんと豪華コンビだったのですが、これがキツかった

 そう話すのは、映画やドラマに詳しい昭和生まれのライター・成田全さん。言わずと知れた超名作は'01年、フジテレビで地上波初放送された。

「ゴールデン洋画劇場の特別企画として前後編の2週連続放送、とフジテレビも気合が入っていたようです。当時、人気がうなぎのぼりだった妻夫木さんを声優に大抜擢したのですが、出来栄えはなかなかどうしてな感じでした(笑)」(成田さん、以下同)

 今や演技派で知られる妻夫木だが、本作では“棒”(棒読みのこと、以下同)に聞こえたという。

妻夫木さんと竹内さん以外は名うての豪華声優で固めたために、逆に主役2人のアラが目立ってしまったんです

 “妻夫木くんだけ浮いていた”“いくらイケメンでもレオ様は無理でしょ”など視聴者からも辛辣な声が上がった。

 彼は翌年、主演を務めた映画『ウォーターボーイズ』がヒットし、俳優の地位を確立。『タイタニック』よろしく、棒演技で沈没せずによかった。「フジテレビは吹き替え声優でチャレンジしがち」と指摘する成田さん。織田裕二も若かりしころ、フジの冒険的吹き替えの餌食になったそうだ。

マーティ役が織田裕二の怪

バック・トゥ・ザ・フューチャー』で、主演マイケル・J・フォックスの吹き替えした織田裕二

織田さんは'90年にフジで放送された『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で、主演マイケル・J・フォックスの吹き替えをやっています

 若手スターだった織田は、そのときまだ20代前半。

棒でしたね。まだちょっと不慣れだったのかな……。主人公の相方・ドクの声を担当した三宅裕司さんはハマっていた感じはしましたけど

『タッチ』で知られる声優界の大御所・三ツ矢雄二が別の局で織田と同じ役の吹き替えをしていたのもアダに。

「比較されてしまうとかわいそうですよね。そういったハンディはあったでしょう」

 テレビフリークの読者からは“初々しい織田さんの声を思い出す。もちろん演技は棒だけど(笑)”“マイケル・J・フォックスはほかの映画も三ツ矢さんだから違和感アリアリ”などの声が上がった。

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』はシリーズ化しているが、織田が吹き替えをしたのはパート1のみ。彼はこの翌年、『東京ラブストーリー』(フジテレビ系)で一躍トップ俳優になった。織田の現在までのキャリアで吹き替え声優はこの1度きりしかないことを考えると、彼にとっての黒歴史なのかもしれない。

 時は遡り、こちらもフジで、

「『Mr.Boo! ミスター・ブー』という香港映画の吹き替えもパンチがきいていた」

 私立探偵3人組の活躍を描くドタバタコメディー。「助手役2人の吹き替えをしたのが、お笑いコンビ『ツービート』でした。'80年代前半の漫才ブームだったので、彼らを起用するのは話題作りに最適だったのでしょう」と。

 日本テレビが大ひんしゅくを買った「芸能人」声優は'83年放送の『スター・ウォーズ』の吹き替えで起きた。

コントから入る『スター・ウォーズ』

主人公のルーク役を渡辺徹、レイア姫役を大場久美子、そしてハン・ソロ役が松崎しげるというチャレンジ人選。大場さんはよかったんですけど、ルークとハンは役と声のイメージが違いましたね

 “『スター・ウォーズ』ファンとしてはありえないキャスティング”“当時の渡辺徹はやせてたから声も太っていなかった”と擁護する声もあったが、やはり批判の声が多かった。日本のテレビ局で初放送されるということで気合が入りすぎてしまい、こんなことまで──。

「映画に登場するロボットC-3POとR2-D2が日テレを訪れ、タモリさん、研ナオコさんらと絡み、映画開始前になんと約20分も無用なコントを繰り広げたんです(笑)」

 もともと日本では“洋画は字幕で見るもの”という習慣が根づいていたが、山口百恵と三浦友和が吹き替えた『ある愛の詩(うた)』('70年)などが話題となった。

 テレビ局は話題作の放映権を獲得するのに、多額の費用がかかるようで、

「視聴率で絶対に失敗できないということから、旬の芸能人に声優をさせて1%でも視聴率を高くしたい、話題になるなら何でもやってやろう、となってしまうのはわからないでもないです」

 そんな思いから、TBSもやらかしてしまう。それは'95年放送の『プリティ・ウーマン』。大富豪があるコールガールと出会って恋に落ちるシンデレラ・ストーリーだが、

主人公のリチャード・ギアの吹き替えを、あの石田純一さんが担当。ヒロインは浅野ゆう子さんでした

イメージ違いすぎ!『プリティ・ウーマン』でリチャード・ギアの吹き替えをした石田純一

 トレンディー俳優として数々のドラマで共演した2人。

「この放送直前で最終回を迎えたTBS系のドラマ『長男の嫁2』でも共演しています。平均視聴率20%超えと大好評でした」

 このヒットにあやかって、映画の吹き替えをキャスティングしたのだろう。

「やっぱり違和感があるんですよね。石田さんは当時から色男キャラでしたが、さすがにリチャード・ギアと比べるとその差は歴然かなと……」

 “吹き替えで急に安っぽくなった”“石田の声の年齢がギアと合わない”“石田純一と浅野ゆう子って完全にトレンディードラマじゃん!”などなど厳しい声が続出。

「アニメ『ルパン三世』の石川五ェ門役などで有名な声優・浪川大輔さんは、吹き替えには『自己主張は邪魔でしかない』と言っています。しかしタレントさんは本人のイメージがどうしてもダブる。それが気になって“下手だな”と感じ、ついアラ探しして……かわいそうではあるのですが、仕事を引き受けたなら頑張ってほしいというのが見る側の意見ですよね」

 石田はこの放送の翌年『不倫は文化だ』騒動を巻き起こす。色男の箔がついていたら、ギアとのギャップも埋まっていたかも!?

関西弁で押し切る吉本芸人

 複数の所属タレントを声優としてごっそり起用するのが吉本興業、と成田さん。

「昨年6月公開の『メン・イン・ブラック:インターナショナル』には吉本坂46のメンバー46人全員が吹き替え声優を務めています。ま、単なる話題作りのひとつなんですが……」

 吉本の“ごっそり起用”が成功したこともある。それが'81年公開のアニメ映画『じゃりン子チエ』。

「主要キャラクターであるテツの声をアニメ版で西川のりおさんが演じていて、映画化されるにあたり、桂三枝(現・桂文枝)さん、笑福亭仁鶴さん、京唄子さん、ザ・ぼんちなど芸人を大量に起用しました」

 原作の舞台が大阪ということもあってか、声優陣はどハマり!

「みなさんナチュラルな関西弁だから、とてもマッチしていました。違和感はまったくなかった」

 だが、関西弁によって作品のイメージを歪めてしまったのが『シュレック』。主人公である怪物の声優は浜田雅功だ。

『シュレック』で主人公である怪物の声優を担当した浜田雅功

アメリカのアニメーション映画をすべて“関西弁”で吹き替えるという力業。本当にハマちゃんのまんまでしたね

 “ハマちゃんでしかない(笑)”“ダウンタウンのコントを見てるようだった”との声があったが、

シリーズ化されてパート4まで製作されましたが、最後まで声優はハマちゃんが担当。ある程度、評価はよかったんだと思います

 浜田同様、素のまんまだったのが小泉純一郎元首相。

'09年公開『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE』に登場するウルトラマンキング役で声優を務めてます。息子の孝太郎さんのすすめで出演を決めたそうです

 劇中での演説シーンでは小泉節炸裂。ウルトラマンのストーリーに集中できない人が続出したとか……。

 成田さんに“演技が未熟だとやっぱり声優もダメなんだ”と実感させたのは、SF映画『TIME/タイム』の主演ジャスティン・ティンバーレイク主演の相手役を吹き替えた、篠田麻里子さん。

ほぼつぶやき状態でした。逆に棒すぎて面白いので、『2時間潰しても構わない!』という寛大な方におすすめします(笑)

 映画『ハンコック』でのMAKIDAIの吹き替えもなかなかの棒だというが、

個人的には'84年公開『フットルース』の主演ケビン・ベーコンを吹き替えた、フジテレビ版の近藤真彦さんがダントツ。若さゆえの棒演技で“一聴”の価値ありですが、ソフト化されていないんです

 今年40周年を迎えたマッチに、ガッカリ「芸能人」声優大賞を贈ろう──。

評判の良かった「芸能人」声優

■唐沢寿明・所ジョージ×『トイ・ストーリー』('95年)ディズニー/ピクサーによるアニメ映画の人気シリーズ。字幕より吹き替えのほうが観客動員数を上回るほど、声優陣の評判が高い。

松たか子・神田沙也加×『アナと雪の女王('13年)松たか子が劇中で歌う『レット・イット・ゴー~ありのままで~』は大ヒット。松の歌唱力の高さが作品のクオリティーを上げた。

中川翔子×『塔の上のラプンツェル('10年)“しょこたん”と言われなければ気づかないほど、彼女の実力はプロの声優並みと話題になった。違和感なく、絵に声が当てられている。

中村倫也×『アラジン('19年)吹き替えだけでなく、主題歌で圧倒的な歌唱力を披露し'19年のNHK紅白歌合戦にも出場。中村の多才さがうかがえる一作となった。

石塚英彦・田中裕二×『モンスターズ・インク('02年)ビジュアルも似ていると評断になったサリー役の石塚と、イメージがぴったりと絶賛されたマイク役の田中という芸人コンビが好演。

木村拓哉×『ハウルの動く城('04年)主人公のハウルは、歴代の宮崎駿アニメの中でも屈指のイケメンキャラ。キムタク以外には演じられない役だと、評価する声が多かった。

有吉弘行×『テッド('13年)下品なギャグを連発するテディベアの主人公は、有吉本人のキャラクターとベストマッチ。“有吉のまんますぎて嫌だ”という意見も。