(左から)賀来賢人、唐沢寿明、二階堂ふみ

 “数字が確実にとれる”と乱発される刑事・警察モノ。だが視聴率が1度もふたケタに乗らず、記憶の中から消えていくドラマも数多い。売れるドラマとそうでないものの違いはどこに? 辛口ドラマウォッチャーが気がついた低視聴率ドラマの“共通項”とは──。

テレ朝の刑事・医療ドラマが鉄板

 ドラマの刑事モノは、医療モノと並んで“鉄板”というイメージがある。しかし、テレビ評論家としてさまざまなドラマを見てきた吉田潮さんは、

それは、テレビ朝日系の刑事ドラマと医療ドラマが鉄板なだけで、他局となるとそうでもない

 と語る。確かに『相棒』『科捜研の女』『ドクターX』といったシリーズ化されて高い視聴率を続けているのはテレビ朝日系のドラマが多い。その理由について吉田さんはこう続ける。

「実際、大した内容ではないけれど(笑)、こういったドラマには固定客がついているんです。たとえるなら、毎月毎月、効くかどうかわからないサプリを買い続けている通販の顧客層と同じで、ドラマにもずっと見続けているファンがいるわけです。そこが“鉄板”なんですよ」(吉田さん、以下同)

 ドラマ人気が高かったころからドラマを見続けている、高年齢層のファンを抱えている作品を意識して他局が同じように手を出しても“先人”を追い抜くことは難しいという。

「見ている人は流動的ではなく、固定しているということ。毎週同じ層が見続けている。新規の視聴者が加わることは少ないわけです」

 ドラマの内容というより、それまで培ってきたブランド力が強い、ということか。そんな中でも乱発されてきた刑事ドラマを見続けてきて、吉田さんなりに視聴率で“爆死”するドラマの原因が見えてきたという。

視聴者が振り向くには?

ひとつは“放送枠の問題”です。どうしてもドラマで数字がとれない時間帯というのがあるんです。例えば、今はなくなってしまいましたけど、TBSが『月曜ミステリーシアター』というドラマ枠を月曜20時台に作っていました。

 宮部みゆき原作の『名もなき毒』や、薬丸岳原作の『刑事のまなざし』といった面白いドラマをやっていまして、内容も悪くなかったんですけど……。なぜか視聴者がつかなかったんです。ドラマを見る層がテレビの前に座らない時間帯なんでしょう。もしくはバラエティーや情報番組に流れてしまっているのかもしれません」

 ドラマを放送するには適さない“谷間の時間”ということなのか。2つ目の条件として、出演者のキャスティングをあげる。

ジャニーズのアイドルたちの使い方ですね。刑事ドラマを見る人たちって、年配の方が多いじゃないですか。何十年も警察モノや刑事モノを見てきたファンにとって、目が肥えているというか純粋に面白いドラマを求めているわけです。別にジャニーズのタレントさんたちがダメというわけではありませんが……」

 彼らのような20代前半の子が大活躍する刑事ドラマでは、確かに説得力が少ない。

「この前のクールで放送していた『未満警察 ミッドナイトランナー』(日本テレビ系)は『Sexy Zone』の中島健人と『King&Prince』の平野紫耀が主演しましたが、平均視聴率が11%。今をときめくアイドルが出演しているなら、もっとよくてもいいはず。ファンとストーリーを楽しみたい層とは違うわけです

 そして、3つ目にあげた条件が“地味すぎる”こと。これは2つ目の条件と相反するように思えるが──。

どれだけいい役者をキャスティングしても、地味すぎたり硬派すぎるとダメなんです。以前、今野敏が書いた警察小説の『隠蔽捜査』なんて本当に面白いストーリーだけど、TBSでドラマ化したときのキャスティングが杉本哲太と古田新太。おじさんしかいないわけです。

 ちなみにこのドラマは、『月曜ミステリーシアター』の枠でした(笑)。だから、キャスティングには絶妙なバランスが必要なんですよ。2つ目と3つ目の条件をうまくブレンドできれば、マイナスがプラスになると思います

 そのいい例が、シリーズとして12本続いた『警視庁捜査一課9係』(テレビ朝日系)だという。

渡瀬恒彦さんとイノッチこと井ノ原快彦のコンビがすごくバランスがよかったんです。そして、ふたりの周りに吹越満や田口浩正、津田寛治、羽田美智子といったなかなかの手だれ俳優を置いて。

 渡瀬さんの役が空気を読まない係長で、そのサポート役がイノッチ。数字もとれて長期シリーズになったのですが、渡瀬さんが亡くなり、イノッチがリーダーになってしまった。しかも『特捜9』とタイトルまで変わってしまって、今は別ものになってしまったんですけど」

杉本哲太と古田新太が出演した『隠蔽捜査』

低視聴率ドラマを辛口ぶった斬り!

 ここで最近、何年かで低視聴率だった刑事モノを吉田さんに振り返ってもらった。まずは2010年に単発ドラマとして、竹内結子さんが主演して人気が出た『ストロベリーナイト』のキャストとスタッフを一新した2019年の『ストロベリーナイト・サーガ』(フジテレビ系)。平均視聴率は6.6%。

「これは前シリーズが完璧な布陣で制作されていた反面、新バージョンは失礼な言い方だけど“劣化版”みたいになっちゃった(笑)。

 連ドラから7年たって、竹内結子さんではなく二階堂ふみ、西島秀俊ではなく亀梨和也って……。原作の誉田哲也が描く女刑事モノが好きな人は、基本、大人です。そこにジャニーズを入れたらダメでしょ。ジャニーズモノにしたのが最大の失敗。

 竹内さんに恋心を抱く西島秀俊という構図がよかったんですよ。『右では殴らない』『ソウルケイジ』といった前シリーズと同じストーリーもあって、竹内さんと比べられるふみもかわいそうでしたね」

竹内結子さん演じる姫川も人気!映画化もされた『ストロベリーナイト』

 同じ“女刑事”というくくりでは、2014年の『東京スカーレット~警視庁NS係』(TBS系)。平均視聴率は6.5%。

「オリンピックで増えるインバウンドたちの、東京に対するネガティブなイメージを払拭するために、NS係なんて部署を警視庁が作った、という設定がまずわからない。しかも、女性起用といいながらも、NS係はキムラ緑子と水川あさみのみ。

 生瀬勝久ほどの名優に何の面白みもない、鋭い刑事をやらせて、事件を説明させるような展開もどうなの? 菅原大吉、近藤公園と名優をここまでそろえたのに、キャラ設定が面白くないし脚本も面白くなかったというのが致命的。このドラマは俳優のムダ遣いでしたね

 吉田さん個人としては好きだったが、どうして数字がとれなかったのかが謎、と話す2017年の『刑事ゆがみ』(フジテレビ系)。平均視聴率は6.5%。

「主演が浅野忠信と神木隆之介で、ゲストに斎藤工や中川大志、新田真剣佑、オダギリジョー! 二階堂ふみも出演していて、豪華な俳優陣。痴漢冤罪の弊害に、女教師と男子生徒の恋、聖人君子の夫が家ではDVをしていたり、娘を犯した鬼畜な父親……。

 一筋縄ではいかない犯罪を違法不法おかまいなしの捜査をする浅野と、こまっしゃくれた童貞の神木のコンビ。先入観と正義感では解決できない事件が多くて、わかりやすい勧善懲悪ではなかったところがいけなかったのかしら

『刑事ゆがみ』(フジテレビ系、'17年)

 オリジナル脚本で評価はしたいけど……と、あげたのが2019年の『ニッポンノワール-刑事Yの反乱-』(日本テレビ系)。平均視聴率は8.1%

「『3年A組』が当たったので、その流れを酌んでそのまんまというノリはわかる。でも『3年A組』は学園モノで、今の若い子の気持ちや感覚を全部くみ取ったからウケたわけです。それを刑事モノに引きずり込んでもね……。

 しかも警察が作っている闇の組織があって、人体実験で超人ハルクみたいなのを作り出していたなんて、もうこれは刑事モノといいつつSFですよ(笑)。単純な、犯人を捕まえるという王道的なドラマではなく、オリジナルでよくここまで作ったという意味では評価したいという人はたくさんいます。

 でも、いろんなことを入れ込みすぎじゃありませんか、と。主演の賀来賢人は何でもできる人だけど、どう演じたらいいんだろう、と悩んでいたんじゃないのかな(笑)」

今クール“爆死”が決定的!?

初回に7.7%でスタートした『24 JAPAN』。回を重ねるごとに数字が落ちているが起死回生はあるのか!?(公式HPより)

 そして最後は現在放送されている『24 JAPAN』(テレビ朝日系)。2001年に海外ドラマで話題になった『24』のリメーク版。テレ朝の開局60周年記念という冠をつけ、大々的にスタートしたのだが、視聴率は尻つぼみに。10月23日に放送された第3話は4.5%と、すでに“爆死”状態──。

「初回が7.7%というのも驚きだったんです。こんなに数字をとれないのかと思うけど、視聴者からすれば4文字で終わっちゃうんです。“い・ま・さ・ら”って(笑)。私、元ネタのドラマを1秒も見ていないんですけど、逆に本家を見ていないから楽しめるかなと思っていたんです。

 でも1話目で、国民による総選挙で日本初の女性総理大臣が選ばれるかもしれないという設定を聞いて“はぁ?”って。われわれ国民は直接選挙じゃないから、総理大臣を選べないわけですよ。なのに、総選挙? アメリカの制作サイドから設定を変えるなというゴリ押しかもしれないけど、日本の機構や仕組みがまったく反映されてなくて。

 疾走感とかもなくてすべてが中途半端。主演の唐沢寿明も、やる気満々だったと思うけど、気の毒という気持ちしかないですよ(笑)。ここまで数字がとれないと、痛すぎて、もうからかえないです」

 辛口コメントを作品にしてきた吉田さんには“愛”あってのこと。

 新しい刑事ドラマを見たい、とこんな提言を最後にしてくれた。

“この枠にドラマ?”みたいなものをどんどん作ってもいいと思うんです。かなりの英断だけど、朝8時からの枠とかね。今、仕事もリモートで家にいる時間帯が以前とは違うじゃないですか。視聴習慣も変わっているんだから、新しい枠でチャレンジしたほうがいいのかな、って。

 それと『ニッポンノワール』みたいに若いクリエイターが暴走してもいいと思う。そこから新たな流れができていく可能性があるんだし。“前途ある失敗作”になるならいいじゃないですか(笑)」

最近の“爆死”刑事ドラマ

隠蔽捜査』(2014年TBS系)■7.5%■今野敏の小説が原作。杉本哲太と古田新太が主演。絵ヅラがおっさんすぎたか。硬派で面白かったのに

ホワイト・ラボ 警視庁特別科学捜査班』(2014年TBS系)■7.9%■北村一輝主演、科捜研ストーリー。北村と宮迫博之がエリート科学捜査官というキャスティングに違和感あり

SMOKING GUN 決定的証拠』(2014年フジテレビ系)■7.4%■民間の科捜研が舞台の香取慎吾主演ドラマ。元刑事の所長役に鈴木保奈美を据えるも、数字とれず

京都人情捜査ファイル』(2015年テレビ朝日系)■6.8%■高橋克典主演。犯罪被害者支援室を描いたドラマ。刑事モノというよりは人情モノになっちゃった

最強のふたり 京都府警特別捜査班』(2015年テレビ朝日系)■7.3%■名取裕子と橋爪功の大御所W主演。京都モノ2時間ドラマの“常連”で主演作があるふたりはそっちに専念しろって話か

キャリア 掟破りの警察署長』(2016年フジテレビ系)■7.2%■玉木宏主演。のんびりイケメンのキャリアが署長になって大活躍というぬるい物語。1度も2ケタにいかず

ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子』(2016年フジテレビ系)■8.0%■殺人に興味ある女刑事を波瑠が演じた。バディ役が関ジャニの横山裕。これも1回も2ケタ届かず

嫌われる勇気』(2017年フジテレビ系)■6.5%■アドラー心理学の原作を刑事モノにアレンジして大失敗。学会からも抗議文。主演は香里奈

警視庁いきもの係』(2017年フジテレビ系)■6.5%■橋本環奈主演。警察モノなのに動物モノって……。エンディングで踊らされる渡部篤郎が気の毒

よしだ・うしお コラムニスト、イラストレーター、テレビ評論家として『週刊新潮』で『TVふうーん録』を連載中。『幸せな離婚』(生活文化出版)『親の介護をしないとダメですか?』(KKベストセラーズ)など著書多数