左から森七菜、浜辺美波、上白石萌音

 恋愛ドラマで盛り上がる秋ドラマ。少し前までは30代のヒロインも多かったが、ここへきて恋愛ドラマのヒロインの“若返り”が急速に進んでいるという。それは一体なぜなのか。コラムニスト・テレビ解説者の木村隆志さんが分析&解説する。

30代のヒロインが
当たり前だったが……

 今年の秋ドラマは、「ラブストーリー全盛期」と言われる1990年代を彷彿させるほど、ひさびさに恋愛ドラマがそろった。

 なかでも特筆すべきは『この恋あたためますか』(TBS系)でヒロインを務める森七菜。まだ19歳の若さであり、連ドラ初主演の大抜てきにファンから喜びの声があがった一方、「さすがに早いのでは」「若すぎるかも」などと不安視する向きも少なくなかった。

 その他の作品では、『姉ちゃんの恋人』(カンテレ・フジテレビ系)に27歳の有村架純、『#リモラブ ~普通の恋は邪道~』に29歳の波瑠を起用。石原さとみ、新垣結衣、戸田恵梨香ら30代のヒロインが中心だったころよりも、少し若返っていることがわかるだろう。

 また、1クール前に放送された『私たちはどうかしている』(日本テレビ系)の浜辺美波は当時19歳で、プライム帯の連ドラ初主演を果たしていた。さらに、『おカネの切れ目が恋のはじまり』(TBS系)の松岡茉優は25歳で、プライム帯の民放連ドラ初主演。1~3月に放送された『恋はつづくよどこまでも』(TBS系)の上白石萌音は当時21歳で、プライム帯の連ドラ初主演だった。ラブストーリーのヒロインがこの一年で急激に若返っていることがわかるのではないか。

 現在、最もラブストーリーを放送しているTBS・22時台の火曜ドラマを比較すると、さらにわかりやすい。

 2019年は『初めて恋をした日に読む話』の深田恭子(当時36歳)、『わたし、定時で帰ります』の吉高由里子(当時30歳)。『Heaven?~ご苦楽レストラン~』の石原さとみ(当時32歳)、『G線上のあなたと私』の波瑠(当時28歳)だったが、2020年は『恋はつづくよどこまでも』の上白石萌音(当時21歳)、『私の家政夫ナギサさん』の多部未華子(当時31歳)、『おカネの切れ目が恋のはじまり』の松岡茉優(当時25歳)、『この恋あたためますか』の森七菜(19歳)。1年で4作平均31.5歳から24歳と、7.5 歳も若返っていたのだ。

昭和時代を思わせる
若手抜てきの狙い

 たとえば、学園ドラマのヒロインなら、これくらいの若返りも理解できるが、前述した作品はいずれも働く女性を描いたものばかり。森七菜や浜辺美波は、コンビニスイーツ開発社員や和菓子職人よりも、高校生や大学生役のほうがしっくりくる年齢だけに、「なぜ?」と首をひねりたくなる人も少なくないだろう。

 なぜ恋愛ドラマのヒロインが急速に若返っているのか? その理由は、民放各局が彼女たちと同世代や、少し上の世代の視聴者層を集めたいから。これまで民放各局は世帯視聴率を獲得するために、刑事、医師、弁護士をはじめとする中高年層受けのいいドラマを量産してきた。

森七菜(2019年12月、映画『ラストレター』舞台挨拶)

 しかし、スポンサーは若年層の視聴を求めているため、CM収入を得ていくことが徐々に難しくなり、さらに今春、視聴率調査がリニューアル。年齢性別ごとの詳細データが得られるようになり、若年層受けのいい恋愛ドラマが見直され、ヒロインの若返りが進んでいるのだ。

 森七菜に話を戻すと、朝ドラ『エール』(NHK)に出演しているものの、連ドラのレギュラー出演はまだ数える程度であり、明らかに発展途上の段階。同世代で言えば、浜辺美波や清原果耶のような経験がないにもかかわらず起用されたことが示唆に富んでいる。

 この起用は、「素質を見込んで鮮度の高いうちに抜てきする」「撮影現場で育てる」「視聴者に成長の過程を見てもらう」という昭和時代のドラマを思わせるものがあり、かつての朝ドラに近いようにも見える。また、前述したように、視聴率調査が変わったことで視聴率に関する評価基準が変わり、若手女優たちが背負うノルマ的なプレッシャーがやわらいだことも大きい。

中堅俳優たちのサポートで輝かせる

 ヒロインの若返りを語る上で、もう1つふれておきたいのは、中堅俳優たちのサポート。森七菜は中村倫也(33歳)、浜辺美波は横浜流星(24歳)、松岡茉優は三浦春馬(30歳)、上白石萌音は佐藤健(31歳)が相手役を務めていた。

中村倫也  撮影/本誌写真班

 彼らはいずれも主演クラスでありながらも、ヒロインを輝かせる助演の役割を完遂(横浜流星はダブル主演)。「主演を務められる華と技量を持つ彼らのサポートで、若手女優たちをより輝かせられる」という計算が立つから、思い切った若返りが図れるのだ。

 再び森七菜の『この恋あたためますか』に話を戻すと、中村倫也だけでなく、仲野太賀、石橋静河、山本耕史、市川実日子、笹本玲奈と、助演を実力派ばかりで固めていることがわかるだろう。制作サイドはただ若返りを図るのではなく、出来る限りのバックアップをしているのだ。

 その意味では浜辺美波の『私たちはどうかしている』も同じ。ダブル主演の横浜流星に加えて、高杉真宙、岸井ゆきの、山崎育三郎、須藤理沙、中村ゆり、佐野史郎、観月ありさなど、演技力と話題性のバランスが取れたキャスティングで浜辺をバックアップしていた。

 来年以降も恋愛ドラマは、「10代後半~20代前半の女優を抜てきし、演技力と話題性を兼ね備えた先輩俳優たちがサポートする」という形が見られるだろう。

木村隆志(コラムニスト、テレビ解説者)
 雑誌やウェブに月間30本のコラムを提供するほか、「週刊フジテレビ批評」などに出演し、各番組のスタッフに情報提供も行っている。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもあり、主要番組・新番組、全国放送の連ドラはすべて視聴。著書に「トップ・インタビュアーの「聴き技」84」「話しかけなくていい!会話術」など。