中野英雄。12月22日で56歳の誕生日を迎える

 北野武が監督を務める映画『アウトレイジ』シリーズを始め、Vシネマやアウトロー作品には欠かせないバイプレイヤーとして活躍する俳優・中野英雄(56)。その次男は、ドラマや映画に引っ張りだこの若手俳優・仲野太賀だ。息子の出演作が発表されるたびに《頑張れ!》《みなさんぜひ見てください!》と自身のSNSからエールを送る“親バカ”な姿には、思わず笑みがこぼれる。各界から高い評価を得る息子の姿を、父として、同じ「俳優」のひとりとして、どう見守っているのだろうか。

僕の背中は見なくていい

「僕が俳優として、ものすごく役にのめり込んでいたのが26〜28歳あたり。ちょうど今の太賀くらいの年齢で、ドラマ『愛という名のもとに』(フジテレビ系)などの撮影をしていたころですね。自分の生活を犠牲にしながら、とにかく与えられた役をみっちり演じることに没頭していた。だから太賀もきっと、今がいちばん仕事に夢中なんじゃないかと感じているんです」

 現在27歳の息子・太賀を昔の自分自身と重ねる。

 2020年だけで8本の映画に出演し、現在放送中のドラマ『この恋あたためますか』(TBS系)での演技も光る太賀は、すでに15年のキャリアを積み上げている注目株。

「これまで芝居の相談をされたこともなければ、僕から偉そうに何かを言ったこともない。僕の背中は見なくていいと思っているし、彼の世界は彼のものだから。とにかく自由にやっていってほしいですね」

 初めて観た太賀の出演作は、'07年の映画『バッテリー』。野球部に属する中学生らの成長や心の葛藤を描いた作品で、太賀も野球少年のひとりを演じた。当時、映画館の大きなスクリーンで息子を目にした日のことを振り返り「物語をほとんど覚えてないくらい大泣きしちゃって」と、笑う。

「僕と同じ仕事を選んだだけでも泣けましたけど、あのときはその感動を越えましたね。あと、自分と太賀が似ているとは、一度も思ったことがないんですよ。周りから“似てるね”と言われても、正直あまりピンとこない。スタイルだって、若いころの僕はずんぐりむっくりだったけれど、太賀は細くて母親似だから(笑)」

 バラエティーやラジオ番組で太賀は「オヤジに溺愛されている」と発言することがある。それもそのはず、中野は自身のツイッターやインスタグラムでマメに太賀の出演作を宣伝し、ドラマの感想をすぐにつぶやくなど、とにかく息子の活躍を誰より喜んでいる姿を1ミリも隠さない。

「ドラマを観ているときは、“仲野太賀”というひとりの役者だとしか感じていません。けれど、放送が終わればやっぱり息子なんです。『この恋あたためますか』を観終わったあとにも“あ〜、今回は(共演している)中村倫也くんのほうがよかったな。太賀、ちょっと負けちゃってるな”とか振り返ったりして(笑)。

 中村くんといえば、僕は以前、彼と太賀が共演した舞台を観に行っているんです。あのころは中村くんがテレビにはあまり出ていなかったので、こんなに引き込まれる演技をするのかと衝撃を受けました。その夜、太賀に“あの主役(中村)ヤバいね!”と伝えたら、太賀が“彼は舞台の世界ですでに有名だし、俺じゃあ足元にも及ばない人なんだ”って。そんな中村くんと、今ドラマで一緒の現場に立っていて、彼のすごさを目の当たりにしながら何とか頑張っているんじゃないかなと思っています

 息子の話をしている中野は、少し照れくさそうでありながら、表情はとても穏やか。自分と同じ“芸能界”という世界に踏み込んだ息子を誇らしく思い、同時に心配もしていることが十分に伝わってくる。

中野英雄。息子の太賀とは、ささいな話題でも頻繁にLINEで連絡を取り合うという
「長男は俺に似て“ワル”だったけど(笑)、太賀はいい子でね〜」と語る中野英雄

もし太賀が事件を起こしたら?

 太賀と同世代の俳優たちとの交流もあるという中野は、お茶目な思い出話をしてくれた。

「高校生のころは、菅田将暉くんや間宮祥太朗くんたちが家によく遊びに来ていました。ずっとゲームをしているもんだから、“うるせー! 静かにしろ! 何時だと思ってんだ!”って怒ることもしょっちゅうでしたね(笑)。

 でも、確か1年くらい前かな、また菅田くんがうちに来てたんです。トイレに行こうと廊下の角を曲がった先に彼が座っていて、“わっ菅田将暉だ!”って驚いちゃいました。スターに会った気分になって、ドキドキしながら“どうも、こんにちは!”って頭下げてあいさつしたら、“もう、やめてくださいよ(笑)”なんて言われてね」

 俳優業には口を出さず「太賀の世界を作ってほしい」と言いながらも、息子が窮地に陥ったら「親としては全力で守る」と、力強く語る。

「若いころ、松方弘樹さんが僕をご飯に連れていってくれたときに“世界中の誰もが敵になっても、俺は息子の味方だ”って言われたんです。当時は“このオヤジ、カッコつけてるな”くらいにしか思わなかったけれど、親になった今、実際にそうでなきゃなって感じるようになったんです。

 だから、もし何かあっても、僕は最後まで太賀の味方でありたい。例えば、アイツが事件を起こしたら俺は一緒になって土下座して謝るし、必要なお金も払うし、それでも許してもらえなかったら腹を切る、くらいの覚悟はあります。そこは、やっぱり親子なんでね。でも、太賀に“(炎上や、軽はずみな言動をしないように)いろいろ気をつけろよ”って言うと、“お前もな”って返されます。そりゃそうだ、自分でもそう思う(笑)

 どんな質問を投げかけても「太賀は正直者で親を困らせることがなかった」と、出てくるエピソードは微笑ましいものばかり。

「親だからこう言うわけじゃないんですけど、いい子なんです。本当はここで悪ガキエピソードのひとつやふたつ、披露したいくらいなんだけど……。振り返ってもやっぱり、アイツはいい子なんですよ。ゲームで負けたときだけは、昔から荒れてましたけど(笑)。

 でも、この間、餃子はお酢と胡椒で食べるか、醤油とラー油で食べるかで言い合って。ムカついたから、太賀の子どものころの写真をSNSにアップしました。以前、“ホントに勘弁して”って言われてたから、“これはいい方法だぞ、ざまあみろ”と思って(笑)。ですから今後、僕のSNSに太賀の幼少期の写真が上がったときには“あ、こいつらモメたな”って思ってもらえたら間違いないです

「僕のほうが子どもなのかもね」と笑った中野は、とてもチャーミングな父親の顔をしていた。

(取材・文/高橋もも子)


【PROFILE】
中野英雄(なかの・ひでお) ◎1964年12月生まれ。京都府出身。'85年、哀川翔から『劇男一世風靡』に勧誘されたことをきっかけに芸能活動を開始。'92年、ドラマ『愛という名のもとに』で“チョロ”と呼ばれる真面目な青年を演じて人気を博す。その後も映画『アウトレイジ』シリーズや『首領への道』などのVシネ、各種テレビドラマ、バラエティ番組などに出演し、現在も幅広く活躍中。