現場のバス停には花が。ベンチは狭く仕切りもあるので横になれない

「えっ、犯人はあの子だったの? 小さいころはおとなしくて、そんな乱暴なことをする子じゃなかったのに」

 と容疑者一家が管理しているアパートに長年、住む住人は顔をこわばらせる。

資産家に生まれ中学生で引きこもりに

 11月16日の午前4時ごろ、東京・渋谷区のバス停でホームレスの大林三佐子さんが殴り殺された事件で逮捕されたのは、近くに住む職業不詳の吉田和人(かずひと)容疑者(46)だった。

 5日後の21日午前3時ごろ、最寄りの交番に母親と出頭した容疑者は、地域のボランティアでゴミ拾いをしていて、バス停に居座る路上生活者にどいてほしかったという──。

「前日に“お金をあげるからどいてほしい”と頼んだが、断られて腹が立ったので、石を入れた袋で殴った。“こんな大事になるとは思わなかった”と供述しているそうです」(全国紙記者)

 報道によれば、広島出身の大林さんは話すことが好きで、若いころはアナウンサーを目指していたことも。

 最近は家族ともほぼ連絡をとらず、3年前には杉並区のアパートを出て、今年2月にはスーパーの販売員も辞めて路上で生活するように……。

吉田容疑者の実家マンション。1階は家業の酒店で、2階で生活し、他の部屋は賃貸に出していた

 一方、容疑者の実家は祖父母の代から酒店を営み、マンションやアパートを所有する資産家。

中学生のときに不登校で引きこもりになったと父親から聞いた。20歳のころに1度は就職したがすぐに辞めて、また引きこもりになった。

 それがましになったのは数年前に父親が亡くなってから。酒店は10年近く前からほとんど営業してないけど、昔からの常連には配達している。それを手伝うようになったからね」(冒頭の住人)

 そんな容疑者は近所ではちょっとした有名人で、

「パラボラアンテナを設置したり、自宅のシャッターなどを替えたりすると、文句をつけにくるクレーマーでね。景観が変わることにこだわっていたみたい」(近所の主婦)

80歳近い母親といつも一緒

 生活には困らないが無為に過ごすなか、容疑者の心の隙間を埋めたのは競馬と激しいギターサウンドだった。

「競馬は“これが来るよ”と予想してくれた」(知人)

 別の知人は、

「ヴァン・ヘイレンやイングヴェイ・マルムスティーンなど洋楽ハードロックが好き。引きこもりだと聞いていたので、意外な感じだった。(10月に死去した)エディ・ヴァン・ヘイレンの話をしたら、“残念だね”程度で、あまり盛り上がらなかったけれど」

 さらに、マザコンぎみだったことも証言する。

「彼はよく“母親が昨日の夕食は○○を作ってくれた”“今日の昼は××を作ってくれた”と話していました。

 お母さんはひざが悪いので、病院へ付き添うことも。彼は彼なりに80歳間近い母親を守るという意識がある。だから、いつも一緒。異様なくらいにベッタリなんです」

母親を直撃すると

 最終的に容疑者は犯行を母親に相談して、一緒に交番へ行った。

「逮捕の前日にお母さんを見かけたら、いつも元気なのに目の下にクマができていた。

 報道された防犯カメラの映像で息子だと気づいたのか、それともすでに相談されて眠れなかったのか……」(同・知人)

吉田容疑者が母親とともに出頭した自宅近くの交番

 容疑者の逮捕から5日後の夜、その母親は、

「引きこもりですか? いえいえ、そんなことはありませんよ。……ないです。なぜ、あんなことをやってしまったのか? うーん……わからないです……」

 そう記者に言いながら、息子に代わり近所の配達を終え、トコトコと台車を押し続けていた。