豊川悦司と渡辺謙 撮影/渡邊智裕

 アメリカの人気ドラマシリーズで、ハリウッド映画のヒット作をリメークしたドラマスペシャル『逃亡者』で逃走する主人公を演じた渡辺謙と、主人公を追う刑事役の豊川悦司。ともに海外でも活躍し、3度目の共演を果たした先輩後輩の、ここだけの話――。

「謙さんの前に立つと、
すっと新人のころに戻れる」

――(映画『北の零年』以来)15年ぶり3度目の共演、その間に会ったことは?

渡辺謙(以下、渡辺) NHKで大河ドラマ(『西郷どん』2018年放送)に出演しているときに、彼が朝ドラ(『半分、青い。』、人気漫画家、秋風役で出演)をやっていたので、会って近況を聞いていました。朝ドラも見ていたので“(役が)いいよねー”ってほめました(笑)。

豊川悦司(以下、豊川) 大先輩の謙さんと共演するチャンスがあればいいなと思いながら話をさせていただいていました。謙さんの求心力はすごくて、謙さんがいると、みんなが集まってくる。独特な雰囲気を持っていらっしゃる。

渡辺 独特の雰囲気は、豊川でしょ。『逃亡者』をやることになり、彼が出演すると聞いて“あっ、いけるな”と。そういう確信みたいなものを持っている俳優さんなので、かなりハイレベルな作品になると感じました。

――『逃亡者』の撮影現場では、海外で仕事をする苦労話をされたとか?

豊川 海外の作品(ハリウッド映画『ミッドウェイ』)に、ほぼ初めて出演するチャンスがあったので、謙さんに、もしこれからも海外作品に出演するのであれば、どうやって進めていけばいいかという話をさせていただきました。

“自分がやりたいと思ったら、その気持ちが大事。いくつになってもいいんだ”と、アドバイスをいただきました。

渡辺 (海外進出は)僕は40歳を越えて、彼は50歳を越えてから。1度、全部をなくして新人に戻れる機会は、なかなかないからね。そういうのは経験した者でしかわかり合えない。緊張もあるけど、すごい楽しみでもあるよねという話をしました。

豊川 海外で自分のことを誰も知らない人たちと一緒に作品を作るという経験に似ているんですが、謙さんの前に立つと、自分がすっと新人のころに戻れる。甘えではないけれど、胸を借りるという気持ちになれるのが新鮮。謙さんの前だと自分自身が裸になれる感覚があって、(共演は)すごくうれしかったです。

渡辺 人種も考え方もまったく違う海外でやると、まず自分をオープンにしないと誰も受け入れてくれない。それを僕も40歳を過ぎてからやり始めたので、どの現場でも、開けっ放しにしているわけではないけれども、どんな意見でも考え方でも受け入れるようなマインドを持っていないと、(視野が)狭くなっちゃう。

後ろをついていく
前しか見ていない

――ドラマでの追われる者(渡辺)、追う者(豊川)の立場は、役者としても同じでは?

豊川 そのとおりです。次に謙さんが何をしてくれるのかなって、背中を見て行きます。

渡辺 いやいや、すぐこけますから(笑)。

豊川 でも、確実に道を切り開いてくれるから、後ろから追うほうは、やりやすい。
 
 60代になった謙さんが、どういうふうな球を投げてくれるのか楽しみ。それに負けないように、きっちり距離を詰めながら、ついていきたいと思います。

渡辺謙 撮影/渡邊智裕

渡辺 いやぁ、いかに遅い球を速く見せるかだよ(笑)。肉体的なことは、確実に下がっていくので、いろんなもので補ったり、逆にそれを隠さないところも上手にあがいていかないとダメ。ただ、あがいているのではなく、ちゃんとあがかないといけないし、そういうところは自分がやらないといけないところだという気がします。

(追われる者として)後ろは見ていない、前しか見ていない。(背中を)見られていても、余裕はないわけ。前を向いて、今やらなければならないことに集中していくしかない。いままでもそうだし、これからもそう。後輩がいろんな道に挑戦して、面白がってくれればいい、とは思っています。でも、それを“俺についてこい!”というよりは“とにかく俺は行くから、後はみんなよろしくな!”っていう感じですよ。

――逃亡者VS追跡者の心情を「執念深い」と表現。ご自身の執念とは?

渡辺 ドラマ、映画、舞台、仕事に関しては、執念深いと思います。そうでないと生き残れないんじゃないかな。

豊川 そうですよね。こだわりですよね。こだわりのためには波風が立つときもあるし、でもそれを恐れずに、こだわっていくところは妥協しないのが大事じゃないかな。
 
 今回の現場でも謙さんが、そういう部分をやっていられたので、それを見て刺激になりました。

自然体で、あがく
チャレンジ精神で

――コロナ禍以前に行われた1月の打ち上げは?

豊川 (渡辺に)女優さんに囲まれてうれしそうでしたよ(笑)。

渡辺 違うだろー(笑)。
 
 ひとりで逃げ続ける役で結構、過酷な撮影だったので、豊川と話したようなことを現場ではできなかったから(共演者の女優と)打ち上げで話しただけ。

豊川悦司 撮影/渡邊智裕

豊川 こぢんまりとして楽しかったですよね。ラッキーなことに(コロナ禍に)影響されずにできたことは、よかったかなと思います。

渡辺 本当にそうだね。

――キャリアを重ねて、感じることとは?

渡辺 (俳優業は)非常に波打つときと凪いでいるときが、すごく差がある。だからこそ、自然体でいたいと思う。撮影に入ったり、舞台の稽古が始まると、いきなり大きな波が来る。そこはあがかなきゃいけない。先にも話したように、どこまででもあがきたいと思う。その繰り返しかな。

豊川 年齢とともに演じるキャラクターが限定されていくんだろうけど……。

渡辺 豊川は、限定されないんじゃない。びっくりするよ、いつも。こんなことをやれるんだって思う。珍しいタイプだよ。

豊川 そうですかね。でも、(自分の)イメージやカラーをなるべく壊すような仕事の選び方をしていきたいし、チャレンジ精神を忘れずにやっていきたいのはあります。

渡辺 その気持ち、わかる。

――最近は、おじさんをフィーチャーした作品が目立ちます。

渡辺 そんなに多くないよ。大人の世界には出会いだけでなく、悩み、苦しみ、実社会にはいっぱいあるはずなのに全然、そういうのが描かれない。そういうなかで、久々にむさくるしいドラマになるよね、これ。いい意味で。

豊川 そうですね。

渡辺 今回、精魂込めて作り上げた作品は、最適だと思うので楽しんで見てほしいです。

初めてのアクションに興奮!

 主演の渡辺は、初めて走行中の電車の中でのアクションに挑戦した。
「リハーサルをして準備万端で撮影しましたが、本番では動いている電車の中は、思った以上に重力がかかり、つり革や手すりにガンガン当たる。疾走感の中でのアクションに、興奮しました」(渡辺)

テレビ朝日開局60周年
2夜連続ドラマスペシャル『逃亡者』
12月5日(土)・6日(日)午後9時~


 妻の殺害容疑で死刑判決が下されたエリート外科医が、護送中のアクシデントがきっかけで、事件当日に鉢合わせした義手の男を探し出すため逃走。逃げ続ける外科医を特別広域捜査班の刑事が執拗に追う。