左から小池栄子、江口のりこ、山口紗弥加

 今、「40歳」の女優たちがアツいーー。第一線で活躍し続け、秋ドラマでも存在感を放つ3人の女優。山口紗弥加、江口のりこ、小池栄子。彼女らに共通するのは、3人とも40歳ということ。40歳=「不惑」女優の凄みとはーー。コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。

この年齢だから叶う?
驚きの振り幅

 12月に入って秋ドラマが終盤に突入する中、現在ちょうど40歳の女優3人がヒロインを支えるべく、際立った演技を見せている。さらにその演技は、直近作で演じたキャラクターとの振り幅の大きさから、驚きを伴う称賛の声が少なくない。

 1人目は『共演NG』(テレビ東京系)で主人公・遠山英二(中井貴一)の妻・雪菜を演じ、ヒロイン・大園瞳(鈴木京香)との三角関係を見せている山口紗弥加「英二を異常な独占欲で縛ろうとする元アイドルの妻」という強烈な悪女は近年の山口にとって十八番の役柄であり、ドラマのスパイスとなっている。

 さらに山口は『38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記』(テレビ東京系)にも出演し、しかも主演でマッチングアプリにハマってしまう38歳独身女性・松本チアキを演じている。『共演NG』では共感できない猟奇的な女、『38歳バツイチ…』では共感できる等身大の女を演じ分けているのだ。

 2人目は『#リモラブ ~普通の恋は邪道~』(日本テレビ系)でヒロイン・大桜美々(波瑠)にアドバイスを送る精神科医・富近ゆりを演じている江口のりこ。「恋愛を楽しみながら悠々自適な生活を送る」というキャラクターは、『半沢直樹』(TBS系)で演じた白井亜希子国土交通大臣とは真逆の印象を与えている。

 3人目は『姉ちゃんの恋人』(カンテレ・フジテレビ系)でヒロイン・安達桃子(有村架純)の上司でひさびさの恋に浮足立つ市原日南子を演じている小池栄子。高田悟志(藤木直人)に一目ぼれしてメロメロになる姿と、『美食探偵 明智五郎』(日本テレビ系)で演じた連続殺人鬼・マグダラのマリアとのギャップはあまりにも大きい。

 3人が演じる6つの役柄は、夫の元恋人への嫉妬に狂う妻、マッチングアプリにハマるバツイチ女性、悠々自適な日々を送る独身女性、上昇志向の強いキャリアウーマン、ひさびさの恋にときめくアラフォー女性、平凡な主婦から殺人鬼に一変する女性と、すべてバラバラ。同い年の3人は似たような振り幅の大きさを見せているわけではなく、また、「40歳という年齢はこれだけさまざまな役柄を演じられる」ことを証明している。

 たとえば、山口紗弥加が上昇志向の強いキャリアウーマン、江口のりこが平凡な主婦から殺人鬼に一変する女性、小池栄子がマッチングアプリにハマるバツイチ女性を演じることも可能であり、この3人なら6つの役をすべて演じ切れるだろう。

 つまりこの3人は、2点が表す180度の振り幅があるのではなく、6点のどこにも振れる360度の全方位的な演技力を持っているのだ。

なぜ、彼女たちは成功できたのか

 そして注目すべきは、ハイレベルな演技力を持つ同い年の3人がまったく異なる芸能生活を歩んできたこと。

 山口紗弥加は10代のころにアイドル女優として活躍したあと、バイプレーヤーとして地道に地位を固めていった。

 江口のりこは劇団東京乾電池に入団し、雌伏の時を過ごしながらも、小さな役から出演作を重ねて現在の地位をつかんだ叩き上げ。

 小池栄子はグラビアアイドルとして活躍しつつバラエティーにも出演し、司会業もこなしながら女優業を本格化させていった。

 まさに三者三様の芸能生活であり、それでも40歳になった今、同等レベルの技量と評価を得ているところが興味深い。

 これは「どんな芸能生活を送っても、3人のように役柄、スタッフ、共演者に向き合い続けてキャリアを重ねていけば、40歳になったときに成功できる」という証明のようにも見える。逆に言えば、3人のように向き合い続けなかった女優は、40歳になってもこれほど幅のある演技はできないし、そういうオファーが届かないだろう。

 さらに「さすが」と思わせるのは、これ以降の出演作がこの段階で発表されていること。

 山口紗弥加は来年1月スタートの『青のSP―学校内警察・嶋田隆平―』(カンテレ・フジテレビ系)で妊婦の英語教師・水野楓を演じ、江口のりこも1月スタートの『俺の家の話』(TBS系)で主人公・観山寿一(長瀬智也)の妹で進学塾講師・長田舞を演じる。また、小池栄子は今月25日公開予定の映画『えんとつ町のプペル』、来年にも吉永小百合の主演映画『いのちの停車場』への出演が明らかになっている。

 来年以降も3人の仕事が増えることはあっても、減ることはないはずだ。3人の女優道は、まさに論語の「四十にして惑わず」=不惑。少なくとも女優業においては迷うことなく自分の道を歩み、雌伏の時を過ごす30代女優たちのロールモデルになっていくだろう。

木村隆志(コラムニスト、テレビ解説者)
 雑誌やウェブに月間30本前後のコラムを提供するほか、「週刊フジテレビ批評」などに出演し、各番組のスタッフに情報提供も行っている。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもあり、主要番組・新番組、全国放送の連ドラはすべて視聴。著書に「トップ・インタビュアーの「聴き技」84」「話しかけなくていい!会話術」など。