世の中には「ヤバい女=ヤバ女(ヤバジョ)」だけでなく、「ヤバい男=ヤバ男(ヤバダン)」も存在する。問題は「よいヤバさ」か「悪いヤバさ」か。この連載では、芸能人や有名人の言動を鋭くぶった斬るライターの仁科友里さんが、さまざまなタイプの「ヤバ男」を分析していきます。
謝罪会見での渡部建。天を仰いだり目をギュッと瞑るような瞬間が多かった

第13回 渡部建

 ミスをしたり人に迷惑をかけたら、謝罪しなければなりません。誰だって、人に頭を下げるのはイヤなもの。だからこそ、きちんと謝れるかどうかが問われるのだと思いますが、アンジャッシュ・渡部建の謝罪会見は「謝れないオトコ」であることを印象づけてしまったのではないでしょうか。

「謝れないオトコ」は「謝ることから逃げるオトコ」と「謝っているけれど、謝罪が不十分なオトコ」の2タイプがいるように思いますが、会見を見て、渡部は両方にあてはまっているように感じました。

自分のプライドを守るために「逃げた」

 今年の6月に『週刊文春』が渡部の多目的トイレでの不倫をキャッチしますが、渡部はその記事の出る数日前に自粛を発表し、テレビの世界から姿を消します。

 不祥事を起こした場合、芸能人はすぐに記者会見を開いて謝罪するというのが、現在の芸能界の主流です。そこで記者たちの厳しい追及を受けてボコボコにされるというのは芸能人側から見れば“罰ゲーム”でも、ある意味、起死回生の“チャンス”になるでしょう。公衆の面前で責められることで、視聴者から「もうやめようよ。本人も反省しているんだし」という声が上がるからです。しかし、渡部はチャンスに賭けるよりも、自分のプライドを守るために「逃げた」のかもしれません。

 不必要なプライドの高さというのは、ふとしたときの言葉に出るものだと思います。『FRIDAY』(2020年10月30日・11月6日合併号)の直撃を受けた渡部は、復帰について記者に問われた際に「せいぜい良く書いておいてください」と答えたそうです。芸能界復帰への道筋が立たず、イラついていたのかもしれませんが、そもそも芸能活動ができなくなったのは自業自得というやつです。記者に八つ当たりをしたと思われてもいいのでしょうか。

 その渡部が12月3日に「謝罪会見」を行います。『週刊女性』(2020年12月1・8日号)が、年末特番『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで! 絶対に笑ってはいけない大貧民GoToラスベガス』(日本テレビ系)に渡部が出演するという報道したことで、その前に謝罪会見を開いておかないとマズいという気持ちが働いたのかもしれません。

渡部はいまだに謝りたくないのでは

『文春』の報道から半年が経ってからの会見ですが、渡部はいまだに謝りたくないんだなと私は感じました。たとえば渡部は「大変申し訳ない」と繰り返しながらも、不倫相手の女性について「ある方から紹介された」「遊べる女性だと聞いたのを真に受けて」と、かるーく「自分は騙された」というようなニュアンスを込めるのも忘れない。

『文春』報道が出た後、なぜすぐに記者会見を開かなかったのかという質問に対し、渡部は「『文春』のインタビューに応じ、そこで謝罪することで終息するのではないか、記者会見をしないで済むのではないか、今考えるとどう考えても逃げ」と答えています。芸能人の不倫は概してイメージダウンにつながりますが、渡部の場合、それにプラスして相手の女性が複数いたこと、多目的トイレという不適切で不衛生な場所に女性を呼び出して行為に及んでいるわけで、ほかの不倫報道と比べて「気持ち悪さ」は群を抜いていると言えるでしょう。『文春』にコメントを出したくらいで、そのヤバさがチャラになることはないと思います。

 ヤバいのは、テレビ局も一緒だと思います。もし本当に『ガキの使いやあらへんで!』が渡部にオファーをしていたのだとしたら、制作側は渡部で視聴率アップが見込めると思っていたということでしょう。番組はターゲットを男性視聴者に絞っているのかもしれませんが、「渡部が出る!」と聞いても、女性は「ぜひ見よう!」という気持ちにはならないと思います。

芸人のオンナ遊びが笑いになっていた10年前

 しかし、渡部とテレビ局が多目的トイレに女性を呼び出す“キモ不倫”を「たいしたことではない」と見くびる気持ちもわからないわけではないのです。

 今から10~20年前、テレビでは売れたオトコ芸人を指して、「あいつ、クラブで出会った女の子をトイレでヤッちゃった」というような暴露話がよくされていました。暴露された側は「おまえ、言うなよ。それなら、こっちも言うからな~」といった具合に、相手のオンナ遊びを暴露し返したりして、スタジオから笑いが起きるというのは、よくあることだったのです。

 どうしてそういった話が当時はOKだったかというと、女性を粗略に扱っても、引きも切らぬほど女性が寄ってくる、だからヤバいことをしてもいいというのが「売れっ子の特権」として黙認されていたからだと思います。

 具体例を挙げると、今から10年前の2010年の『人志松本のすべらない話』(フジテレビ系)で、千原ジュニアが「十数年前の時効の話」として、こんな話を披露しています。キム兄こと木村祐一とジュニア、女性の3人でキム兄の自宅で飲んでいたとき、キム兄が別室で女性と事に及ぼうとしたところ、女性が「そんなつもりじゃない」と言い、逃げようとした。怒ったキム兄が冷凍してあった鶏肉を女性に向かって投げつけたという話です。現代の感覚でいえば犯罪すれすれのヤバさですが、ほんの10年前はこれが“笑い”として成立していたのです。

 それでは、売れた芸人が女性全体を粗略に扱うのかというと、そうとは限りません。ブレイクした芸人がアイドルや女優と結婚することは珍しくありませんが、乱暴な態度をとる男性と結婚したいと思う女性はいないはずです。ということは、彼らはアイドルや女優のような“人から羨ましがられる女性”とは誠実に交際し、名もない一般人は軽く扱うというふうに女性の社会的ランクで扱いを変えていたと考えられます。

 芸能界有数の美女・佐々木希という妻がありながら、一般女性にお金を渡して不貞行為をする渡部を理解できない人もいると思いますが、渡部は「妻や恋人と、性欲を処理する女性は全く別物」という昔のスタンダードを今も引きずっていたのではないでしょうか。

12月3日、都内で行われた謝罪会見で苦しそうな表情をうかべる渡部建

「売れたオトコは何をしてもいい」という昔の常識

 しかし、時代は変わっていきます。テレビ局のコンプライアンスが強化され、社会的良識が重んじられるようになると、上述した「家についてきた女の子がヤラせてくれないから、鶏肉を投げた」ような犯罪要素を含んだ話はもちろん、不倫も笑い話にはならなくなりました。

 かつてテレビの感想はお茶の間で話し合われたものですが、現代のお茶の間はSNSです。2017年に「#MeToo」運動が起きて、フェミニズムの機運も高まっています。性にからんだ問題は、顔が見えないSNSだからこそ意見を言いやすい部分もありますし、大きなムーブメントに発展しやすいもの。テレビ局やスポンサーも炎上を恐れていますから、SNSの意見は無視できないと思います。

 芸能界とSNSの最大の違いは、SNSが判官びいきであることです。人気芸能人が一般人を呼び出して性のはけ口にしたというのは、「人気がすべて」の芸能界的感覚で言えば「よくあること」かもしれません。しかし、SNSでは「人気芸能人のウラの顔」のような話題のほうが盛り上がりますから、必要以上に叩かれやすいでしょう。

 渡部とテレビ局はそういう時代の流れに気づかず、「売れたオトコは何をしてもいい」という昔の常識にあぐらをかいて、アップデートできないオジサンになってしまったのではないでしょうか。謝罪会見と言いながら、いまいち謝っている気持ちが伝わってこなかったのは、「ほかの芸人もしていることをしただけ」「遊べる人だと聞いていたし、お金も渡していた」という「昔の常識」が邪魔をしていたのかもしれません。

 時代の空気を読むのは、芸能人にとって大事なお仕事。復帰にはまだまだ時間がかかりそうですが、幸いにして妻子と相方には見捨てられていないわけですから、どうにかがんばっていただきたいものです。


<プロフィール>
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に応えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」