左から、田中要次 江口のりこ 木下ほうか

 1月8日、脇役俳優たちが主役を演じるドラマ『バイプレイヤーズ』の放送がスタート。ドラマや映画でスポットライトを浴びる主役の横で、名前より役名で記憶に残る役者たち。あなたは、どれだけ覚えている? 

自分の生活を犠牲にしながら演じる

 ハマリ役と当たり役役者なら誰もが求めるものだろうが、ときにそれが不幸をもたらすことがある。ハマリすぎた役が当たりすぎると、似た役ばかりに起用され、本人は悩むことになるのだ。

 '92年のドラマ『愛という名のもとに』(フジテレビ系)でブレイクした中野英雄(56)もそのひとり。人のよさと気の弱さがたたり、自殺してしまう証券マン“チョロ”を演じて、大手証券会社が「現状と違いすぎる」と抗議するほどの反響を生んだ。

 本人もそのイメージを脱却すべく、雑誌で「もう、チョロと呼ばないで」と発言したりしたが、結局、Vシネマに活路を見いだし、暴力団モノなどで名を馳せることに。ただ、その手のものを見ない人にとっては今も“チョロ”のままだろう。

 だが最近、新たなイメージが加わった。それは“仲野太賀の父”だ。昨年のドラマ『この恋あたためますか』(TBS系)などで知られる仲野は、彼の次男で『愛という名のもとに』の翌年に生まれた。彼がチョロを演じたのも、現在の仲野も同じ27歳だ。父は本誌取材に当時を振り返り、

自分の生活を犠牲にしながら、とにかく与えられた役をみっちり演じることに没頭していただから、太賀もきっと、今がいちばん仕事に夢中なんじゃないかと感じているんです

 と、息子に重ね合わせている。

 この年代のドラマでは、大路恵美(45)も役名で記憶されているひとりだ。『ひとつ屋根の下』(フジテレビ系・'93年)で小梅を演じた。レイプされる役というのも悲劇的だが、ヒロインを演じた酒井法子の不祥事により、この作品自体に日が当たらなくなったのも気の毒である。

得意だった芸風がさらに揺るぎないものに

 '80年代には学園ドラマで、このタイプの一発屋が誕生。『3年B組金八先生』の第2シリーズ(TBS系・'80年)で“くさったミカン”こと、加藤優を演じた直江喜一(57)や『スクール☆ウォーズ』(TBS系・'84年)でイソップを演じた高野浩和(53)だ。

『スクール☆ウォーズ』のイソップ役のイメージが強すぎる!? 高野浩和

 売れた勢いで歌手デビューもしており、それぞれ『オレはオレンジなんかじゃない』『イソップ物語』といった一発屋ならではの作品を残した。

 直江はその後、引退して建築会社に就職したが、副業として役者の仕事も再開高野は引退してカツラメーカーに就職し、復帰はしていない

 学園ドラマといえば、'00年代の名作『ごくせん』(日本テレビ系)からも味のある一発屋が出た。イケメン系の生徒役がそろうなか、100キロ超の巨体で目立った、クマこと脇知弘(40)だ。第1シリーズ('02年)だけでなく、第2('05年)第3('08年)シリーズにも社会人役で出演。昨年のコロナ禍で連ドラが特別編成となり『ごくせん』が再放送された際には、こんな思い出を語った。

強面の役で視聴者の記憶に残る脇知弘。バラエティー番組でも活躍

例えば、教室のシーンで、前列にいるやつが立ち上がったりすると“なにやってんだよ、映らないだろ”って口論になったり(笑)。みんな映りたいから、当然ですよね。でも、そのときに潤くんが“俺は全身が映らなくても、どこかで(カメラに)抜かれるからそんなに気にならないな”って言ってて。年下ですけど、すげえカッコいいって思いました」

 第1シリーズで共演した嵐・松本潤(37)についてのエピソードだ。脇は大野智(40)の連ドラ初主演作『魔王』(TBS系・'08年)にも登場。持病のぜんそくで急死する取り立て屋を演じた。

 学園ドラマではないが、昨年のNHK朝ドラ『なつぞら』で、番長を演じた板橋駿谷(36)も役名(ニックネーム)とのシンクロ具合がすごかった。34歳なのに高校生というギャップも話題になり、引っ越し会社のCMもゲット。おそらく、あのCMを見る人の多くが「あ、番長だ」と叫んでいるに違いない。

木下ほうか

 バラエティーでの役名が定着してしまったのが『スカッとジャパン』(フジテレビ系)の“イヤミ課長”こと木下ほうか(56)だ。

 弱きをいびり、強きに媚びる裏表のある役を毎週のようにやっているうち、もともと得意だった芸風がさらに揺るぎないものに

 昨年『七人の秘書』(テレビ朝日系)にゲスト出演したときも、警視総監にへつらいながら、部下の犯罪をもみ消したりする警務部長の役だった。

 一方、私生活では熱心な献血活動でも知られ、骨髄バンクのドナー登録までしている。そのきっかけについては、こんな過去も明かした。

「大学時代に同じ演劇科の同級生だった女性と4年間付き合っていたんですけど、のちに彼女が『急性骨髄性白血病』で亡くなってしまって……。まだ29歳という若さでした」

 役柄とは対照的な秘話。こういう素敵な「裏表」もある人なのだ。

作品のおかげで、一気に生きやすくなった

 1度見たら忘れられない顔、それも役者にとっては大きな武器だ。昨年亡くなった斎藤洋介さん(享年69)も“モアイ顔”と呼ばれた独特の風貌で怪演を連発した。出世作は『1年B組新八先生』(TBS系・'80年)での美術教師役。'90年代には、野島伸司が手がけたドラマで重宝された。

1度見たら忘れない、顔のインパクトが強烈な嶋田久作

 似たタイプに、嶋田久作(65)がいる。'88年公開の映画『帝都物語』では「魔人・加藤」役で、絶大なインパクトを与えた。

 そんな“顔が命”系の個性派たちに最近加わったのが、女優・どんぐり(60)だ。若いころに抱いた芸人への憧れを断ち切れず、50歳で吉本興業の養成所に入所。

 その後、芝居の道を志し、'17年に公開された映画『カメラを止めるな!』でブレイクを果たした。

 監督はこの映画で“生きづらそうな人”を出演者に選び「みんなの次につながるように」と脚本を書いたという。

実際、あの作品のおかげで、私は一気に生きやすくなりました。ずっと、生きづらかったですよ。背が低くて、目が小さくて、声はこんなんやし。自分の声を初めてテープで聞いたときは愕然として受け入れられなかったです」

 と、本人も感謝しきり。いまや、その顔や声が何よりの持ち味だ。

『ふぞろいの林檎たち』の谷本綾子役でブレイクした中島唱子

 そんな女優は、ほかにもいる。『ふぞろいの林檎たち』(TBS系・'83年)でデビューした中島唱子(54)だ。きっかけは「容貌の不自由な人を募集しますというオーディション

 その後、ダイエットもしたが、庶民的な芸風は健在だ。『渡る世間は鬼ばかり』(TBS系)でも長らくレギュラーを務めている。

 また、片桐はいり(57)も独特なルックスと存在感で長年、活躍中。年末に公開されたのん(元・能年玲奈)の主演映画『私をくいとめて』にも出演している。

 ちなみに、片桐が注目されたのはコンタクトレンズのCMだった。CMはインパクト重視なので、個性的な容姿やキャラの役者にとっては登竜門的なところがある。英会話学校のCMで流暢に英語を話す“鈴木さん”を演じた山崎一(63)、引っ越し会社のCMキャラで「勉強しまっせ♪」と印象的な歌を歌った徳井優(61)らが代表格だ。

 最近では、元キングオブコメディの今野浩喜(42)もCMに救われたひとりだろう。相方の不祥事でコンビを解散したあと、俳優業が中心になった。消費者金融会社のCMで、大地真央に「今野!」と呼び捨てされ続けることの宣伝効果はかなり大きい。刑事モノではやたらと見かける印象だが、本人はこんな希望も。

「刑事ドラマでいうと全ジャンルを網羅していて。刑事役、殺される役、殺人事件の犯人、犯人だと思わせる役、とか(笑)。だから刑事ドラマなら刑事の上役とか、ちょっとふてぶてしい感じの役をやってみたいですね

“本当のスター”の脇で

荒川良々

 もしかしたら“事件顔”とでもいうものがあるのだろうか。その点では、荒川良々(46)も似たタイプかもしれない。ただ、どちらも小太りキャラを振られがちだが、荒川の場合、丸顔によるイメージが先行してしまっているようだ。

 '15年公開の映画『予告犯』で犯人グループのひとり・メタボを演じた際には、監督が「太っていなかったことにビックリしました(笑)」と現実の姿に戸惑ったほど。腹部に綿を巻くなどの工夫をしたという。

 さて“顔が命”系のラストは黒田勇樹(38)。美少年だが、どこか妖しい顔立ちで、ドラマ『人間・失格~たとえばぼくが死んだら』(TBS系・'94年)などで異彩を放った。

 その後、有名子役だった人にありがちな自分探し的葛藤にハマり、いったん引退してバイト生活を経験現在は監督や脚本、美術もこなすマルチクリエイターとして活動中だ

 現在放送中の朝ドラ『おちょやん』に出演の楠見薫(53)。初登場した日にはネットで「待ってました!」という声が飛んだ。役柄は、ヒロインを指導する女中頭。実は彼女、『あさが来た』('15年)や『わろてんか』('17年)でも女中を演じている。朝ドラの女中といえば、この人なのだ

 そんなひとつの役を極めている人はほかにもいる。『SP 警視庁警備部警護課第四係』など刑事モノで主役の同僚などを得意とする野間口徹(47)もそうだ。そういう姿を見慣れているため、5年前に車のCMで高畑充希(29)を相手にめんどくさい男を演じていたときは新鮮に感じたものだ

田中要次

 かと思えば、たったひと言のセリフで20年近く生き残ってきた人も。ドラマ『HERO』(フジテレビ系・'01年)でバーのマスターを演じた田中要次(57)だ。何を注文されてもあるよ!」と答える姿で一躍注目された。

 本人は一瞬、スターになれたと感じたようだが、テレビではこんな思い出話も。

「木村(拓哉)さんと松(たか子)さんが店の中で撮影しているところを、何十人ものファンが外からのぞき込んでるのを見て、こういう人たちが本当のスターなんだと思い知りました(笑)」 

 最近は『ローカル路線バス乗り継ぎの旅Z』(テレビ東京系)でもおなじみ。宿泊交渉をしてうまくいったときに、旅のパートナーたちに向かってあるよ!と言うのがお約束になっている

 田中ほどでなくても、大ヒット作で当てた一発は大きい。『101回目のプロポーズ』(フジテレビ系・'91年)で武田鉄矢扮する非モテ男の恋敵だった長谷川初範(65)も、その余韻でおいしい思いを味わった。

 この作品ではカッコよくピアノを弾いたが、その後、朝ドラ『純情きらり』('06年)でもヒロインにピアノを指導する役で登場。実は、名前の音読みがショパンになることから、芸名を“長谷川ショパン”にしていた時期もあり、実際に音楽好きなのだという

唯一無二の個性で存在感を示す脇役たち

 昨年『半沢直樹』(TBS系)で国交大臣を演じた江口のりこ(40)も、そのうちまた政治家の役が来るかもしれない。誰でもこなせるわけではない目玉的な役どころを任されるのは、バイプレーヤーとしてのキャリアと実力のたまものだ。

『半沢』を生んだ日曜劇場枠は、クセの強い作品が多く、そのためか、個性的な脇役も重用されている。そこでイメージチェンジに成功したのが、徳重聡(42)だ。『下町ロケット』('18年)で無愛想なエンジニアを怪演。“21世紀の裕次郎”として世に出て以来の好青年路線から脱却することができた

 というのも、この人、石原プロ伝統のアクション路線にはそれほど興味がなかったらしい。デビューに向けて3年半もかけ、さまざまな免許を取得させられたことをテレビで愚痴ったことがある。

「普通免許しか持ってなかったんで、単車とか、大型のトラックとかバス、あとは船舶の1級。(略)でも賞金1億ももらっちゃったんで、とても返せないな、と思ってやめられなかったんです

『牡丹と薔薇』で“ボタバラ旋風”を起こした小沢真珠

 イメチェンといえば、小沢真珠(43)もそう。昼ドラ『牡丹と薔薇』(フジテレビ系・'04年)でのいじめ役が転機となった。容姿も派手だし、ドラマチックな世界が合うのだろう。

 ほかに渋いバイプレーヤーといえば、大倉孝二(46)や橋本じゅん(56)といった人も。なにせ、人間以外もこなせる芸達者だ。

 昨年、大倉は『妖怪シェアハウス』(テレビ朝日系)でぬらりひょんを、橋本は朝ドラの『エール』で閻魔大王を演じた。

 橋本にいたっては、同じ『エール』に5か月後、演出家の役で再登場する神出鬼没ぶり。はたして、気づいた人はどれくらいいただろうか。

 主役ではなくても、その名前にピンとこなくても、唯一無二の個性で存在感を示す彼らがいてこそ、ドラマや映画は面白いのだ

寄稿:宝泉薫(ほうせん・かおる)アイドル、二次元、流行歌、ダイエットなど、さまざまなジャンルをテーマに執筆。近著に『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)