新型コロナウイルスの感染拡大や緊急事態宣言の再発令で、病院に行くのをためらいがちな現在。そんな状況を受けてオンライン診療の拡充が進められているが、実は懸念点も多い。気軽で便利じゃすまない、知っておくべきリスクを解説します。

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実施しているのは2割以下対面診療の補完的存在

 コロナ禍の外出自粛や感染防止の観点から、オンライン診療に注目が集まっている。昨年4月末には約1万か所だった実施医療機関は、半年で約1万6500か所に増加。医療機関の約15%が電話・オンラインでの診療に対応できるようになった。そもそも、オンライン診療とはどのようなものなのか。

「パソコンやスマートフォンのビデオ通話機能を活用し、遠隔でも診療が受けられる受診方法です。遠隔診療自体は、1990年代後半から離島や僻地(へきち)を対象に実施されていましたが、2015年に対象地域を限定しないと厚生労働省が発表しました。2018年の本格的な導入を経て、昨年の4月から時限的に特例の措置が実施されています。“画面を通じて患者と医師が顔を合わせること”が基本ですが、現状は電話を通じた遠隔診療が約8割を占め、オンライン診療の一部と解釈されています」(医学ジャーナリスト・植田美津恵さん、以下同)

 オンライン診療には、移動時間や待ち時間の短縮、24時間予約可能な点や、新型コロナウイルスなどの感染リスク軽減、自宅でリラックスした状態で受診できるなど、メリットも少なくない。しかし、コロナ禍における緊急措置として拡大を推し進めたため、受診の目安や診療方法、料金面などの厳格な法整備がないまま見切り発車した感が否めず、懸念点や課題も残る。

「原則として再診での利用が望ましいとしているものの、初診で受診できる場合もあり、その基準も曖昧(あいまい)。通院の手間が減るのは助かりますし、受診方法の選択肢がひとつ増えたという点ではいいと思います。しかし、ルールが明確化されないなかでは、誤診などの不安はぬぐえません」

 新型コロナの感染リスクを下げられても、大病を見逃されたら元も子もない。診療の選択肢に加える前に、オンライン診療のリスクを知ることから始めよう。

【オンライン診療の流れ】
(1)オンライン診療を行っている病院を探す
 厚生労働省のホームページには都道府県別の一覧が掲載されている。
(2)「オンライン診療アプリ」を使って予約をとる
 病院によってアプリが異なるので、電話で確認後インストールする
(3)オンライン診療を受ける
 スマホやタブレットでアプリを起動し、ビデオ通話で行う
(4)クレジットカードなどで会計を行う
 支払い方法は振り込みなど、病院によって異なる。
(5)領収書と処方箋が届く
 院内処方の場合は、薬が直接送られてくる。

オンライン診療の5大リスク

 医療に対する信頼は担保できるのか? 注意すべき不安材料や懸念点を解説します。

【誤診】診断材料が少なく病気の見落としも

 オンライン診療と対面診療の大きな差は、判断材料になる情報の量と質にある。
「対面の場合、医師は本人の症状の訴え以外にも、病気を診断するための情報を多方面から得ています」

 診察室のイスから立ち上がるときの動作はもちろん、ニオイや呼気の様子など、医師は五感を使って患者を観察し診断材料にしているが、オンラインだと本人からの説明だけで判断しなればならない。

「例えば、顔にできものや腫れなどが見られる場合、対面なら“念のため全身を”と、その場で背中やお腹などをすぐに確認でき、触診や組織をとって調べることも可能ですが、オンライン診療だと“服を脱いで全身を”ということすら対面に比べて行いづらい。情報が少ない分、診断ミスや病気を見落とす可能性はあります」

【重篤化】診察のタイミングが遅れて命の危険に!

 オンライン診療の予約を待つ間に、症状が進行してしまう心配はないのだろうか。

じんましんなど罹患(りかん)したことがある病気なら、“少し時間があいても大丈夫”と思いがちですが、自己判断は禁物。気管支にじんましんが出ると、呼吸困難に陥ることもあります。新型コロナウイルスでも、自宅療養者の急変が報道されたりしていますよね。病状に異変を感じたら、すぐに近くの病院を受診するか、救急車を呼ぶべきです」

 糖尿病などで状態が長年安定していても、食事の量などが影響し低血糖で意識障害が起きることも。慢性疾患で薬の処方だけだからと、油断するのは禁物!

【ニセ医師】医師の本人確認は法整備されていない

 現状ではオンライン診療時に、医師の資格および本人確認を求める規定はなし。日本医師会は、顔写真が貼付してある「HPKIカード(医師資格証)」をオンライン診療時に提示することを提案しているが、ルール化されていないので気がかりだ。

「“なりすまし医師”の報告はまだありませんが、かかりつけの医師が多忙で対応できず、代わりに研修医が診察する可能性はあると思います。知らない先生が画面に現れた場合は、何を専門にしているか、病気の既往歴を理解しているかなど確認しましょう。フルネームを聞いておけば、診察後にインターネットで情報検索もできます」

 初診の場合は、オンライン診療の前に、医師の名前と顔写真をクリニックのホームページで確認することを忘れずに。

【加算料金】対面診療にはないシステム利用料がとられる

 対面もオンラインも保険適用内の診療であれば医療費は同額。しかし、オンライン診療には、「予約料」、「システム利用料」などとして、病院が数百円~千円前後、徴収することが認められている。問題は、料金設定が病院にゆだねられていることだ。

「サービス料的な感覚だと思いますが、制度として金額が設定されていないので、病院によって差があります。加算料金をとっていない病院もあるので、納得して受診するためにも、事前に確認しましょう」

【プライバシーの侵害】家族に知られたくない受診がバレる

「家族で同じパソコンやタブレットを使っている場合、履歴やアプリの存在で、秘密にしておきたかった受診が知られてしまうことはあると思います。個人のスマートフォンを使えばリスクは減らせますが、自宅でオンライン診療を受ける際は、ひとりのときを選ぶなどの対策も必要ですね」

 心療内科の受診やアフターピルの処方、薄毛の治療など、病院からの郵便物で知られるのが心配な場合は、“わからないように送ってください”と伝えれば、病院名を出さずに送付してもらえる場合もある。

オンライン診療の不安解消Q&A

 いざ、オンライン診療を受けるときに困らないためのポイントを紹介します。

Qどんなとき、オンライン診療が受けられる?
A:すぐに生死にかかわるものでなければ、ほぼ可能です

 アトピーなどの皮膚疾患、精神疾患、糖尿病・高血圧などの生活習慣病、花粉症など慢性疾患で定期的に受診しているもの、風邪や便秘、腰痛など日常でよく起こる病気もオンライン診療が受けられる。

「緊急性があったり、ケガのように外科的な処置が必要なものは以外は利用できます。ただし、原則として再診。現状では初診はできるだけ避けることになっているので、事前にオンラインで受診が可能か電話確認してから予約を入れましょう」

【症状と受診の可否】
・風邪症状(頭痛、発熱、せき、鼻水)(○)
・アトピーなど慢性的な皮膚疾患(○)
・高血圧症など生活習慣病(○)
・腹痛(○)
・便秘(○)
・生理痛(○)
・不眠(○)
・目の充血、かすみ、かゆみなど(○)
・耳の痛み、かゆみなど(○)
・うつなど精神疾患(△)……症状が安定していれば利用可能
・急な発疹(△)……過去に同じ症状の経験があれば利用可能
・ヤケド(△)……程度による
・めまい(△)……単独の症状なら利用できる場合も
(※植田さん監修)

Qオンライン診療を行う病院の上手な選び方は?
A:電話でオンライン診療に積極的かリサーチ

 まず、病院のホームページで先生のプロフィール、オンライン診療の手順や料金について丁寧に説明しているかをチェック。そのうえで「直接電話をかけるのがいちばん。受付の人の対応のよしあしは、大きな判断材料になります。オンライン診療に力を入れているか、慣れているかもわかるはず」。加算される料金の有無や支払い方法の確認も忘れずに。

Q慢性疾患なら、ずっとオンラインでOK?
A:半年に1回は対面診療を受けるべきです

 高血圧などで同じ薬を長年飲んでいても、オンライン診療のみを続けるのは危険。
「気づかないうちに病状が悪化することもあるので、少なくとも半年に1回は対面で病状を詳しく診てもらいましょう」

 一方で、かかりつけ医を見直すのに、オンライン診療を活用してもいい。

「同じ症状でも、医師によって判断が違うことはよくあります。別の薬を試したり、薬を減らしたりすることで症状が改善されることも。オンライン診療がセカンドオピニオンのチャンスになります」

Q地方在住でも、東京の病院のオンライン診療を受けられる?
A:受けられます。ただし、通院する可能性もある

 遠方からでも診療を受けられるのはオンラインのメリット。“テレビで見かけるあの医師に診てもらいたい”という動機で受診してもいい。

「電話やメールで全国からの健康相談を受け付けている病院はあるので、選択するのは自由です。ただし、そのクリニックで対面診療が必要になる可能性があることも忘れずに。何かあったとき、遠いから行けないのでは意味がありません」

Q好きな場所で受診できる?
A :インターネット環境があれば基本的にどこでもできます

 パソコンやタブレット、スマートフォンを介したインターネット環境があれば、自宅以外で受診しても問題なし。

「ただし、診察しやすい場所でなければいけません。静かで明るい場所、服を脱いで患部を見せられる場所など、対面診療と同様の環境が必須です。電波状況が良好かどうかも事前に確認しておきましょう」

 また、オンライン診療前には、保険証、おくすり手帳、診察券など、通院時と同じものを準備するのも忘れずに。

Qどこまで患部を見せられる?
A:医師の指示なら、お尻を見せても問題なし

 画面の前で胸やお腹を出すのは、少し恥ずかしい気持ちもあるけれど……。

対面診療と同じように、患部をしっかりと画面に映してください。医師の求めがあれば、どこを見せても問題ありません。耳の中など、照明や画質の関係で患部が見えづらいときは“やはり病院に見せに来てください”と対面診療をすすめられる場合も考えられます」

Q本人の代わりに、オンライン診療を受けられる?
A:受けられない。代理受診は診断ミスの原因になります

「対面診療で本人がいないと受診できないのと同様、基本的にオンライン診療も本人が画面上にいなければいけません。家族が代わりにできるのは、オンライン診療のための設定をし、予約を取ってあげるまでです。

 本人に症状を聞いて、代わりに受診すると、症状が間違って伝わる可能性があり、誤診につながります。例えば、遠方に住んでいて直接手伝えない場合は、高齢者向けにサポートをしている自治体やNPOもあるので活用を」

(取材・文/河端直子)

《PROFILE》
植田美津恵 ◎医学博士。医学ジャーナリスト。愛知医科大学客員教授。東京通信大学准教授。厚生労働省研究班委員なども務め、テレビや雑誌などメディアでも活躍する。著書に、『戦国武将の健康術』、『いつか来る、はじめての「死」』など。