“かかったら寝たきり”のイメージが強い「難病指定」でもあるパーキンソン病。しかし、その発見が早ければ早いほど、数年は普通に社会生活が送れるまでに医学が進歩している。遺伝や生活習慣にかかわらず、誰もがかかる可能性があるからこそ、病に対する正しい知識と判断力を養おう。

パーキンソン病の発症を告白したみのもんたさん

 かつては、豊かな表情、張りのある声、大きな身振りで、ぐいぐいテレビ番組を仕切っていたみのもんたさん。そんな彼が、2020年11月、『週刊文春』で実はパーキンソン病を発症していたことを告白した。

 そういわれてみれば、降板直前の『秘密のケンミンSHOW』でのみのさん、ぼんやりとした表情で、身体の動きもあまり見られず、「らしくないな」と感じた記憶が……。あれもパーキンソン病の症状だったのだろうか? 脳神経内科クリニック院長として多くの患者を診察してきた霜田里絵先生に話を聞いた。

「直接診察したわけではないので断言はできませんが、表情が乏しかったり自然な身体の動きが減ってしまったりといった症状は、パーキンソン病の方によく見られますね」

薬や手術で完治は不可能だが

 そもそもパーキンソン病といえば、国によっては「指定難病」とされており、「治らない」「いずれ寝たきりになってしまう」というイメージだ。

「確かにパーキンソン病は、薬や手術で根本的に治すことはできません。ただ、がんのように病気そのものが原因で亡くなることは少ないです。また、現在は治療法がずいぶん進歩しています。ずっと薬を飲み続ける必要はあるけれど生活の質を保ちながら、普通の生活が送れるようになっています。病気に立ち向かう手立てがある、まずそのことをみなさんに知ってほしいですね」(霜田先生、以下同)

 もし自分や身近な人が「パーキンソン病では……」となったとしても、むやみにパニックになったり深刻になったりせず、きちんと治療を受けたいところ。まずはその症状や最新の治療法などについて知っておこう。

最も特徴的な症状

 パーキンソン病は、どんな病気なのだろうか。

「脳の黒質という部分の神経細胞が減っていく病気です。それにより、黒質で作られるドーパミンという神経伝達物質が少なくなります。その影響で、脳からの信号が伝わりにくくなり、身体の動きでうまくいかないことを中心としていろいろな症状が出てくるようになります」

 最も特徴的な症状は「動作がゆっくりになる」「手足が震える」「手足や体幹がこわばる」の3つ。

「こわばりについては医師が触診しないとわからないかもしれません。それ以外の、動作がゆっくりになった、手足の片方が震えるようになったということで『おや?』と思って脳神経内科などにいらっしゃる方が多いですね」

別の病気の可能性もある

 そのほかパーキンソン病の人によくある症状としては、「数年前から、においに鈍感になった」「便秘や頻尿になった」「眠れない」「気分が落ち込む」といったものもある。

「いつもと違う症状があれば、簡単でいいので、それがいつから始まったのかメモしておくと診察に役立ちます

【初期症状でわかるパーキンソン病チェックシート】
※特に最初の3点は典型的な症状なので、「おかしい」と思ったら脳神経内科へ。
□動作がゆっくりになった
□手足が震えるようになった
□手足などが動かしづらい
□転びやすくなった
□40代、50代なのに動きが高齢者っぽい
□においに鈍感になった
□便秘、頻尿がある
□なかなか眠れない
□声が小さくなった
□気分の落ち込みや不安がある
□幻覚や妄想などの症状がある

 もちろん、こうした症状がある人すべてがパーキンソン病とは限らない。

「パーキンソン病に似た症状の、別の神経性の病気もあり、効く薬がなかなかなくて治療に苦労することも。それから、脳梗塞など、ほかの病気が原因で症状が起きることもあります。頭部をMRIで撮るなどして、ほかの病気の可能性がないかもしっかり確認しなくてはなりません」

 ほかの病気がないとなると、パーキンソン病の可能性が高まってくる。

「以前は、とりあえずパーキンソン病の薬を使ってみて、明らかに効果が出れば“これはパーキンソン病ですね”と診断していました。ただ、ここ数年は、MIBG(心筋シンチグラフィー)やDATスキャンといった機器を使って、より確実に診断ができるようになっています

【パーキンソン病と診断されるまで】
〈症状〉動作がにぶい+こわばりやふるえがある

1〈パーキンソン病と診断される例〉
・ドーパミン補充の薬が効く
・においがしない
・DATSCANなどの画像検査で異常がみられるなど
 ↓
症状のほか、薬の効き具合をチェック。画像診断で心臓の交感神経の働きの低下や、脳のドーパミンの働きに異常がみられると確定診断が下される。

2〈パーキンソン病除外の例〉
・薬によるパーキンソン病に似た病状
・3年以上続く下肢のみの病状
・小脳の障害など
 ↓
脳血管障害や脳腫瘍、頭部のケガの後遺症などでも似たような症状が出る。また、症状はパーキンソン病にそっくりなのに、薬が効かないパーキンソン病関連疾患もある。

普通に生活を送るためには早期発見がカギ

 がんなどもそうだが、「深刻な病気かも……」と思うと、真実を知るのが怖くて、つい受診をためらってしまう人も多い。

「パーキンソン病の症状のレベルは1から5まであって、いちばん軽い1、2のあたりで治療をスタートすれば、最初の数年は普通に過ごせます。私が担当する患者さんでも、会社の同僚や家族にさえも気づかれずに何年も過ごしている方がいらっしゃいますよ。

 ただ、歩くのに介助が必要な段階になってしまってからの治療スタートですと、そこまで劇的には改善しません。“おかしいな”と思ったら、早めに脳神経内科で受診し、治療をスタートすることをおすすめします」

【パーキンソン病の重症度】
(ホーン・ヤールの重症度分類)
【1度】片側のふるえやこわばり
身体の片側だけに手足のふるえや筋肉のこわばりがみられる。身体の障害はないか、あっても軽い。
【2度】両側のふるえやこわばり
両方の手足のふるえ、両側の筋肉のこわばりなどがみられる。日常の生活や仕事がやや不便になる。
【3度】手足が動かしにくい
小刻みに歩く、すくみ足がみられる、方向転換のとき転びやすくなるなど、日常生活に支障が出るが、介助なしに過ごせる。職種によっては仕事を続けられる。
【4度】歩行が難しくなる
立ち上がる、歩くなどが難しくなる。生活のさまざまな場面で、介助が必要になってくる。
【5度】身体がほぼ動かない
車イスが必要になる。ベッドで寝ていることが多くなる。

(※武田篤(柏原健一ほか編) 『みんなで学ぶパーキンソン病』より)

達成感、幸福感でドーパミンを増やす

 パーキンソン病と診断されると、薬を飲むという形で治療がスタートする。

「それと並行してしっかりリハビリをすると、その後の経過がいいというデータが多く出てきています。医師や理学療法士の指導のもと、リハビリを頑張りましょう」

 ただし、いつまでも“薬が効く”とは限らない。

「発症して3年~10年は薬がよく効きますが、その後は薬が効く時間が徐々に短くなっていきます。突然、薬の効果が切れて、身体が動かなくなったりすることも……」

 ドーパミンの治療が長期になると、薬が効く時間が短くなり動けなくなったり(ウエアリングオフ)、薬のせいで勝手に手足が動いてしまうジスキネジアなど運動合併症が起きるようになるという。

 突然トイレで動けなくなったまま、家族に発見されるまで1日かかり、脱水を起こしてしまって救急搬送されるようなケースも。

「そういった事態を防ぐため、服薬と並行して、デバイス(装置)を身体に取りつける治療法をおすすめすることがあります。症状が悪化してからではなく早めに始めたほうが、結果的にその後、長くよい状態で過ごせます」

 薬、リハビリ、デバイス治療のほかに、病気の進行を少しでも遅らせるような生活の工夫はあるのだろうか。

「積極的な気持ちを持って生活している患者さんは、進行が遅い印象ですね」

 パーキンソン病は遺伝性もほぼなく、原因がはっきりしていないため、確実な予防法・治療法はない。ただ、ドーパミンの減少を防ぐような生活習慣を心がけると症状の進行を遅くできる可能性がある。

 例えば、運動をしたり、好きなことに打ち込んだり、何かを成し遂げたりすると、幸福感が得られ、やる気を高める物質であるドーパミンの分泌が増えるといわれている。好きなこと、やりがいのあることに打ち込みながら病気と闘い、よりよい治療法が生まれる日を待ちたいところ!

〈まとめ〉治療はリハビリと両輪で

【外科療法】脳を刺激するデバイス補助療法

 脳の深部に手術で電線を挿入し、その電線で弱い電気信号を送って脳を刺激する方法(脳深部刺激療法)。薬だけでは症状を改善するのが難しい、薬の効く時間がどんどん短くなってくる、といった場合に検討される方法。特殊な技術を要するため、限られた病院で実施されている。

【服薬】ドーパミンを薬で補う

 運動機能に関する症状を改善するため、ドーパミンの働きを補う薬を中心に服用する。飲み薬のほか、症状によっては貼り薬や自己注射を使うことも。アメリカではオフになったときにとっさに口にできる舌下薬が開発されている。

【経腸療法】腸から直接薬を入れるデバイス補助療法

 専用ポンプをお腹に取りつけ、チューブを使って薬剤を腸へ直接、持続的に送り届ける方法。薬剤の吸収部位である小腸に直接送り届けることで安定した吸収が可能となる。飲み薬や貼り薬では十分な効果が発揮できなくなり、日常生活を送ることが難しくなった場合に使う。

 現在、研究開発が進んでいるのが、iPS細胞を使った治療法。iPS細胞からドーパミンを出す神経細胞を作成し、患者の脳内に移植するというものです。パーキンソン病を「治せる」ようになるのではないかと期待されています。(霜田先生)

パーキンソン病の悪化を防ぐ4大アクション

●自分のことは自分で!
 家族が心配のあまり、「危ないから」となんでもかんでもサポートしていると、筋力が衰え、症状がどんどん進んでしまう。自分のことはできるだけ自分でやることが大切。

●働き続け、趣味を持つ
「定年まで働き続けたい」「趣味を極めたい」と強い気持ちを持っていると、日々の行動も活発になる。それが症状の進行を遅らせることにつながる。

●旅行など楽しい目標を
「毎年必ず家族旅行!」などと楽しい目標を持つことで、その目標を達成するためにリハビリなどの治療も頑張れる。

●毎日動き、筋肉をつける
意識して運動をしないと、運動不足から筋肉や関節が衰えがち。罹患初期から運動を習慣にしたい。ただし、ケガなどしないよう、医師からアドバイスをもらうこと。

※参考/パーキンソンスマイル.net

(取材・文/鷺島鈴香)

《PROFILE》
霜田里絵 ◎銀座内科・神経内科クリニック院長。順天堂大学医学部大学院にてパーキンソン病の研究で医学博士号取得。脳を専門とする脳神経内科医として活躍。著書に『「美人脳」のつくりかた』(マガジンハウス)、『絶対ボケない頭をつくる!』(学研パブリッシング)など。